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7月27日 ―4―

 赤髪幼女は、なんと演歌を歌っていた。明らかに地毛な赤い髪で外国人然としたその小さな容姿と演歌の組み合わせは見る者に強烈な違和感を与える。

 でも、そんなものはこの子が歌い始めるまでだ。その小さな体からどうしてこんなにも力強い声が出てくるのか。そして歌い回しとても情感に溢れていてしっくりくる。今では、この姿は敢えて演歌とは離れたものを想定してしまうように、そうすることで、より強くこの歌に引き込むためにあるのではないかと思えてくる。

 この歌に適切な言葉は結局、これしか浮かばない。ボキャブラリーが乏しいと思われるかもしれないが――上手い。俺が今までに直接聞いたことがある誰の歌よりもそう感じた。だから、聞き入ってしまって忘れていた。次の曲は俺だから、この歌の後で歌わなければいけない。そして、まだ曲を入れていなかったことを。

 それを思いだしたのは、赤髪幼女の歌が終わった時だった。

 ――しまった。

 曲を入れていない。どうしようか? 確か踊る前に次は演歌と決めていた気がする。だけど、あれだけの歌を聞かされた後で演歌を歌うのか……。

 嫌だな。

 というか俺、ちゃんと歌えるのだろうか?

 人前で歌うのは、春先のあの日以来初めてだった。あの日は好きな歌を歌えばいいと思っていたし、それ故に周りのことは気にせず、騒いでいる人達を横目に自分が何を歌うのかばかり考えていた。そりゃ、一人で行けって言われても仕方がなかったのかもしれない。

 でも今はあの時とは少し違う。あんな歌を聞かされてはこの赤髪幼女を意識せざるを得ないし、相部屋なんてよくわからない環境に舞い上がってもいる。リモコンを見ながらどうしたものかと真剣に悩んでいると、俺の眉間に何かが突き当てられた。何事かと顔を上げると、赤髪幼女が俺の眉間に人差し指を突き立てて、座る俺の前に仁王立ちしていた。なんとなく、様になってる。

「兄ちゃん! いつまでここにシワ寄せて、そんなにむつかしい顔をしてるの? 会ったときからずーっとだよ? 兄ちゃんは歌うの好きじゃないのかな? そんな顔して歌って楽しい? 兄ちゃんが楽しくなきゃ意味無いよ?」

 こんな小さな子に、そんなこと言われるとは思わなかった。指を突き付けられているのに嫌な気はしない。それはきっと、この子の言葉が俺にとって馴染み深いものだったからだろう。

 ……そうか、俺はこの子と会ってからずっと眉間にシワを寄せていたらしい。

 そんな顔している奴が楽しんでいる訳がないな。俺は今まで週五で通ってきた。それだけ出来るんだから楽しくない訳がないんだ。そうじゃなきゃ、これまでを無駄に過ごしてきたことになってしまう。これは俺が生活を楽しむ手段なのだから。久々に人から聞いた。楽しくなきゃ意味が無い――か、その通りだな。そして楽しめば何でも出来るって話だ。

「あの、……えと、っ」

 俺が口を開くと、そこにお姉さんの声が重なった。

「アリア! お兄さんに指突き付けて、何やってるの! 止めなさい」

「なに? 彩ねえ。 今このお兄さんと大事なお話中。静かにしてて」

「そんなこと言ってないで、早く退きなさい」

「やだ! あたし止めたいなら、彩ねえも何か言えばいいよ!」

 赤髪幼女の言葉はお姉さんを煽っているようにも聞こえる。でも発端は俺だと思うから、それで二人が言い争いを始めてしまっては申し訳ない。

 どうしようか? 何とかしたい。

「彩ねえが……」

 あれ、急に赤髪幼女の言葉が途切れた。どうしたのかと思ったが、俺が手をこの子の頭に置いたのが原因だったみたいだ。完全に無意識にやっていたので自分でも驚いている。とりあえずくしゃくしゃと撫でてみる。言っておかなければならないことがあった。

「あり、……あり、がとう。……、あっ、えっと、……その、うん、……楽しみ、……ます」

 すると、赤髪幼女は恥ずかしそうにしながら答えてくれる。

「あー、うん。どういたしまして、だよ?」

 そして、俺の眉間から指を退けてくれた。

「ぷっ。ご、ごめんな、兄ちゃん。あたしが指してたとこ……赤くなってる」

 マジか……。帰るまでに消えてくれるといいな。

「あー、……別に。えっと、それより、その、……まだ、……シワ、……あり、ますか?」

「んーん、もうないよ。歌ってよ。兄ちゃんの歌聞きたいな。それと、恥ずかしいのでそろそろ手をどけてほしーんだけど、いーかな?」

 言われて思わず手を離した。ずっと撫でてたみたいだ。ごめん。

 ……さて、早く曲を入れないといけないな。

「あとねー、曲は慌てて選ぶことないよ、兄ちゃん。今、本当に歌いたい曲を入れればいーんだよ」

 そう言って、お姉さんの方に寄って座った。

 本当に歌いたい曲、か。そんなこと言われても……。今まで、曲を選ぶ時にそんなの考えたことなかったな。

「さて、アリア。私との話がまだ終わっていないのだけど、続けていい?」

 お姉さん、俺の話が終わるまで待っててくれたのか。いい人だな。曲をかけてしまったら話をするのは難しいだろう。ならちょうどいい。少し、選曲で悩ませてもらおう。

「なにかな? 彩ねえ。あたしは彩ねえに文句言われるようなことをした覚えはないよ」

「お兄さんに迷惑かけたでしょう」

「あたしは必要なことをやっただけだよ」

「じゃあ、それは良い方向に働いたようだしもう言わない。それとは別の話。私はこれでいいの。これがいいの。わかった?」

「そうはいかないよ。前はそうじゃなかったもん。今日も兄ちゃんとは一言も会話していないよね!」

「気にすることじゃないって言ってんの! これがいいって言った。この方が私には楽だし、こうしたいからしているの!」

 二人の会話がヒートアップしていく。それを俺は傍観する他なかった。

 それにしても、確かに今日はお姉さんとは会話した記憶が無いな。意思疎通は全部、赤髪幼女を通してだった気がする。

 そんなことを考えている間も二人の言い合いは止まらない。

「楽なのかもしれないけど。楽しくはないよ、そんなの!」

「それを決めるのは私! 勝手にアリアが決めるな!」

「わからず屋! じゃあ、あたしと勝負しよう! 負けたらもうなにも言わないよ」

アクセスがあるだけで、テンション上がります。

稚拙な展開、文章ですが皆さまお付き合い頂きありがとうございます。

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