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第20話 ゲーム

~side 竜斗~


「昨日はビックリしたなぁ」


 今日は土曜日。部活に加入している生徒は走り回って汗を流したり、自分の技能を磨いたりするのに多くの時間をかけるが、帰宅部である俺にとっては完全に自由な日だ。

 1人暮らしなので、家族に何か言われるようなこともなく堂々と朝寝できる。今日も9時くらいまでずっと寝ててやったぜ。


 そして今さっき起きて、リビングでゆったりと遅い朝食をとりながら昨日の出来事を思い出していた。


「進藤があんなすごいスキルを持ってただなんて、想像もつかなかったわ」


 暴走してないスキルホルダーが学校にいたこと、それが進藤だったことなど、驚きの事実はたくさんあった。だがその中でも、特に『火炎魔術(フレイムマジック)』の威力に驚いた。


 まさか、あのスキルホルダーを一撃で倒しちまうとはな……。


 フェアルは「力の制御がまだ完璧じゃなかったから、あれはほぼ全魔力を使っちゃった一発」って言ってたが、そうじゃなかったら異常だよ。

 あれでまだ本気じゃないとかだったら、与孤島町なんて片手間で滅ぼせられるくらいのスキルになるわ。


 だが強いと称賛すると同時に、やっぱり悔しさも感じてしまう。


 全力だったとはいえ、進藤は戦闘系スキルホルダー1人を簡単に無力化してみせた。それも、初のスキル使用で。

 それに比べて俺は、本気を出してやっと敵を倒せるレベルだ。俺の方がスキルに関わってきた時間も長く、経験もあるのに。


 スキルホルダーの戦闘能力は、スキルの元々の力が大部分を占めている。だから、誰かとの間にできた差はスキルを得た瞬間に決まってしまっていたという訳だ。

 つまり俺には、単純に運が無かったということになる。


 ……って言って納得できたらいいんだけどなぁ。どうも釈然としねぇ。

 天才に一瞬で抜かれた努力家って、みんなこんな気持ちになるんだろうか。俺は全然努力してないけども。


「はっ! 進藤が戦ったら、俺がいる意味ないんじゃね!?」


 『火炎魔術(フレイムマジック)』の方が強いんだから、俺なんかが戦わなくても進藤だけで事足りるじゃんか!

 俺用なし!? いやいやいや、そんなの悲しすぎるわ! 戦うことだって長年の夢だし!


 え? 中二病を自覚してるって? 今はそういうこと言ってる場合じゃねーよー!


 くそ、やっぱ強くならなきゃな……。いろんな武器を召喚したり、もっとアビリティを覚えたり。肉体も強化するべきだな。

 面倒だけど、俺がいる意味を無くさないようにするためだ。頑張るか。


「俺がいる意味、といえば、昨日進藤が去り際に「存在意義が欲しかった」って言ってたな」


 あれが協力を承諾した理由だったけど、なんで存在意義なんてものを求めてたんだろうか。

 戦うことを生きる意味にしたかった? いや、そんな野蛮そうには見えない。でも進藤の言葉からはそうとしか考えられんし……。


「あーもう分からんっ! 考えるのもめんどくさい! ごちそうさまでした!」


 今朝も白米はうまかった! 卵焼きは醤油が足りなかった! それだけでいいじゃないかもう!



「なーにさっきからぶつぶつと独り言言ってんの」


 俺が食器を片付け始めてると、2階からフェアルが欠伸をしながら降りてきた。

 まさか俺より起きる時間が遅いとは。妖精はそんなに寝る必要ないだろう。


「おうフェアル、おはよ。でも今のは決して独り言なんかではなく……」

「そういえば中二病の人って、よく独り言も言うそうだよね。リュウト、悪化してきたよ?」

「う、うるせー! そんな哀れみの目を向けんなよ! まず人の話を聞け!」


 俺はそんなに露骨な中二病じゃねぇ! ちょっとカッコいいなって思ったことはあるけれど!


「朝ご飯何ー?」

「あぁ、米と味噌汁とスクランブルエッグとウィンナーだ。またミニサイズにしといたぞ」

「さんきゅ~。お皿は私が洗うね」


 妖精はちっこいから、俺の飯のほんの少しを分けてやればいいだけだ。大したことはしてない。

 家の中で好き放題やってるが、皿洗いとかしてくれるし料理の手伝いもするようになってきたから、フェアルに文句はない。なんだかんだで律儀なやつだ。



 俺は居間のソファに座り、テレビをつける。特に観たいものはないけどなんとなくだ。


『────』

「あり?」


 おかしいな、テレビから音が出ねぇ。

 画面にはちゃんと何かの旅番組が映ってるし、消音にもなっていない。何故か音だけが抜けちまってるようだ。


 リモコンで音量を上げてみたが、やっぱり何も聞こえない。


 壊れたか? いや、このテレビ結構新しいし、雑な扱いをした覚えもない。どうなってんだ?


