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7月29日 ―5―

 それから、今日の予定をまだ聞いていなかったので佐橋さんに教えてもらった。

 十一時にここを出て、向こうで準備をして、十二時からスタートらしい。

 それと曲のリストについても教えてもらった。全て俺が歌うことになったので、曲の順番は正しく把握しておかなければならい。だが最後に佐橋さんは、「曲順は好きなように変えてしまっていーよ、やりやすいようにしなよ」と付け加えた。

 その後。譲司さんと麗華さんが戻って来た。彩さんはおそらく、アリアちゃんの所に居るのだろう。

「さてー、冷めちゃったけど、ご飯にしましょうかー。時間もないし」

 話しながら、アリアちゃんの朝食を麗華さんがラップしてお店の冷蔵庫にしまう。

「そうだねー。彩ちゃんには、持って行ってあげなくていいの、麗華さん?」

「いいのよー、彩ちゃんは。言っても聞かないんだから」

 麗華さんの言葉が少し厳しい。お粥を持って行ったときに何かあったのだろうか?

 二人が病床のアリアちゃんの横で喧嘩するとは考えにくい。言いたいこと言えなかった分、溜めこんでいるのかもしれない。

「彩は俺が後で交代に行く。俺達の方はいいが、麗華の言う通り開店までは時間が無い。さっさと食っちまおう」

 譲司さんの言葉で時計を見ると、八時半を指している。開店が九時なので確かに時間が無い。

「それじゃー、いただきます」

 麗華さんに倣って、それぞれに挨拶をして食事を始める。

 時間のない朝食は、黙々と進み十五分ほどで終了した。

「さて、じゃあ俺は彩と代わってくる」

 譲司さんはそう言って、彩さんの分の朝食を麗華さんが持って来たお盆に載せて、家の方へ入って行った。

「さてー、じゃあ洗い物しちゃおうかしらー」

 使った食器を運び始める麗華さんに言う。

「あの、洗い物は、俺がするので、麗華さんは、他の準備を」

「あらー、そうねー。じゃあ、お願いするわー。亮ちゃん。お店の軽い掃除手伝ってくれるかしらー」

「お安い御用だよー、麗華さん」

 二人の会話は、間延びして軽い感じで空気を弛緩させるなあ。

 そんなことを考えながらも手は動かす。使った食器を流しへ運び、洗い始める。

 洗い物を終えて時計を見ると、八時五十五分。麗華さん達も準備は終わった様で、ギリギリ間に合ったみたいだった。

「ありがとねー、二人ともー。お客さん、すぐには来ないと思うけどー。もしものために、準備出来てないと彩ちゃんが怖いのよー」

「彩さんが? ……それは、無事に、準備終わって、良かったです」

「太郎君。何を思ったのか、僕の想像出来る範囲で彩ちゃんに教えようと思うのだけど、どうかな?」

「止めて下さい。佐橋さんの想像の範囲って、言いたい放題じゃないですか」

「じゃーあ、私と亮ちゃんで一致した部分だけってことでどうかしらー」

「だから、止めて、下さい。なんか、全部、一致しそうな、気がするので」

「はいはい、じゃあ保留にしとこうか。それより太郎君。一回家に帰るんだろう? 準備してきなよ」

 保留じゃ困るんですが!

「何で一度家に帰るって……」

「だってー、その格好だものねー」

 俺が疑問を口にすると、麗華さんが笑いながら答えをくれた。

 そういえば、昨日に続き部屋着でお邪魔している。確かに、この格好で公演に行く訳にはいかなかった。

 それにしても何笑ってるんですか、麗華さん。原因はあなたなのに。

「太郎君、そんな恨めしい目で麗華さんを見てないで。十一時にお店の前でよろしくねー」

「……、わかりました。じゃあ、一度失礼します」

「はいはーい、また後でねー。郎ちゃん」

 佐橋さんに促されて、俺は一度家に戻る。

 店を出て空を仰ぐと、起きた時と変わらず燦々と太陽が輝いていた。

 この天気がアリアちゃんの体調の様に崩れるということはなさそうだ。どちらも良いに越した事はないが、せめて逆なら良かったのに……。

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