7月27日 ―5―
「勝負? いいわよ、何で決めようか? 私が勝ったらこの話はお終いだからね」
お姉さんが、一瞬怪訝そうにしながらも赤髪幼女の提案を受け入れた。
「じゃあ、決まり。えーっと」
言葉に合わせて赤髪幼女が周囲を見回し始める。
急にこの子はキョロキョロして、どうしたんだろう?
そんなことを思っていたら、目が合った。途端、名案が浮かんだとでも言うように目を輝かせる。
「勝負はこの兄ちゃんの歌でするよ、彩ねえ!」
「はあ? 何言ってんの、アリア! これ以上お兄さんに迷惑かけるな!」
「別に、兄ちゃんになにかしてもらおうって言うんじゃないよ。兄ちゃんは、普通に歌えばいーの。どうせ歌うんだし。それを聞いたあたしたちの勝敗が勝手に決まるだけなんだから」
「それを本人の目の前で言ったら、気になるに決まってるでしょ!」
「うっ……。兄ちゃん。ごめん」
別に、それはいい。俺に出来ることなら手伝っていいとも思う。この子のおかげで、今日のカラオケは楽しめるような気がしていたのだから。でも、俺の歌をどういう風に勝負に使うのだろうか?
「えとっ、……」
「なにかな? 兄ちゃん」
「その、俺は、……か、かまわ、……ない、です」
「ホントか? 兄ちゃん、ありがとう。じゃあ、彩ねえ。勝負だよ、いーよね?」
俺の返事を受けて、お姉さんは溜息を吐く。すげえ嫌そう。ごめんなさい。
「お兄さんがいいなら……、いいわ。それで? どうやって勝負するの?」
「あたしは、この兄ちゃんの歌に賭けるよ! 兄ちゃんの歌を聴いて、彩ねえがあたしの歌よりうまいと思ったのなら、あたしの勝ちだ」
えっ? 何それ。駄目だって。絶対勝てる訳ない! 何考えてるのかな?
「それじゃ、勝負にならないわよ? アリア」
ですよねー、わかってますね。
「アリアより歌の上手い人なんて今までに、生では見たことないもの。それに私は、仮に、もしも、万が一、そのお兄さんの歌がアリアより上手かったとしても、上手いと言わなければいいのだから」
「言うよ。彩ねえだもん」
「何? それ」
「いーの! 彩ねえはうそつかないの!」
「まあ、いいわ。私が勝ったらこの話は二度としないわよ?」
「それでいーよ。さあ、兄ちゃん好きな曲を歌っていーよ」
そのフリはきつくないかな? というか勝てると思えないのだけど、どうしたらいいだろう。選曲は大事だと思う。何が一番上手く聞こえるのだろうか? 悩ましい。
「兄ちゃん!」
――突然呼ばれて、驚いた。呼ばれた方を見ると赤髪幼女が自分の眉間を指している。
「あたしが迷惑かけてるのは、わかってる。ごめんね、兄ちゃん。だけど……。その顔は楽しくない顔だよ? 兄ちゃんが歌いたい、楽しめる曲を選べばいーんだよ」
どうやら、また凄い顔とやらをしていたらしい。この子は楽しめと言っている。なら、今一番楽しいと思えることは何かを考えよう。
…………、決めた。
さっきは本当に歌いたい曲なんて考えたこともないから、浮かびもしないと思ったが――今ならある。勝負のことも考えたら自然と、これが一番楽しいんじゃないかって思えてきた。俺は曲を送信する。
「えっ?」
赤髪幼女が声を上げる。意外だったかな? 赤髪幼女はすぐに俺の方を見て笑った。
「兄ちゃん、その選曲はたしかに楽しいと思うよ」
俺は、先程この子が歌った曲を選んだ。上手い以外に感想を持てなかったこの曲で、お姉さんにこの子より上手いと言わせられたら、俺にとってそれは最高に楽しいことだと思ったから。
1話ってこれくらいの長さの方がいいのだろうか……?