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第7話 初回収

~side 竜斗~


 あの後、俺らは教室へ行ってクラスメートと顔を合わせ、すぐに体育館で1時間目の始業式をした。

 2時間目は入学式で、新1年生達が入学してきた。その中には琴音の姿もあったようだが、俺は寝てたから知らん。


 2年生になったからといって特に新しい発見もなく、3,4時間目の学活も滞りなく進んだ。


 ……3時間目の学級役員決めで、鈴音が委員長に1人だけ立候補してそのまま決定した、ってことさえなければ良かったんだけどな……。



 今日は始業式のため学校が4時間で終わり、俺は今帰路に就いている。


 鈴音と琴音は、家の用事があるからって言って先に帰り、奏介は他の男子と街へ遊びに行った。つまり1人である。


「フェアル、おとなしく留守番してるかな……」


 俺も早く帰って、家に住みついた妖精が何をしているのかを確認せねばな。


 家に着き、鍵を開けて玄関に入る。


「ふぅ……ただいまー」

「あ、おかえり~!」


 2階から声が聞こえる。おそらく俺の部屋にいるんだろうが、荒らしてねぇだろうなアイツ……。



 俺の家は、玄関から廊下が真っ直ぐ伸びていて、数歩ほど歩くと右手にリビングへのドアがあり、その反対には階段。さらに廊下を正面に進むと、洗面台や風呂、トイレなどがある。

 2階には、1人暮らしのくせにいろいろと部屋があるが、大抵は物置化している。掃除がめんどくさいので、自分の部屋も1つだけだ。



 靴を脱ぎ、階段を上る。そして一番階段に近い部屋のドアを開けると、フェアルが俺の机にあるパソコンの上に座って、両手で一生懸命にマウスを動かしていた。


「いや~、人間の「ぱそこん」ってすごいね! 前に見たことはあったけど使った事はなかったんだ~」


 画面を見たまま、目を輝かせてパソコンを賞賛している。えらく上機嫌だな……。


「なんだ、ずっとネットしてたのか」

「うん。どんなことでもすぐ検索できちゃうなんて、便利だね!」


 やったぞ。俺の部屋を荒らすことより、人間が生み出した文明機器の方に興味を抱いてくれた。ありがとうパソコンを創った人! 学習と仕事と娯楽以外にも使い道はあったんだね!

 よし、これからは、フェアルにはずっとパソコンを触らせておこう。そうしてれば、こいつ関係で問題は起きないはず!

 ……電気代はバカにならんけど。



 人知れずそんな決意をしていると、いつの間にかパソコンをシャットダウンし、俺のベッドに飛び込んでいたフェアルが口を開く。


「なんでこんなに早かったの?」

「始業式っつったろ。明日からは普通に午後に帰るがな」

「ふ~ん。じゃあさ、今からスキル回収に行く?」

「はい? え、もうスキル回収できんの!? 誰かがスキル発動しないと分からないんじゃなかったっけ? てかそしたら混乱起きるんじゃ? そもそも回収方法はぁ!?」


 まさか、こんなにすぐできるもんだったのか!? まだ先だと思って回収の事について全然聞いてなかったわ!


 矢継ぎ早に質問した俺をなだめながら、フェアルは冷静に回答した。


「スキルにはいろんな種類があるって言ったでしょ? だから、発動しても確認できない、自覚できないようなものもあるの」


 ふむ。要するに、俺の武器みたいに形で表れる、なんてことがなかったりするんだな。

 それなら混乱も起きにくいだろうし、フェアルみたいに呑気にしてても良いってことだ。


「午後暇でしょ? それほど急ぎじゃないんだけど、今から回収に行ってみない?」

「おお、もちろんだ」


 最初は楽なスキル回収か。ゲームのチュートリアルかよ。


 俺とフェアルは部屋を出て、初任務となる現場に向かった。




──────────




 小林商店──俺の家から最も近い商店。ちなみにコンビニはもう少し遠い場所にある──で昼食の鮭おにぎりを買ってから、スキルホルダーがいるという目的地へと歩いてきた。


 意外と遠いようで、俺の住んでいる逆側の区・西区にまでやってきた。


 東区・西区といっても、その構造自体は変わらない。広い住宅街があり、そこそこ店があり、公園や遊び場がある。普通の町並みを東西に分けただけで、特に差はない。


 だから、変わり映えしない風景のなかで、やっぱり疑問に思ってしまう。


「……なぁ。本当にこんなのどかな田舎町でスキルなんて発動されたのか?」

「だーかーらぁー、人間じゃ分かんないものもあるって言ったでしょー。妖精だけが波動を感じられるから、こうやって私達が任務をしてるんだよ」


 スキルホルダーにしか見えない状態のフェアルが、現場まで先導している。目の前をふわふわと飛んでいる妖精は俺にしか見えない。それに、姿を消すと、それが見えない人には声も聞こえなくなるらしい。