「これは業者を呼ぶしかな『良 い 景 色 ~ ! !』うっるさあああああっ!?」


 なんだぁ!? いきなり音出たぞ!?

 しかも今上げまくってたから、音量MAXだったじゃねぇかぁ!


 リモコンを連打して高速で音を下げる俺。旅番組を大音量で楽しむ趣味はねーよ!


『いや~ほんと素晴らしい眺めですねぇ。ここらではすごく有名な山だそうで──』

「ふぅ。あーマジビビったぁ……!」


 どうしてこうなった。音が消えた原因も出た原因も分からんままだし。


「ブプゥッ! こっ、堪えきれなかった、くくっ……!」

「…………」


 小さな朝飯を噴き出して控えめに笑ってる、そんな妖精が俺の後ろにいますよっと。


「フェ・ア・ル・さぁ~ん? なーにをしてたんですかねぇ~……!?」

「ぎゃああ~~! ちょっ、いつの間にダガーナイフなんて召喚してたの!? お願い首筋に当てないでっ! 怖い怖いぃ!」


 小声で『武器召喚(サモンウェポン)』唱えても、案外気付かれないもんだな。戦闘中にも役立つかもしれん。


「まぁそんなことより、笑ってたってことはお前が何かやらかしてたんだよな? そうだよな?」

「は、はいそうです。リュウトを驚かせるのが面白そうだったからつい……」

「まったく……。でも、なんであんな風にテレビの音を操作できたんだ?」


 テレビを改造していた……はないか。いくら妖精でも、そんなに高度な技術は持ち合わせてないだろう。


 するとフェアルは誇らしげな笑みを浮かべ出した。


「ふっふっふ、これもスキルの力なのだよ!」

「何ぃ? 電化製品を改造するスキルか!?」


 すげぇくだらないけど、回収してきたスキルから考えればありそうだ。

 だがフェアルは、指をちっちっと振って否定する。


「違う違うっ。対象とその付近を完全に無音状態にする、その名も『沈黙(サイレント)』!」

「無音状態?」

「そう! このスキルでテレビの音を消して、リュウトが音量を上げたとこを見計らってスキル解除! そして爆音発生というわけですよ」

「……もっと別の使い道があったろうに、何故ドッキリに使った」


 戦闘中に使えば、自分を無音状態にして敵に気付かれずに接近して攻撃、とかできただろ。


 ……つーか、せっかくの土曜日がこいつの相手をして潰れるなんてごめんだぞ?


「はぁ。俺ゲームしたいから、もう今日は静かにしといてくれよな」


 ここ最近、スキル回収のことばっかで忙しかったからな。暇があったとしてもほんの少しだったし、それすらも宿題や家事に費やさなきゃいけなかった。

 なので、ゆっくりとゲームできる時間は休日しかないのだ。


「えぇ~~っ!? 私暇になるじゃん!」

「知るか! お前だって俺の時間削ってる原因の一つなんだぞ」


 そう。家にいると、フェアルはしょっちゅうちょっかいをかけてくる。

 昨日も家庭用ゲーム機『Nii』のコントローラを全部隠されて、2時間も探すはめになったのだ。もちろんプレイする時間なんてなかった。


 妖精のイタズラ好きには困ったものだ。本当に。


「むうぅ……じゃあ私も一緒にやるー!」

「無理。パソコンゲームだ」

「んなっ!?」

「残念でした。おとなしく皿洗いしてろよ~」

「はぁ~い……」


 流石に自分がした数々のイタズラに負い目を感じてたのか、フェアルはおとなしく皿を持って台所に向かった。


「さてと。じゃあ俺も家事をしますかね」


 面倒事は趣味をする前に終わらせる主義だ。早めに片付けて、後でゆっくりとゲームしよう。


 俺はテレビの電源を消すと、居間の押し入れから掃除機を取り出した。




『もしもし? 竜斗から電話って久しぶりだなぁ』

「ま、用件は分かってんだろ?」


 現在、自室で奏介と通話中だ。目の前には、軽快な音楽を流しながらゲームの画面を映し出しているパソコンがある。


 午前中に掃除、洗濯、買い物を全て済ませ、昼飯も食って今は昼過ぎ。

 サッカー部の練習が終わった頃を見計らって電話をかけたので、奏介は2コール目で出ていた。


『おう! あ、その前にちょっと世間話を』

「あん?」


 早速始まるかと思ったのに、なんだ世間話て。


『学校の裏にさぁ、小さな空き地みてぇなのあるだろ? 昨日ランニングしてた1年が見たんだが、そこが焼き払われていたらしい』

「うおえぇっ!?」


 そ、それって、昨日進藤が炎をぶっ放したとこじゃね!?


