プロローグ
──────『闇』
あらゆる物質の視認を許さない、暗黒の世界。
周囲の状況を把握できず精神にも異常をきたす闇に、人々は未知を感じ、恐れ、戦き、忌み、避ける。
それは人間の本能のようなものであり、人間という種族そのものが克服しない限り、これからも人々は闇に恐怖し続けるだろう。
そんな人間の本能に刷り込まれた恐怖の象徴は、今この場を黒く塗り潰していた。
「この場」では、あらゆる情報が得られない。
暗闇によって視覚が機能せず、聴覚・嗅覚も音や匂いを感じ取れない。
果ては物体の感触、重力までもが失われており、到底現実とは思えない。そんな空間だ。
五感が全く必要ないこの場所に、何か特別な変化が訪れるはずもない。この静止した世界は永遠に続くものと思われた。
しかし、永く続いていたその静寂は、ある時唐突に破られた。
──────時は、満ちた。
■■の声が響く……いや、ここは聴覚が役割を果たせるような空間ではない。
■■が自らの意思の奔流を脳に直接届けた、と表現するのが正しいのだろうか。
それを容易くやってのける■■は、とうに人間の限界を超越した存在となっている。
いつもと変わらぬ沈黙が支配している闇の中で、再度■■の意思が流れ出す。
──────ついに、目覚めることが、できる。
深淵の闇で存在さえ示さなかった■■が、この時になって初めて感情を抱いた。
これは、■■を知る者達にとっては「異常」以外の何ものでもないだろう。
──────だが、もう少し、待たねばならない。
闇の奥深くで静かに眠っていた■■は、心の中で呟き続ける。
──────短いようで、長い時間。
その意思は、喋りたての赤子のように途切れ途切れで。
──────しかし、その苦しみも、乗り越えてやろう。
それでいて、歓喜に満ちている。
──────そうすれば、もたらすことができる。
そこで一旦言葉を句切ると、■■は強く望んだ。
──────────────この世に、終焉を。
これは、とある物語の始まり。




