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7月27日 ―3―

 ――コンコンガチャ。

「こら、アリア! ノックしてるのにドア開けない!」

「いーじゃん、彩ねえ。細かいことばっかり気にしてるから老けてるんだよ?」

「細かくない! マナーの話をしてんの! それに私は若い!」

「ホントに若いと思っている人は、自分で若いとか言わないと思うなー」

「なるほど、気付かなくて悪かったわね、アリア。あなた喧嘩売ってんのね。いいわよ、買ってやる」

「いや、うそうそ。彩ねえ落ち着こう。あたし、なにか間違えちゃったみたい」

 俺の目の前に突然、赤髪の少女と黒髪もキレーなお姉さんが現れた。あちこち跳ねた特徴的な赤い髪をポニーテールにしている活発そうな女の子と綺麗な黒い髪をショートに整えた外見は落ち着いた感じ美人のお姉さんの二人組だ。佐橋さん、疑ってごめん、ホント。

 でも、赤髪幼女ってどう見ても幼女ではないよ、佐橋さん……。

 そう思いつつ呼び方は気に入ったから、現れた少女を赤髪幼女と呼ぶことにした。それにしても、この二人、いきなり喧嘩してる。

 だが、二人の喧嘩は問題じゃない。それとは別に問題が発生していた。部屋の入り口付近で踊っていて、そのまま佐橋さんと会話して、すぐにシミュレーションを終えて――直後に目の前に二人が現れた!

 ど、どど、ど、どうする俺! これは想定の範囲外だ。いやいやいや落ち着こう、まだ全てが終わったわけではないはずだろう。入口付近で待ち構えていた風になっている気もするが、何かあちらがやり合っている内に先手を打つんだ、シミュレーション通りに。

「もう、怖いよ彩ねえ。見なよ、この兄ちゃんもおでこにシワを寄せてすごい顔で睨んでるよ。きっと身の危険を感じたんだろうね。……あれ? なんで兄ちゃんはそんなところに突っ立ってるの?」

 くっ! こんな子供に先手を打たれてしまうなんて。まさか、俺の思考を読んで完璧なシミュレーションを崩しにかかっている? 違う、今考えるのはそんな馬鹿なことじゃない。俺の顔が凄いってどういうことだ! 考え事して喋る決意を固めていただけだ! いやいや、それも違う。そうじゃなくて、どうしよう、とりあえず何か答えて、それから、えっと、それから……。

「もう。さっきのことはとりあえず保留にしといてあげる。それより失礼でしょう、アリア。このお兄さんは、もともとこういうお顔なんだから、それを凄い顔なんて。容姿の欠点を指摘するなんて最低ね。謝りなさい」

「う、ごめんな、兄ちゃん。いきなり欠点の顔のことにふれちゃって」

 あんたが謝れ! 誰の顔が欠点だ! 別に顔が整ってるとは思わないが、初対面の人にそこまで言われる筋合いもない! しかも、あんたのせいで赤髪幼女まで俺の顔が欠点とか言い出したじゃないか。謝られたけど、より深く俺の心は傷ついたよ、ちくしょう――だが、今は心の傷なんか気にしている場合じゃない。想定と違いすぎる。一度落ち着こう。

 …………。

 よし大丈夫だ。しかし、入口付近で突っ立ってたのをなんとかそれっぽく誤魔化せないだろうか?

 ……出迎え?

 いまいち碌でもないことになりそうだが、考えている時間も惜しい。それで行こうと思う。それじゃあ、出迎えを考慮したシミュレーションを最後にしておこう。出迎え的な要素を入れた最高の挨拶でここを乗り切るんだ。

(入口に立っていて驚かせてしまいましたか? 申し訳ありません。本当はどうしようか悩んだのですが、初対面の方をお迎えする訳ですから、こうして出来る範囲でお迎えしているだけですよ。今日はよろしくお願いしますね。それと、顔の事は気にしていないので、謝らないで下さい。そして、お二人も今後一切、顔についてはスルーして下さいね。ああ、自己紹介がまだでしたね。僕は、山田太郎といいます。先に入って歌っていたのでお二人から歌って下さい。それではどうぞ)

 よし完璧だ。入口付近に居た理由付けはいまいちだが、それ以外は文句の付け所が無い。かなりの時間を要してしまったな。

 俺が考え抜いている間、赤髪幼女は謝った後、じっとこっちを見ていた。お姉さんの方は、特にすることもないといった感じで部屋の中を見回してる。もしかして、俺の言葉を待ってくれているのだろうか? なんていい人達なのだろう。いつまでも待たせる訳にもいかない。さっさとこちらも行動を起こすべきだ。シミュレーション通りに!