『ははっ、やっぱ驚くよな。でも理由は分かんないらしくてさ、なんか心当たりねぇか?』

「えっ、えぇと……!」


 ま、まずい……! 目撃者がいなかったことは確認してたけど、焼き払われた後の空き地のことについては何も考えてなかった!

 やっべどうしよう……とりあえず嘘ついとこう!


「いやぁ、何も知らねぇぜ? 焚き火が燃え広がったとかじゃねーの?」

『う~ん、あんま考えられないんだけどな……まぁいいや。学校でも問題になってるそうだし、何か分かったら教えてくれよ?』

「お、おぅ」


 あっぶねぇーー! 下手に口滑らしてたら面倒なことになってたぜ……!

 学校側がそこまで気にしてたとはなぁ。校舎の裏であったことだから当然か。


『よし! じゃあ無駄話もここまでにしといてログインするかな』


 ふぅ、気を取り直して本題に入ろうか。

 俺はこれから奏介と共に、今最もハマっているパソコンゲームをプレイするのだ。



 『Brave Fantasy World』。それが、俺らが中1の時から夢中になっているオンラインゲームの名前だ。


 略して『ブレファン』『BFW』などと呼ばれるこのゲームは、中世ヨーロッパ風の世界を舞台に繰り広げられるMMORPGだ。


 「プレイヤーは武器や魔法を使いこなす冒険者となって、人間に仇なすモンスター達を倒す」という至って普通のストーリー。

 だがその分、ゲームのクオリティには目を見張るものがある。特にアクション性が高く爽快感溢れるバトルは、サービス開始当初から多くの人に大人気だった。


 かくいう俺もその1人で、自由度が高い『BFW』にすっかりのめり込んでしまい、今ではかなりのヘビープレイヤーだ。

 まぁ4年も飽きずに熱中してれば、カンストレベル一歩手前の478Lvにもなるがな。


 そして、俺が中二病になった一因でもある。

 『BFW』にはカッコつけた名前の技やアイテム、モンスターが大量にあって、「闇」だとか「暗黒の」が付いてるものも少なくなかった。


 当時中学生だった俺はそういう単語に異様に興味を持ち、中二病全盛期への道を歩んでいったのだった……。黒歴史なので深くは掘り下げないが。



 いろいろな思い出が詰まった『BFW』。ゲーセンのとかテレビゲームとかも結構やってるが、『BFW』のプレイ時間の方が圧倒的に長く、キャラクターのステータスも強くなってるゲームだ。


『……よし、ログイン完了。今どこ?』

「いつも通りリオクスタだ。掲示板の前にいる」

『また1人で突っ走んないでくれよ? こっちはまだ439Lvなんだから』

「へへっ、分かってるって」


 同じ時期に始めた奏介だったが、俺の方が大分強い。

 ……うん、威張れるもんじゃないな。あいつは部活頑張ってるし当たり前じゃんってね。


「んじゃチャット始めるから、携帯(こっち)は切るぞ」

『はいは~い』


 携帯を閉じ、意識をディスプレイに集中させる。


 よし、久々のゲーム長時間プレイ、スタートだ!




──────────




 1羽の(からす)が、とある廃れた建物の屋上に留まった。



 ここは町外れにある廃マンションだ。

 田舎暮らしを夢見た人々の為に与孤島町の離れに建設したものの、あまりにも不便だったため利用者がいなくなり、放置されてしまった悲しきマンションである。


 数十年前から使われなくなっており、今では蔦が絡まっていたり所々が崩れていたりと、完全に廃墟と化している。



 昼間でも暗い雰囲気を醸し出している廃マンションには、烏以外の生物はいないように見えた。


「ここが与孤島町、か」


 だが烏のすぐ真横には、いつの間にか誰かが立っていた。烏は逃げようとする素振りすら見せない。

 その男性は、目を細めて町全体を見渡す。


「へぇ、なかなか良い町だな。住みたいくらいだ」

「目的を忘れるなよ? 観光に来た訳じゃないんだから」


 もう1人。新たな人物がまたいつの間にか現れ、話しかけていた。

 注意を受けたその男性は、ふっと笑う。


「分かっている。……まぁ、まずは様子見だな」


 烏は、彼の言葉に答えるかのように低く短く鳴くと、町の中央へ向かって飛び立った。

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