噂話、とある男の昔話
それは昔々、皆さま方の大爺様大婆様らがまだ母親の乳房をしゃぶっているよりも前のお話だ。
とあるそれは綺麗な湖がある山に一匹の狼が突然姿を表した。その狼はそれは見事な月影色の狼で、走る様はまるで流星のようだったそうだ。
まぁそんな狼だが勿論普通の狼じゃあない、これが驚いた事にこいつぁ人の言葉を理解出来たんだと!
最初は神様の使いだなんて言われて森に住む人々が社を作り、お供えものもして祀っていた。人の言葉を解す狼だ、供え物の礼に害獣を退治したり貴重な薬草なりを代わりに返していたんだとよ、まぁ言われずとも解っちゃあいるだろうが人々ともとても仲が良かった。
だがある日、とある組織の"御偉い様がた"がこの狼を魔物だって言い出してねぇ…可哀想に森に住む人々は魔物の仲間だって殺されちまった。
ああ、勿論狼はそいつらに立ち向かい人々を助けていたんだが、とうとうある日度重なる戦いに疲れはててた狼はぐさっ!、と一発土手っ腹に喰らっちまったんだと。動けなくなった狼は哀れ、湖に捨てられちまった。殺された人々もそこに捨てられたもんで綺麗だった湖は血みたいにまぁっかに染まったんだと。
ただ、狼に助けらて生き残った奴らはなんとか落ち延びたらしいよ、良かった良かった。
あぁ、今この森は海ん中だ、そう《水其処》の島になっちまったんだ。
言い忘れたんだが元々この島《蒼天窮》にあったんだ、いやうっかりうっかり。まぁしがない男のうっかりだと思って流して下さいよ。
え、この話をどこで聞いたか?さぁねぇ、子供の頃に流浪の詩人から聞いた筈だけどそれ以外はトンと思い出せないね。
ただ、その詩人はあんまり見慣れない服装だったなぁ、なんか、こう前で襟を合わせてでっかい布で縛っててな、腕はなんだか随分とひらひらしてたよ。貴族様の女の人らが着るドレスみたいにひらひらーってな。
お、こんな話に付き合って貰って悪かったな、こう、ふと思い出してなあ、人に話したかったんだわ。
え、その狼の名前?名前ねぇ、なんだったか、確か月に関した名前だったと思うがねぇ。
…ああ、なんだ、もういっちまうのかい?最近おてんとさまがご機嫌斜めなのか不安定だから気を付けるんだぞ。
じゃあな。