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7月28日 ―6―

 駅前に、アリアちゃんが座りこんでしまった。

 昨日からずっと見透かされっぱなしなのに、下手な嘘をついて怒らせてしまったみたいだ。人目が少ない駅だったのは幸いだった。

 しかし、どうしよう。彩さんに助けてもらおうと思って見ると、目を逸らされてしまった。

 あれ? アリアちゃんだけじゃなくて、彩さんも説得対象?

 まあ、彩さんはアリアちゃんの説得に成功すればなんとかなる気がする。頑張ろう。根気がいるかもしれないので持っている荷物は全て下ろして、アリアちゃんに目線を合わせて話しかける。

「アリアちゃ」

「――――」

 そっぽを向かれた。何だろう、アリアちゃんにこれをされるのは、かなり傷つく。普段、人懐っこい感じだから余計になのかもしれない。

「えっと、アリ」

「――――」

 今度は逆にそっぽを向かれた。そのままでも良かったろうに……。相手にしませんという意思表示か。……どうしたものか。

 そんなことを思っていたら、彩さんがアリアちゃんに声をかけた。

「アリア。この時間がもったいないから、けりをつけちゃいなさい」

「わかったよ、彩ねえ」

 けりをつけるって、何をするつもりですか? というか、彩さんはノータッチなのかと思っていたが、悪の親玉が下っ端に命令するかのようにアリアちゃんに指示を出していた。

 アリアちゃんはこっちに向き直ると口を開く。

「兄ちゃん、歩くよ。もし断るって言うなら――」

「な、なに、かな?」

「あそこの交番に駆け込んで変態に襲われてるって言うよ」

 言って、駅前の交番をアリアちゃんが指さす。

「そんなの、お巡りさん、が、信じる、わけ」

「冤罪って証明が難しいらしいわね。ちなみに、私はアリアの証言を支持するわよ」

 酷くないですか?

「いや、そんな」

「しかも、変態ってところはあながち間違いではないのかもしれないし」

「な、何で?」

「いくら空想の話とはいえ痴漢は良くないと思うわよ、太郎さん」

「すいません。歩きますから許して下さい。忘れて下さい、魔が差したんです」

 思わず、矢継ぎ早に言葉が出てきた。あの本、見られていた。もうヤダ、生きていけない……。

「わかってくれればいいのよ。忘れるかどうかは、別の話だけど」

 それは、今後の脅迫材料はキープで、ということですか?

「何のこと話してるの、彩ねえ?」

「秘密よ」

「ずるいよ、彩ねえ。教えて!」

 ちょっと、もう掘り返さないで。

「ア、アリアちゃん、ちょっと、コンビニ、行きたい、んだけど、ついて来て、くれる、かな?」

「え、んー、うん。いーよ。彩ねえ、後で教えてね!」

「気が向いたらね」

 気なんか一生向かないで下さい。アリアちゃんを連れてコンビニに入った。特に考えずに彩さんと一度引き離すためだけにコンビニへ来てしまった。

「……、アリアちゃん」

「何かな、兄ちゃん?」

「もう、タクシーは、いいよ。えと、でも、来てくれた、お礼は、したい、ので、えと」

 何か、俺に出来ることを模索する。

「んーとね、じゃあ、アイスで手を打つよ、兄ちゃん」

 アリアちゃんの方から、具体的なものを指定してもらえたので、それで手をうたせてもらう。

「えと、うん。ありがと」

「それは、あたしが言うんだよ、兄ちゃん」

 溜息を吐かれた。いいんだよ、俺が言いたかったんだから。

「えと、彩さんの、分も、その、選んで、くれる、かな?」

「そうだね。彩ねえは、先に買ってかないと貰ってくれないと思うよ」

「じゃ、よろしく」

「任せてよ」

 そう言って、アイスの入ったケースの所まで駆けていくと、すぐにアイスを三つ持って戻って来た。

 えっ、三つ?

「あの、ひとつ、多い」

「何言ってるの? 兄ちゃんの分に決まってるじゃん。連れて来てくれたお礼、だよ」

「そっか、ありがと」

 アリアちゃんの頭を撫でて、アイスを受け取る。

「兄ちゃん、なんで全部持ってっちゃうの! 一個はあたしがお会計しないと意味ないじゃん」

「二人分、で、良かったのに。アリアちゃんが、持って、来てくれた、から、俺もアイス、食べられるん、だよ。だから、それで、十分、それ、以上は、譲らない」

「……、わかったよ。じゃあ、早く彩ねえのとこに戻ろ。それと、ありがとうね、兄ちゃん」

 そうして、アイスを持って彩さんの所に戻ると開口一番、酷い指摘を受けた。

「太郎さん、買収はよくないと思――」

「違うからね!」

「彩ねえ、さすがにそれは兄ちゃんが可哀そうだよ。はい、彩ねえの分。兄ちゃんの奢りだよ」

「それは、悪いわよ」

 彩さんは、首を振って受け取ることを拒否する。

「でも、もう買っちゃったもん。食べないと溶けちゃうよ」

「あの、大した、ものじゃ、ない、けど、その、来てくれた、お礼、だから」

「私達は連れて来てもらったのに……」

「それは、アリアちゃん、から、お礼、貰ったので。それに、十分、してもらっている、よ」

 持って来てもらった荷物を指さす。重い荷物運んでもらっているんだ。それだけでも、十分過ぎるくらいだった。

「……そう。じゃあ、遠慮なく貰うわね」

 あまり納得してない様子だったが、買ってきたアイスはすぐにでも溶け始めそうだったので、すんなり受け取ってくれた。

 アリアちゃんの言う通り、先に買ってしまうのは正解だったようだ。彩さんがアリアちゃんからアイスを受け取っている間に、俺は荷物を拾い上げる。

「さて、じゃあ、行こっか」

 そうして、アイスを食べながら結局徒歩で実家に向かう事になった。

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