「いり、……、しょっ……、えと、……です、……、あー、かお、……、気に、……その、してない……です」

 理想と現実の間には決して超えることが出来ない死の谷、デスバレーって奴があったみたいだ。そのことを痛感し、途中で言葉を継ぐのを止めてしまった。気分も沈んで、下を見ると目の前の女の子がニッと笑った。

「あー、うん。そっか、兄ちゃんはいい奴だなー。初対面だからって出迎えてくれたうえに、失礼なあたしをそんなあっさり許してくれるのかー」

 なんとなく喋った分のニュアンスはこの子には伝わっていたようだ。恐るべし、赤髪幼女。そして後ろのお姉さんは、何でこの人の言ってることわかるの? とでも言いたげな驚きの表情で赤髪幼女を見ていた。

 当てずっぽうというか勘というか、つまり適当に言っただけだろう。なぜなら、俺だって何言ったか聞いただけじゃわからない自信がある。あまりにこの子が自信満々に答えるから、理解して答えたように見えたのだと思う。まあ、内容は正解だった訳だし、とりあえず会話は成立したとしよう。折角この子が通訳してくれのだ。もう少し頑張ろう。まだ、さっきの言い残しがある。

「あの、……俺、……先に、その、入って、……歌って、ました。えと、……だから、その、……お二人、……歌、……どぞ」

 さっきより、多少、本当に多少だがマシだったと思う。すると、赤髪幼女が先程とは別の晴れやかな笑顔を見せてくれた。

「先に歌っていーの? ありがとう、兄ちゃん。じゃあ、遠慮なく先に歌わせてもらうね! いーよね? 彩ねえ」

 話を振られたお姉さんの方を見ると、その表情から先ほどの驚きは消えていた。赤髪幼女に頷いて答える。

「そうね、お兄さんの好意に甘えさせてもらいなさい」

「うん。あっ、そーだ、兄ちゃん。彩ねえはたぶんほとんど歌わないから、あたしが曲入れたら気にせずガンガン曲入れちゃっていいからね。それとね、ずっと言おうと思ってたんだけど……。兄ちゃんが邪魔で部屋に入れないんだ。どいてくれる?」

「えと、……はい」

 色々なことに、なんとかその一言を答えた俺は二人の入室に邪魔な位置からさっさと退いて、部屋の奥に引っ込んだ。その後に二人も続いて、適当に座る。

 別に俺の答えを待っていてくれた訳じゃなかったらしい。邪魔でごめんなさい……。

 赤髪幼女がリモコンの役割も果たす電子目次本を、お姉さんが分厚い目次本を手に取った。

「そうそう、彩ねえ」

 曲を探しなが赤髪幼女が口を開いた。

「なに? アリア」

「実は、気になってることがあるんだけど……」

「どうしたのかしら?」

「喋り方。ときどき、なんか違う。気持ちわ――」

 ゴン。

「っ痛いよ、彩ねえ」

 気付いたらお姉さんの拳が赤髪幼女の頭に刺ささっていた。

「そんなくだらないことを言う暇があるなら、お兄さんに迷惑だからさっさと歌え」

「くだらないことないよ、大事なこと。いつも言ってるじゃ――」

「いいって言ってんの。歌え」

「……わかったよ。確かにいつまでもこうしてても、兄ちゃんに悪いもんね」

 何が大事なんだろう? そんなことを思っていると、曲を入れ終えた赤髪幼女がこちらにリモコンを差し出してきた。

「さ、兄ちゃん。好きな曲を入れるといーよ」

「で、っでも、……その、……ほんと、……いい、……です?」

「いーの! ねー、いいんだよね、彩ねえ」

「ええ。私のことは気にしなくていいから、そうしてもらって」

 その返事を聞くとやれやれとでも言いたげな顔をして俺に言った。

「そういう訳だよ、兄ちゃん。一人で来てるくらいだから、兄ちゃんも歌うの好きなんでしょ? せっかく来たんだから、歌わないともったいないよ?」

 そう言うと、さっき俺がリモコンを受け取るのを躊躇ったときに直ぐに一時停止した曲を再開して、再びリモコンを差し出してきた。喋るのに音が邪魔だと思ったのか、とても気の効く子だった。また同じことをさせる訳にもいかないので今度は躊躇わずリモコンを受け取る。すると、赤髪幼女は満足そうに笑って、それからマイクを手にとって歌い始めた。


とりあえず、一日最大で3話分位が投稿の限界かなと思いました。

小さい女の子とカラオケで相部屋になれたので、もうこのお話終了ですね。

まだまだ先を書いてしまっているので、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。

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