第3話 妖精
~side ○○~から始まっているときは○○のキャラの視点で、
何も書かれていないときは第3者(ナレーター)視点で物語が進みます。
~side 竜斗~
俺、白木竜斗。ごくごく普通の高校2年生だ。得意な事は特になく、容姿・性格・交友関係に至るまで、全てが普通だ(と思いたい)。
山登りしてるだとか、1人暮らししてるだとか、そういったことは特徴に入らない。1つだけ恥ずかしい秘密ならあるが、それも特徴ではない。
とにかく、俺は平和で平凡で平穏な人生を送ってきた。この世界が物語ならば、完全にモブキャラの立ち位置。そんな人間だ。
え? なんでそんな自己紹介してるんだって?
……そうでもしないと、現状を理解しなきゃいけなくなるだろうが!
俺は、いつも通り「神社登り」をしただけなんだ。突然湧いた好奇心の赴くままに祠に向かっただけなんだ。
それなのに何故、光の柱を見たり、妖精と対面してるんだ?
いやまぁ、心の奥底で渦巻くあの秘密の感情も、確かに爆発寸前だけれども。そうだとも。でもさぁ、やっぱりこんなものなんて、夢オチとか幻覚だったりするじゃん? 期待してる人を上げて上げて落とすなんて、この世界の常だろ。
だから、こいつの「スキル回収を手伝ってくれないか?」なんて台詞も、全部幻聴なんだよ!!
「ね、どう? やってくれない?」
粉うことなき普通の声でしたー。
……どうやらこの「物体」は、存在してはいるらしい。じゃなきゃこんなくっきりと見える訳ないし、聞こえるはずもないしな。これで幻って可能性は消えたか。
現実は理解したがまだ確信ができず、必死にあの感情を抑えながら長い間沈黙していた──実はあの「は?」から一回も声を出していない──俺は少し顔を俯かせ、なんとか声を捻り出して確認した。
「……本物、なんだよな?」
「ん? そうだよ?」
未だに残っている光の粒子を撒き散らしながら、ふわふわ宙に浮いている。そんな妖精は、俺の問いかけに無邪気な声で答える。
「マジで、本物?」
「もう、しつこくない? 本物だってば~!」
妖精に憤った様子は見られなく、その場でくるくると回転している。心から怒ってるわけじゃなさそうだ。
だが、今の俺にそんなことは関係ない。必要なのは、「本物の妖精」という事実のみ。
確証を得て、ついにあの感情を自制できなくなった俺は、叫ぶ!
「ファンタジーの王道キターーーーー!!!」
「!?」
まさにあの顔文字のような表情で、俺は言ってやった。妖精は、ずっと静かだった俺の豹変ぶりを見て驚いていたが、もう我慢ができない! まだまだ言わせて貰おう!
「マジで妖精!? あのゲームでよく見るファンタジーの権化か!? すげえぇぇほんとだどっからどう見ても妖精だ! ヤベェ感動してきた!」
「えぇっと……あはは……」
目を輝かせて喜ぶ俺に若干、いやかなり引いている妖精。うん、正直自分でもキモイと思った。やりすぎました。
でもこの思いに偽りはない。本気で嬉しいのだ!
