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第2話 出会い

 ひっそりと山奥に佇む、荒斬神社。


 物騒な名前とは裏腹に、毎日を静かに過ごしている神社である。

 普段は町民からも忘れ去られているここには、滅多に人は訪れない。

 ましてや、自然界が更に危険になるこの夜闇の中で荒斬神社に現れる人影など、ありえない存在だった。


「……はっ、はっ、はっ、はっ……!」


 荒い息を吐きながら、その「ありえない存在」は山道を全速力で登ってきた。


「……よし……着い、たぁ!」


 少年は、階段の最後の1段を力強く踏みしめながら、息も絶え絶えに言った。


 登り切った竜斗の目の前には鳥居が設置されている。木でできた鳥居は大部分が朽ち果て、鮮やかだったであろう朱色の塗装もほとんど剥げている。

 竜斗は足を引きずるように歩いてそれを潜り抜けると、その先にある小ぢんまりとした広場で両膝に手をついた。


 乱れた呼吸を整える。今日は調子に乗って、割と早い段階でペースを上げてしまったため、昨日登った時よりもかなり疲れてしまったようだ。


 まさかこの俺が純粋に走るのが楽しくてスピードアップしたなんて、と苦笑する。


「もう俺、運動部に入った方が、いいんじゃねぇか……?」


 そんなことを言ってみるが、本当は部活動やクラブに入る気などさらさらなく、仮に誰かに誘われたとしても「めんどくせぇ」の一言で一蹴してしまうのだが。



 少し時間をかけて、呼吸を正常に戻した竜斗。疲労と睡魔に抗うように大きく伸びをする。涼しい風が吹き抜けて火照った体がクールダウンされると、広場の崖の方を向いて、眼下に広がる町を見渡した。


 与孤島町の綺麗な空気のおかげか、町全体がよく見える。もうすっかり暗くなってしまった町に、ぼんやりと光る家々の明かりが点在している。よく絵画にありそうな、温かみのある景色だ。


 今度は視界を真上に向ける。そこには、幻想的な風景が広がっていた。

 深く黒い夜空に、儚げに輝く幾百もの星。大小様々な光は、見る者を魅了する何かを持っていた。


「おおぉ……!」


 「満天の星空」。そう呼ぶに相応しい世界が、荒斬山の上空にはあった。


 竜斗は都会の生活にも憧れていた。便利な生活と刺激を提供してくれる都会では、さぞかし充実した日々を送れることだろう。

 だが竜斗は、心を静かに癒してくれる大自然がある限り、これからも与孤島町に住み続けるだろう。



 星空を眺め続けて感傷に浸っていた竜斗は、こんなの俺の柄じゃねぇな、と短く鼻で笑い、前に向き直って歩き始める。


「……ちょっとだけ散策してみっか」


 神社の作りを確認したことはあったが調べたことはなかったので、なんとなくこの機会に調べてみようと思い立ち、広場の奥の獣道へと進んだ。


 入り口を隠すように生えた枝をかき分けると、細く真っ直ぐ伸びた道が現れた。


 木に囲まれつつもある程度のスペースはあった広場だが、祠への獣道は非常に狭い。

 両脇に背の高い木がずらっと立ち並び、広場よりもさらに視野を限定していた。上を向くと、道に沿うように夜空が見える。そこからはちょうど月が顔を覗かせ、小道を程よく照らしていた。


 乱雑に生えた草花を踏み倒し、竜斗は獣道を歩き始める。


 何回か祠は目にしているが、ここ数年は見る意味がないので、山を登ってもすぐに帰っている。

 なので、今日になって突然見に行くことには、自分でも不思議がっていた。

 だが即座に考えることを放棄し、まぁそんな時もあるだろう、と適当に結論付けた。



 そんなことをぼんやりと思いながら20メートルくらい歩いた頃だろうか。道の突き当たりが見えてくると、暗闇の中から小屋のようなシルエットが浮かんできた。


 さらに歩いてシルエットの真正面に立つと、その姿がはっきりと確認できた。


 竜斗の腰辺りまでの高さがある4本の脚に、朱色の三角屋根がある四角い箱。屋根も箱も木組みになっている。典型的でシンプルな祠だ。竜斗が昔見たものと全く変わっていない。


