第5話 『武器召喚』
説明回ばっかりだとつまんないですね・・・w
~side 竜斗~
……俺が、スキルホルダー?
「その様子だと言ってなかったんだねー。もう自分が何を言ってないのか分からなくなっ」
「ぃよっしゃああああ~~~~~~!!!」
「うひゃあっ!?」
両手を握りしめ、高々と掲げる俺!
え、嘘、マジで!? 俺がスキルを使えるの!? 信じらんねぇー!
うん確かに言われてないけど? お前にスキルは使えないって言われたわけじゃないのは、さっき確認してたから、俺はスキルを使えないって断言はできなかったよ?
でもさ、あんなに厳しい現実を突きつけられたら、俺みたいな凡人は未来永劫無理だって思っちゃうじゃん普通! 中二病は卒業したから、スキルを使えるとかって妄想はしないし!?
でも、実はスキルを持ってる選ばれし者だったのか!? やべぇ今日で一番嬉しいぞこの事実!!
……いや、落ち着け俺。まだ「スキルを使える」としか言われてない。
スキルにはたくさんの種類があるって言ってたから、きっとこんな俺に宿ってるのは大した事ない貧弱なスキルなんだ。そうだ、そうに違いない。
……ダメだ、そんなんで落ち着けねー!
取り敢えず聞くしかないな。……ホントに弱いスキルだったら、と思うとちょっと怖いけど!
「で、フェアル。俺のスキルは、一体どんなものなんだ?」
妖精の存在を知った時とほとんど同じ喜び方をしていたためか、俺のリアクションを半ば呆れたように見ているフェアルに、勇気を振り絞って尋ねた。
険しい表情から俺の心理を汲み取ったようで、フェアルは穏やかに答えた。
「……あ、そんなに気構えなくていいよ。ちゃんと強くてカッコいいスキルだからね~」
「本当だな!?」
「うん。リュウトのスキルの名称は、『武器召喚』。その名の通り、武器を召喚するスキルだよ!」
『武器召喚』!? かっけええぇーー!! やばい、俺の中二病が再発する!
え? 既に中二病真っ盛りだって? うるさいわ!
「……く、詳しく説明してくれ」
叫びたくなる衝動を必死に抑えて、俺のスキルの詳細を聞く。
具体的なスキル名を知ったのはこれが初めてだし、自分のだけじゃなく他のスキルにも共通する事があるなら把握しておきたいからな。
というかそうじゃないと、俺が狂喜乱舞してまともに話が進まないし!
「うん、そのつもりだよ。回収任務には、スキルそのものの知識も知っておかなければならないし、君のスキルを使わなければいけない場面もたくさん出てくる。ここら辺の話はしっかりしなきゃね」
俺のスキルを、回収に使う……!? なんだその理想的展開は……!
って、だからいちいち反応すんな俺! 話進まねぇわ!
フェアルは、また立ち止まっていた俺に歩くよう促すと、俺の前を行きながら説明を始めた。
「『武器召喚』とは、スキル名と武器名を言うと、使用者のもとに呼んだ武器が召喚されるスキルだよ。召喚できる武器は、現実に存在してる兵器から物語や伝説上の武器、細かく想像できれば自分が創作した武器だって召喚可能なんだ」
「夢のようなスキルだなおい!」
「特に珍しい召喚系のスキルだからね~。さらに、武器を装備している間は『身体能力向上効果』が付加されるんだよ!」
「身体能力向上効果?」
名前からして大体の効果は分かるが、聞いてみる。
「そのままの意味で、体中の筋肉や運動神経が活発化して、総合的な身体能力が上がるんだ。もちろん自分の体だから、動きまくれば疲れるし筋肉痛にもなるけど、普段とは比べ物にならないくらいの超人的なパワーを発揮できるから、武器を装備するスキルとしてはかなり嬉しい効果でしょ?」
「すげぇピッタリな効果がついてくるんだな。神様ってご都合主義だ……」
当然の事を改めて理解した俺。
しかし、俺のスキルも結構すごいものなんだな。武器を呼び出せる時点で既に超人的なのに、それを使いこなせる能力もついてるとか。なんでこんな凡人の俺に……。
「でももちろん欠点もあるよ。武器の召喚は1度に1つまでだし、他人の手に渡ったらその武器は消えちゃうからね」
「なるほど、いくら神の力であるスキルでも、自由に使いまくったりはできないんだな」
「そうそう。今言った欠点のように、全てのスキルには、コストや条件・ルールがあるの。どんなスキルでも、使えば使うほど身体的にも精神的にも疲弊する。能力の規模を大きくしようとしても同じ。『武器召喚』で言えば、小刀よりも大剣を呼ぶ方が疲れやすいってことだね」
ここら辺はゲームの知識どころかほとんど常識だな。いくらすごい能力でも、使えば疲れる。当然だな。
「この先スキルを使うとなると、スキルの感覚とかその疲れの度合いとかも、安全のために覚えてないといけないけど……。やっぱり、体感したほうが速いよね! 『武器召喚』を使ってみよー!」
「えっ、そんな急に使えんの!?」
「自分が持ってるものなんだから、使い方さえ分かればどうってことないよ!」
いきなり止まって振り向き、スキルを使わせようとするフェアル。
俺にスキルがあると聞いて驚きはしたが、実際に目で確認できるものじゃないから半信半疑だった。だから、今ここで出来るならすぐに試したい。
それに、元中二病の俺の夢が叶うとなれば、拒否する理由なんてない!