中二病。
それが、俺の持っていた「あの感情」の正体である。
中二病をおおまかに説明するなら「思春期にありがちな、自分を大人に見せようと背伸びする行動や言動をしてしまう痛い人」と言えばいいのだろうか。そこら辺の認識は俺も曖昧なので、自分で調べてくれ。
俺に近いのは邪気眼系と言って、「不思議な力に憧れ、自分には特別な能力や力がありカッコいい、という設定のキャラを作ってしまう人」という感じの系統だ。
俺も中学生の一時期は、その邪気眼系に当てはまるようなゲームにかなりハマってしまい、完全に邪気眼系中二病になった事がある。
だが今は高校生になり、現実を見て、ちゃんと分をわきまえていると思っている。
特別な能力はないし、魔法のような現象はそうそう起きないし、地球は毎日いつも通りに回る。それが世界の真実であると知っている。
それでも、中学生の時にゲームで変わった好みは、今でも適用されてしまっているのだ。
例えば、剣や魔法、闇やモンスター……そういった、RPGなどのゲームで使われている用語は今でも好きで、現在でもゲームが趣味なのが、その表れなのだろうと思っている。
長ったらしい説明で大分話が逸れてしまったが、結局は「よくゲームに出てくる妖精が現実にいて、中二病だった俺歓喜!」ってことなのである。
心の中で冷静に中二病の解説をしていたせいか、度を過ぎた興奮が収まってきた。
自分でも収拾つかないと内心ヒヤヒヤしていたが、なんとか心を落ち着かせる事に成功したようだ。
「ふぅ……あービックリした」
「それはこっちの台詞だよ! ずっと静かな人だなって思ってたのに、急に興奮しだすんだもん」
「そりゃあゲームの中のキャラが現実に出てきたら、誰でも呆然としたり驚いたりするわ!」
軽く言い合いをする俺と妖精。それが、妖精の存在をさらに現実味のあるものにした。
少なくとも俺の持っている知識の中では、こんな風に流暢な会話をできるロボットはいない。これで作り物という可能性も消えた。
現代科学ならなんとかなるかもしれんが、今はファンタジーの世界があることを信じたかった。
「しっかし、妖精かぁ……」
長い時間をかけつつも、ようやく2次元のような3次元を認めることができた俺は、妖精の姿を改めて確認する。
まだ残光を見にまとって宙に浮いている少女。碧髪碧眼で髪型はショート。可愛らしく、活発な印象を受ける顔つきだ。
服装は、白いノースリーブのワンピースみたいな服を着ている(俺は男だから詳しくは知らん)。
体長は20センチ程で、手のひらサイズという表現がしっくりくるだろう。
そして何よりも目を引くのが、背中から生えた2対の羽だ。透明でトンボの羽みたいだが、実際にあれで飛べるわけがないので飾りみたいなもんだろう。
うむ、俺の妖精像と全く同じである。
「さて、そろそろ私の話をしてもいいかな?」
「お、おう」
そういや俺、頼みごとされてるんだった。妖精というインパクトがでかすぎて、すっかり忘れてしまってた。
「って言っても、どこから話そうかなぁ……」
話が壮大なのか、話し始めから迷っている妖精。長くてややこしい話は勘弁だぜ? そんなの学校の授業だけで充分だ。
あ、でもファンタジーだから大歓迎だな。
「よし、じゃあ神様のことから教えようかな~」
あ、やっぱいたんだ神。妖精がいるくらいなんだから、この世界には他にもいろんなファンタジー設定がされているんだろうなぁと思っていた。
そして、数多のゲームでそのファンタジーに関する知識を手に入れていた俺は、大抵の事では驚かないつもりでいる。
「……リアクションないの?」
「フッ、残念だったな妖精よ。貴様という存在を認めた時点で、私はどんなファンタジー世界でも受け入れることを心に決めていたのだ!」
「な、なんだって~~!?」
急にキャラを作って話しても上手く返してきた。流石は妖精だ、イタズラ好きな性格でノリが良いというのは本当だったんだな。
「話戻すけど、その神様ってのは、俺達人間が信仰してるみたいなもんでいいのか?」
「まあ大体はそうだね。あらゆる世界の創造者であり、傍観者。全てを超越した、完璧な存在。この世を形作る元素や、君が喜びそうな名前の不思議なパワー『魔力』も生み出したんだよ」
「魔力もあんのか! ますますRPGっぽくなってきたじゃねーか!」
魔力があるってことは魔法もあるんだろ? 是非お目にかけたい! そして使えるようになりたい!
……後者は絶対に無理かな。俺普通の人間だし。いや、「凡人が実は天才魔術師でした」っていう展開の小説はかなり読んだことあるから、あるいは!
いや、過度の期待はしない方がいいよなぁ……。
「その姿を見た者は誰もいなく、ごく一部の選ばれた者達ですら声しか聞けない、そんな神秘的なお方。それが神様だね。あ、あと神様は複数いるから」
この世界って多神だったのか。ゲームでも結構よくある設定だな。
「でも、神様が何でもかんでも創ってるわけじゃないんだ。元素みたいに、物体の元となる物質しか創ってないんだよ」
「え? じゃあこの世界はなんで生まれたんだ?」
「ふっふっふ……それこそが、私達の存在理由よ!」
俺にビシッと人差し指を突きつけて、得意気な顔で言い放つ妖精。
「神様は魔力に自我を持たせて、ある精神体をつくりだしたの。それが、私達妖精!」
「ってことは、妖精は魔力の塊なのか?」
「そうなんだけど、普通に考えたり話したり食事だってするよ。で、神様は全ての妖精に「この世界を管理せよ」という命令を下したんだ」
「世界を管理?」
「そ。ここで言う『世界』ってのは、「人間を含む様々な生命体の繁栄が可能な1つの星」を指して、『管理』っていうのは「世界の発展を促し統制すること」って言えばいいのかな?」
「???」
全く意味が解らない。何言ってんの? 妖精語?
