7月28日 ―15―
「ねえ、聞いてもいいかしら?」
料理を始めると彩さんが声をかけてきた。
「何?」
「少し話してくれてはいたけど、どうして引き受けてくれたの?」
「えっと? 何を?」
何かを引き受けた記憶などないのだが……。
「『彩』のことよ」
「ああ、そのこと。えっと、俺が、やりたい、から」
俺が自分でやると決めたことだから、今じゃ引き受けた感覚があまりなかったな。
「それは言っていたけど、どうしてなのかなって。こう言ったら悪いけど、太郎さんって人前に立つのとか好きそうじゃないし」
「当たってる。こんな、だからね」
認めざるを得ない。人前になんてホイホイ出て行ったら、どうなるかわかったもんじゃないな。まあ、だから出来ませんなんて言えないけど。
「じゃあ、何で?」
彩さんに答えを責付かれる。大事なことなのだろうか? 理由を言うの結構恥ずかしいんだけどな。
「えと、俺、目標がある、んだけど」
「湊さんよね。隆昭さんが言ってたわ。それと昨日の話をした時に、アリアもそうじゃないか、みたいなことを言ってたわね」
何で親父が知ってる! 話したことないのに。アリアちゃんのことまでばれてるし。
「もう、親父に、全部聞いてるんじゃ、ないの……?」
「そんなことないわよ。ピンポイントにというか、はぐらかされちゃって、詳しくは聞いてないの。知りたかったら、太郎さんに聞けばいいって言われたわ」
「そう、なんだ。えと、じゃあ、続けるね。その、区切りになった、春先から、特に、意識しだしたん、だけど。それで、俺が、その、楽しむために、カラオケ通ったり。それが、正しいって、思ってたし。でも、それって、今までと、大差ないなって、昨日、アリアちゃんの言葉で、思って」
何言ってるんだろう、俺。うまくまとまらない。これじゃ、伝わってないよな。
「意識しだしたって、湊さんのようになること? でも昨日アリアって、そんなにたいそうなこと言ってたかしら?」
彩さんが何とか汲み取って聞き返してくれる。
「来る時にも、話したよね。アリアちゃん、母さんと、同じこと、言ってたよ。自分だけが、楽しいんじゃ、駄目だって。俺は、迷惑かけて、自分のために、時間を、使ってきた、から。気付けた時に、素直に、変わろうって、そうしなきゃ、駄目だって思った」
それが理由だ。変わるために、向いてないとは思うが『彩』での活動は絶好のチャンスだった。目標が近くにあるから、すぐに間違える俺にとって良い環境だろうし。
「……、そう。ありがとう。答えてくれて」
「いや、いいけど。でも、何で、こんなこと?」
聞いていいものか迷ったが聞くことにした。割と恥ずかしいことを言わされたので、等価交換ということで。等価かわからないが……。
「大したことじゃないの。正直、最初は乗り気じゃないみたいだったし、会った時のことを考えれば、あんなにあっさり引き受けてくれたのが疑問だったから、かしら?」
「何で、疑問形?」
「その、どうして気になるのか、自分でもはっきりしないのよね……。理由を聞けばわかるかと思ったのだけど。でも、そうね。昨日見ていて、太郎さんの変化は何となく気になったというか。その理由がわかったから、少しすっきりはしたのかしら」
あまり判然としない答えだった。俺の答えが、何か彩さんの役に立っていたらいいと思う。
「話してる間に料理で聞きたいことがいくつか出てきたのだけど、いいかしら? 太郎さんの料理は見てるだけでも勉強になるし、色々教えてもらいたいかな」
そうして彩さんの質問に答えながら二人で親父の餌を作っている間、当の親父はアリアちゃんに過去の料理を披露していた。俺はスライムカレーしか見たことが無いので、どんな奇天烈な料理を作っていたのかとても興味をそそられる。
料理が終わった後は、彩さんにはアリアちゃんの所に戻ってもらった。洗濯物を干すのも手伝うと言ってくれたが、親父の洗濯物だ。年頃の女性に親父の下着とか干させる訳にはいかない。量が多くて下着とそれ以外を分別するのも手間だ。
結局、洗濯物を干す間は、再び一人で寂し、……静かな時間を過ごした。