「やり方は簡単! 召喚したい武器を思い浮かべて、手に意識を集中させる。そして、スキル名と武器名を叫ぶ! これだけ! まずは手軽な武器から喚んでみれば~?」
「……よし!」
短くも重要な召喚の手順を頭に叩き込む。そして、俺が今まで何度も二次元で見てきた、一番好きな武器・剣を、できるだけ細かい部分まで想像する。
右手を軽く開いて前に突き出すと、「痛い」と思える台詞だが、羞恥心を捨てて俺は叫んだ。
「『武器召喚』、『ソード』!!」
その瞬間、俺の右手の中から光が放出された。
白く、ただひたすらに輝き続ける光。フェアルが出現した時の光と比べるとかなり弱いが、それでも結構な光量だ。
俺の体から何かが抜けるような感覚がする。これが、スキル発動に伴う「疲れ」なのか? 言うほど倦怠感はないが、武器1つだけだと大したことないのだろうか。
そんなことが頭をよぎっていると、暴れるように光っていたそれが、俺の手の中で集束を始めていた。
鋭く尖っていた光は丸みを帯び、やがて粒子となって集まる。その粒子は細長い棒の形を作り出し、少しずつ光が弱まっていく。それと同時にアバウトだった武器の形も鮮明になっていった。
ついに光の粒子が消え去ると、俺の手には、確かに重みのあるブロードソードが握られていた。
「おおぉ……!」
叫んでから召喚されるまで、その間約20秒ほど。その短い時間の中で、俺の初めての『武器召喚』は成功したのだ。
「おめでと! 初のスキル発動は大成功だね!」
フェアルから賞賛の声と拍手を貰う。そこで俺はようやく、武器を召喚したことの実感が湧いてきた。
「すげぇ。これが、スキルなのか……!」
夢にまで見た、特殊能力の使用。剣というファンタジーな武器。それが今、ここにある。……もう喜びを通り越して感動モノだよ!
改めて、召喚された片手剣を観察する。
刀身は80cm程。銀色の鈍い輝きを放つ刃が、細長く真っ直ぐに伸びている。切っ先はかなり鋭く、突き刺すことも簡単に出来そうだ。黒い柄は、片手で握れば少し余裕が出来るくらいの長さ。鍔は左右に向かって伸び、先が少し上向きになって尖っている。そして刃と柄の間には赤い宝石が1つ埋め込まれ、全体的に地味な色の剣を華やかにしていた。
……怖いくらいに、俺が想像していたイメージ通りだ。細部までしっかりと作られている。
しかし、真剣どころか護身用ナイフすら触った事の無い俺に、この剣を実践で使うことがあるのかね? フェアルは俺のスキルを使わなきゃいけない時があるって言ってたけど、実際そんなことしたら確実に警察沙汰になるだろうが。
どうせ後でそこらへんのことも説明してくれるんだろうけど。
俺がそう考えていると、フェアルが剣と俺を交互に見ながら言った。
「でも、そこまで細かく想像できるなんて、かなり重度の中二病なんだね……」
「そんな哀れむような目で見るな! 悲しくなるわ!」
いいじゃねぇか別に! ていうかこれぐらいなら誰にでも想像できるし!