 少し違うと言うならば、それは鳥居と同じく、ところどころが朽ちていたり色が薄くなっている点だけだろう。全体的な構造は変化がなく、供え物も皆無だった。


「何も変わんねぇなー」


 ははは、と呆れたような安心しているような、よく分からない笑いをこぼす。

 こんな山奥の神社の小さな祠に変化があった方がおかしいだろう。そんな感想を持ち、紙垂(しで)をなんとなく手で弄る。祠を触ってみたり周囲を眺めたり、適当に過ごしていた。



 竜斗は、特に意味もなくやって来た祠は予想以上につまらなく、1分と経たずして帰る気になった。

 もともと宗教などには興味が無い性格のため、ここまでもったのがすごいくらいだ。


 最後に祠全体を見回した。すると、誰にも相手にされない祠に同情を抱いたのか、ポケットに入っている財布から5円玉を取り出すと戸を開き、ただ見栄えのために祠の中の台に置いた。


 流石に夜も更けてきて眠くなった竜斗は、大きな欠伸をした。


「うし、帰るか」


 来た道を戻るべく、右足を半歩引きかけた。


 その刹那。


「ッ!!?」


 閃光。

 祠の中央から、突然巨大な光の塊が放たれ、鋭く輝く。


 閃光手榴弾の如き光は、辺り一帯を真昼のように照らす。竜斗は腕で顔を覆い、しっかりと両目を瞑っている。一瞬だが直にその強烈な刺激を眼球に受けたため、苦しげに呻いていた。


「なん、だぁッ……!?」


 不意に出現した光に混乱しながらも、竜斗は声を絞り出して1歩、2歩、と後ずさる。



 しばらく光り続けていると、ほんの少しずつだが光の強さが弱まってきた事が、瞼の裏で感じ取れた。

 竜斗は軽く腕を下げ、双眸を薄く開く。


 すると前方には、太い光の柱が上空に向かって垂直に立っていた。


 祠を中心に広がって周囲の木々を飲み込み、天地を切り裂くかのように伸びる光の帯。それはあまりにも非現実的で、神々しささえ感じさせた。


 竜斗は目を細めつつも、表情に驚きと困惑の色を浮かべた。


「一体何なんだよ……!?」



 訝しげに眼前の光を見ていたが、その柱にも変化が表われ始める。


 祠の周りの林をも包み込むほどの大きさだった光の帯が、急速に細くなっていく。神社全体を明るく照らしていた光も、瞬く間に祠周辺のみにまでしか届かなくなった。


 光の柱、もとい光線を、両目を普通に開いた竜斗が見据える。

 いまだに天高く伸びて輝いているが、光が発生した祠の中心部分を隠すのみにまで細くなった。


「確認するべき……なのか?」


 古びた祠で静かに光り続ける光線。誰がどう見ても異常事態だったが、冷静な判断を下そうと努める。



 どうするか迷っていると、祠を覆い隠すように輝いていた光線が、さらに細くなっていった。


 光線は一瞬で糸のようにまでなり、遂には完全に消滅した。しかし光が発生した祠にはまだ残光があり、よく見えない。


 今だキラキラと光り続けている祠を凝視していると、祠とは別に、何か小さい影が見えた。


 さらに目を凝らすと、影の正体がはっきりと分かった。


「……!!?」


 驚きのあまり、言葉を失う。両目を見開くが口は半開きだ。

 光の柱が出現するという不可解な現象でも、なんとか竜斗は反応を示し、正気を保ってきた。だが、流石にその影を認めると、脳が思考回路を停止してしまった。



 呆然とする竜斗。彼が見つけたモノは──



「あ、はじめまして! スキルホルダーさん♪」



 ──妖精だった。



 祠の正面でふわふわと浮く、手のひらサイズの少女。背中には小さな羽がついている。どこからどう見てもそれは妖精の姿だ。


 そんな小人が、小首をかしげて、笑顔で竜斗に話しかけてきたのだ。

 だが当の竜斗はまだ現実を理解できていない。


「あらら、やっぱりビックリしちゃってるね~。でも驚かすために現れた訳じゃなくて、頼みごとがあるんだ! はじめに用件を言っちゃうよ?あのね……」


 呆けている竜斗を見た妖精だが、それを予想していたようで特に気にした様子も無かった。

 見た目相応の声と態度で、自分勝手に話を進める。


 そしてようやく復活しかけた竜斗は、そんな妖精に何か言おうと口を動かす。


 だがそれよりも速く、妖精は頼みごとを言った。



「スキル回収を手伝ってくれないか?」


「は?」



 ──竜斗と妖精の初会話は、意味不明な単語を用いたお願いと、それに対してやっと絞り出した短い反応から始まった。

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