 他人から見る俺の姿は、宙に向かってブツブツと独り言を言う危ない高校生だ。


 今は平日の真昼なので、周りに人がほとんどいないことが幸いだった。

 この先も、こんな風に周囲に気を配んなきゃいけねぇのか……めんどくさいな。



「スキルの波動が近くなってきた……あ、見つけたよ」


 波動だけを頼りに進んできたフェアルが、道角で向こうの様子を窺い始めた。対象を捕捉したようだ。

 壁に背を向け、首だけを捻って角から出しているその姿は、探偵さながらだ。


 頬張っていたおにぎりを飲み込むと、そのミニ探偵のあとに倣い、同じポーズで角の先を見る。


 すると、40mほど離れたところで、1人の男子がこっちに向かって歩いていた。

 歳は俺より2、3コ下くらいか。俺が通っていた中学の学生服を着ているから、おそらく始業式を終えて帰宅途中の中学生だろう。どこにでもいそうな普通の男子中学生である。


「あいつがスキルホルダーなのか」

「うん。スキル『挑戦勇心(チャレンジブレイブ)』の持ち主だね」

「どんな能力なんだ?」


 効果が人間には分かりにくいって言ってたけど、それにはどんな種類があるんだろうか。


「……挑戦心が強くなるスキルだよ」

「……へっ?」

「んじゃ、今からスキル回収するからよく見ててね~!」


 軽く俯いてボソッと呟くと、急に元気に言い放ってあの男子のもとへ飛び去るフェアル。


 ……なんだ? 今、すごいくだらない効果の説明が耳を通ったような気がしたんだが……。

 それを問いただす暇を与えずに、半ば強引に回収しに行ったのも怪しい。


 いや、でもスキルを聞くことなんて後でもできるから、今はスキル回収の方に集中しなければ。

 これから先、俺も仕事を手伝うんだ。回収方法を知っておいて損は無いだろう。


 こっそりと飛んでいった──今の「条件」だと、スキルホルダーである男子中学生には見つかっちまうから──フェアルに目をやる。ちょうど、男子中学生のいる場所に到着するところだった。


「じゃ、いくよー」


 フェアルは両手を男子の頭の上にかざすと、目を閉じて集中する。

 その数瞬後、2人の周りの空間が歪んだ。景色がぐにゃぐにゃと曲がったり伸ばされたり、とても現実味があるような光景とは言えなかった。


 よく見ると、頭からフェアルの両手へ、何かが引っ張られているような歪み方をしている。今まさにスキルを抜いている途中なのか?


 しかしその歪みもすぐに消え、フェアルはぱっと離れて短く溜息を吐く。

 スキルを回収されたと思しき男子中学生は、その場にドサリと倒れ伏す……って倒したらダメだろ!?


「おい、何やってんだ!? 危害加えたりしてんじゃねぇよな!?」

「あ、大丈夫だよー。ただ気を失っただけだから」


 俺がその場に駆け寄ると、フェアルは男子の真上を浮かびながら、その体を指差した。見ると、胸は落ち着いた正しいリズムで上下している。


「てか、どうすんだよこれ……。倒れたまんまじゃねぇか」

「貧血ってことにしとこう」

「軽いな!?」

「誰も見てないし逃げちゃおうよー」

「……めんどいことにはなりたくないから逃げるけど、なんかすげぇ罪悪感……」


 そう言いながら、俺らは小走りでそこから離れていった。




 東区に入ったところでようやく足を止め、落ち着いて話をすることにした。


「まず回収の事について言いたい事があるんだが」

「何~?」

「……俺、いらなくね?」

「…………」


 だってさ、回収って言ったって、結局フェアルが一から十まで出来てんじゃん。しかも数秒で。全然苦労してるようにも見えないし。


 フェアルは笑みを浮かべている。俺から視線を逸らして冷や汗を流しながら。

 さらに俺は、畳み掛けるように質問を重ねる。


「あとさっき言ってたスキルの説明なんだけど、『挑戦勇心(チャレンジブレイブ)』、だっけ?俺の思ってたやつと全然違うんだけど……」


 『スキル』って聞いたら、誰しもがカッコいい技とか能力を連想するじゃん?

 何だよ挑戦心って。使っても分かりにくいって、こういうことだったのか?


「……その名のとーり、物事にチャレンジする時に、決断力とか勇気が上がるスキルですハイ」

「まさかさぁ、たくさんスキルがあるって言ってたけど、そんなんばっかじゃないよね……?」


 心が強くなるとかそういう地味なスキルがこの世に溢れてて、俺が楽しみにしてるバトル系のスキルが少しとかだったら、もう泣けるよ?


 フェアルは涙目で、ぷるぷると震えながらいまだに目を逸らし続けている。


 だがそれも限界になったようで、浮いてたフェアルは急降下すると、地面に突っ伏して泣き叫びだした。


「そーですぅ、その通りです~~! 世界にはもっとくだらない効果のスキルが満ち満ちていますー! 騙してたみたいでスイマセンでしたぁーー!」


 嘘を見透かされた子供のように、泣いて白状する小さな妖精。

 問い詰めたいのは山々だが、こうも大泣きされると怒るよりも同情してしまう。


「いや俺も責める気は無いんだけど、流石にそれは悲しいかな~って。はは……」

「ううぅ、ごめんね……。スキル回収を手伝ってくれるお人よしってなかなかいるもんじゃないから、モチベーションを上げるためにちょっとだけ事実を誇張しちゃったんだ」


 なるほどねぇ……。俺ら中二病患者は、恰好の餌食だったって訳だ。


「でもさ、俺を釣ったって意味ねぇんじゃねぇか? スキル持ってても回収には役立てそうにないし」


 しかしフェアルは、急に起き上がって卑屈になった俺の眼前に詰め寄ると、説得するように言い出した。


「それはないよ! 本当にリュウトみたいな戦闘役は必要なんだ! 確かに少ないけど、暴走する戦闘系スキルホルダーはいるの。その人間のスキルを回収するには、一回は倒して無力化させなくちゃいけないんだ。だから、同じく戦えるスキルホルダーがいないといけないの」


 そうは言っても、やっぱ相手が少ないんじゃあやる気も出ないんだよなぁ……。


「そういう機会が早く訪れる事を祈るかな。あんまり期待しないけど」

「うっ……そう卑屈にならないでよ~!」


 とぼとぼと歩き出す俺を慰めながら、フェアルは俺の周りを飛ぶ。


 はぁ……そう簡単に、退屈な日常は変わらないな。

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