「まぁ、今暗に言ったように、使用者の想像力が豊かなほど武器は強くなるから、中二病は悪い事じゃないよ~。逆に良い影響を与えるんじゃないかな」
「なんだよ良い事じゃねぇか。なら人をバカにしたようなこと言うなよてめぇ!」
「ふふふ~、妖精は生き物をからかうのが好きなのです♪」
全力で反論した俺は短く溜息をつくと、握っていた剣を試しに軽く振ってみる。鉄の剣ともなれば結構な重量がありそうなものだが、全然重さは感じられない。その名の通り片手で楽に扱えるほどだ。これが身体能力向上効果のおかげなのか。
かなり軽々と扱えるので、この剣の性能を確かめたくなった。そこで、道の脇に生えている結構太めの木に狙いを定めた。
剣を右手で持ち、腕を顔の左側にもってくる。横に振りかぶった状態だ。
「よっ」
そこから、地面と水平に剣を振り抜いた。刃はあっさりと木を切断し、一瞬で俺の目の前を通り過ぎる。
切られた木は徐々に横に滑っていき、ズザザザ、と音を立てて、周りの草木を巻き込みながら倒れた。
「な、なんつー剣の切れ味と筋力……。流石超能力だ」
何の抵抗もなしに木が切れたことから、このブロードソードの切れ味の良さと、上昇した身体能力の高さが窺えるな。剣術なんて一切習った事がない上に、それほど腕力があるわけでもない俺でも簡単に切れたからな。
木の太さだって、両の手の平で囲みきれないほどだった。斧で伐採しようとしても1回や2回じゃ倒せなかっただろう。
そんな木を片手剣の一振りで簡単に切ることができるなんて、明らかに普通の力じゃない。身体能力向上効果は、予想を遥かに超える筋力を付加するようだ。
「……しっかし、召喚した時あんまし疲れなかったな。体の中から何か吸われるような感じがあっただけで。疲れってのも大したことないのか?」
召喚の前にフェアルが注意してたことを思い出し、その疲れについて質問してみた。
すると、一瞬驚いたように見えたフェアルは、呆れたような表情になって早口に答えた。
「……それは片手剣みたいな軽いものだからだよ。もっと強力な武器を出そうとすれば、その疲れはもう異常だよ? これぐらいの武器で疲れなんて感じてたら、そんな人このスキルに向いてないねー」
「うおぉう、辛辣……」
片手剣は余裕な武器だったんだな。それを含めても、その言葉はちょい言いすぎじゃねぇか……?
そんな厳しいお言葉を放ったフェアルは、補足説明をする。
「強力な武器の召喚は疲れるって言っても、スキルを使うごとに自分自身が強化されていくから、どんどん練習すれば強い武器も楽に召喚できるようになるし、召喚スピードも上がると思うよ」
「ほう、レベルアップみたいなもんか」
ゲームの中にもスキルレベルとかいうのがあったな。それと似たようなものと捉えていいだろう。
「んでさ、さっきから気になってたんだけど──」
次に話を変えて、さっき考えていた「俺のスキルの使いどころ」について聞くことにした。
いくら強力な武器を召喚できたって、それで戦う機会がなけりゃ意味が無い。たとえそんな機会があったとしても、剣とかの武器で戦ったりしたら犯罪者になっちまうからどうすればいい? と、そんな旨の疑問をフェアルに伝えた。すると、
「スキル回収の途中で、波動にあてられて暴走した人を止める時にリュウトのスキルを使うよ。なんでそこまでするのか、どうやって誰にもバレないようにするのか、とかそういう質問はまたその時にねー」
と返された。今そんなに悩んでいても仕方ないし、一気に知識を詰め込んで入りきるような優秀な頭脳でもないから、その方がいいか。
「そういえば、出した武器を自分で戻す方法とかある?」
他人の手に渡ったら消えるとは言ってたけど、自分で消したい時はどうしたらいいのか聞いてなかった。
その質問にも、フェアルはすぐさま答える。
「武器に向かって『消滅』って唱えてくれればいいよ。あと消滅させるのに体力は使わないから、安心して消せるよ」
「……『消滅』」
唱えると、ブロードソードが光の粒子の塊になり、一瞬にして四散した。
それまでずっと握っていた感触が瞬時に消え去ることには少しビックリしたが、喚んだ武器が出しっぱなしのままという危険な状態になることは免れた。違法な刃物が増え続けるとか嫌すぎる。
取り敢えず、俺のスキルについては大体の情報が得られたかな。
次に何を聞こうか迷っていると、
「ねぇ……いい加減早く帰らない? 説明ばっかで疲れたよ……」
と、頭を抱えて弱々しく提案してきた。
確かに俺も疲れてきたな……驚いたり喜んだり驚いたり驚いたりで、主に精神的に。
脳の保存用メモリも許容量オーバーしそうだということが、フェアルに言われてから初めて気がついた。ここらでやめておかないと、今日得た知識を記憶しきれなくなるところだったぜ。
ポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。げっ、もう神社登りきってから1時間以上経ってんじゃねーか! 腹も減ってきてるし、急いで帰って飯の準備やら洗濯やらしねぇと。
「んじゃ、走って帰るか」
「ええぇ~~! 走るの~~!?」
「いやお前浮いてるだろ」
「スピード出すの疲れるんだもん!」
「文句言うな! ほれ行くぞ」
俺は石階段を駆け下り始めた。抜き去られたフェアルは「待ってよ~!」なんて言いながら、羽をパタパタと動かして追いかけてくる。
明日からこの妖精とファンタジーな日々が送れるのかと思うと、楽しみでしょうがなかった。