俺の頭上でクエスチョンマークが乱舞していたのを感じ取ったのか、妖精が要約する。
「あ~……。つ、つまり! 今までの地球は全部私達がまとめてきたってことよ!」
「なんだ、そんな簡単なことか……って、えええ!? 地球全部を、妖精が!?」
フワフワと浮かんでて遊び暮らしてるような種族だと思ってた妖精が、まさかそんな大役を務めていたとは……! すまん、正直侮ってた。
「つか、管理って具体的に何すんだ? 地球規模の仕事とか想像つかん」
「大まかに言えば、地球上の分子の質量比を考えたり、自然を構築したりすることだね。でも私は下っ端の下っ端だから、そんなに重要な任務には就いてないけどね~」
「……驚きを通り越して呆れるわ……」
思わず肩を竦め、溜息混じりに呟いた。
何? 質量とか自然とかって作るもんなの? そんなお手軽なパッチワークみたいなもんなの?
世界の真実とは恐ろしいな……。
「それだけの仕事やるなんて、妖精って全部で何人ぐらいいるんだ?」
今更になるが、俺は妖精の正体について迫ることにした。
「もちろん正確な人数じゃないけど、5千億人くらいかな~?」
「ごっ、ごせんおく!?」
はいきましたー。またも想像つかない規模のお話ー。
「そうだね。妖精は魔力の塊で繁殖とかはできないから、最初っから5千億人なんだと思うよー?」
「最初っから、って……その最初はいつなんだよ」
「最初は最初だよ。永すぎて覚えてないや~」
「じゃ、じゃあ寿命とかは無いのか?」
「魔力は永久に不滅です!」
「……要するに無いってことですねわかります」
妖精と話すのって疲れるんだな……。
「5千億人も死なずにいるなんて、妖精はどこにいるんだよ。天界とかそういう場所か?」
うじゃうじゃと妖精が集まってるシュールな光景を想像してしまった俺は、妖精の住処について尋ねた。
天使とか精霊は、よく天国みたいな天上の世界にいるイメージがあるからな。
「いーや、普通に全世界に散らばって仕事してるよ? 魔法で姿を消してね~」
「もう、なんでもアリだな妖精……」
妖精のチートっぷりには、もはや引く。ファンタジーって怖いね。
軽く恐怖を抱いてると、妖精が咳払いをして、語勢を強めて話し出す。どうやら話を戻すようだ。
「そんな私達妖精にも、やはりリーダーとなるお方がいます! それが王女様!」
「へぇ……やっぱりすげぇ人なのか?」
「もちろん! 高い魔力と優秀な頭脳を持ち、他の妖精達に指示を出してるすごい方なんだよ! 人を惹きつける力もあって、実際は王国なんてないのに王女様って呼ばれてるのにも、そのカリスマ性があってこそなんだ!」
「やけにテンション高いな……」
それだけ親しまれてるということだろう。良い人なんだろうな。
「神様からもかなり評価が高くて、世界中の全スキルをたった1人で管理するという一番重要な仕事をも任されてるんだ!」
まるで自分の事のように誇らしげに話す妖精。その興奮した様子から察するに、王女がいかにすごい人なのかが分かる。
だが俺の意識は、『スキル』という単語に集中していた。
妖精が最初の方に言った時からずっと気になっていた。数多くのゲームや物語で使われてきた有名な言葉が、現実に存在している。それは、一体どんなものなのだろうか。
元・中二病の俺は、『スキル』に一番強い反応を示していたのだった。
「なぁ、まずはスキルについて教えてくんねぇか?」
「あれ? 教えてなかったっけ?」
すると妖精は不思議そうに首を傾げた。自分の言ったこと覚えてないのかよ……。
だが教えてないことを思い出したらしい妖精は、急に真面目になって語りだした。
「スキルとはね、神様が創った『超能力』のことなんだよ」