例えば、こんな遠キョリ恋愛。~彦星なサラリーマンに捧げる愛の詩~
遠距離恋愛をしている、そこの貴男へ、身に覚えな無いですか?
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ダンッ、ダンッ、ダンッ
包丁を振り下ろす。
断っ、断っ、断っ
飛沫が顔にかかる。
だんっ、だんっ、だんっ
まな板の上に転がるのは、肉屑……。
「織姫って、マジで性格いいよね。」
肉屑では無く、野菜屑を、鍋に放り込むと火にかける。
油を回しかけ、木べらでぐしゃぐしゃと混ぜていく。
「彦星を信用できるなんて。」
一人暮らしの狭い台所。換気扇の小さい明かりを頼りに、魔女のように木べらを混ぜていく。
硬い野菜も、油が回りゆっくりと柔らかくなって、じわりと水が滲んでくる。
トマトのホール缶をぼとりぼとりと入れていく。
ダンッ、ダンッ、ダンッ
トマトの塊を潰すように鍋底に打ち付けていく。
木べらを叩きつける度に、赤い汁が、顔にかかる。
口についてそれをペロリと舐めとる。
塩が足らない。
「私なら、彦星のイチモツ、微塵切りにして、ぐしゃぐしゃに潰して、食べさせてやるのにな。」
そう、例えば、原型もわからないように切り刻んで、ミネストローネに入れてもいいし、餃子にしてもいい。
人肉饅頭は、陳腐でB級過ぎるけど、美味しい料理にすれば、少しは私の気持ちもすっきりする。
ああ、だけど、
だけど、そんな事はできない。
できないから、
今日も私は、野菜を刻む。
例えば、茄子。
例えば、人参。
例えば、胡瓜
例えば、……大根は無理があるな。
取りあえず、あいつのモノと思いながら、まな板に叩きつけて、刻んで潰していく。
こうやって、出来上がった特製のスープを、あいつに食べさせる。
明日、朝一番の新幹線に飛び乗って。
北国に届けてあげる。
仕事は無理やり終わらせて、恐喝紛いに奪い取った三連休。
嬉しいよね、嬉しいでしょ。
あいつの喜ぶ顔がみたい。
私のスープを、美味しい、美味しいと言って食べる姿が見たい。
私の気持ちがびっちりと入った。
愛憎スープ。
これで、今回は許してあげる。
ああ、だけど、マジで織姫、彦星のイチモツ、握りつぶした事無いのかな。