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7月28日 ―1―

 翌朝、七時半。起床後、顔を洗って寝癖を整えてから、朝食について考える。朝は基本的に昨晩の残り物で済ませるのだが、昨日は晩御飯をご馳走になったので残り物が無かった。

 そう言えば昨日の雑談の中で、麗華さんが言っていた。

「軽食も取り扱ってるからー、いつでも食べに来てねー」

 もう、お店は開いているだろうか? そこで食べられれば朝食は楽なのだが――確認してみよう。

 俺の部屋はアパート二階、商店街の通りに一番近い部屋だった。だから喫茶店は窓から窺える。昨日帰ってから、もしやと思い窓を覗いてみて気付いた。まあ、中までは見えないのだが、営業中かどうかぐらいの判別はつくだろう。

 空気の入れ替えも兼ねて窓を全開にしつつ喫茶店を見ると、店の前で腰ぐらいの高さまである黒板風の看板を設置している麗華さんが見えた。

 何か、看板――ウエルカムボードだったか? に書いているように見える。おそらく、本日のお勧めメニューとか、そういう客引きのための文句でも書いているのだろう。

 そんなことを考えながら眺めていたら、麗華さんが看板への書き込みを終えたのか、立ち上がって空を眺めるようにこちらを仰ぎ見た。そこで麗華さんと目が合う。

「あらー、郎ちゃんー、おはよー。ご飯、まだなら、一緒にどーおー?」

 朝っぱらからブンブンと手を振って、大声で挨拶してきた。道路を挟んですぐ向いの建物の二階にいる俺に、はっきりと届く程の大声で。

 俺はそれを聞いて、最近読んだロミオとジュリエットにおけるジュリエットのバルコニーでの独白のシーンを思い出していた。“おお、ロミオ”って、バルコニーの下に居たロミオに届く程だったのだから、わりと大きな声だったのかな。溢れんばかりの想いが声のボリュームに反映されたのだろうか?

「郎ちゃーん、気付いてないのかしらー、おーい」

 麗華さんの溢れんばかりの想いってなんだろう? まあいい。とりあえず、近所迷惑甚だしいので何とかしなければいけない。

 そんなことを考えていたら、お店のドアが勢い良く開いた。

「ちょっと、母さん! 今、土曜の朝七時半。休日で、まだ寝ていたい人だっているの! 朝っぱらから何騒いでるの!」

 店から麗華さんを止めるために彩さんが出てきて――さらに、騒々しくなった。

「何じゃないわよー、郎ちゃんに朝の挨拶をしていただけよー」

 麗華さんに言われて俺に気付いたのか、彩さんが控えめに手を振って挨拶してくれた。俺も、軽く手を振って答える。

「これで十分じゃない! 何で、大声かけるのよ!」

 彩さん、挨拶を静かに済ませても、それじゃ意味ない。

 知り合いが迷惑になっているのを放っておく訳にもいかないので、俺は部屋着のままなのも気にせずに、急いでサンダルを突っ掛けて家を出た。階段を駆け下りて通りへ、二人を止めに向かう。部屋を出る時から、ずっと二人の声が聞こえていた。

「だいたい、看板に何書いてるの! これ、昨日のエイリアンじゃない! こんなのを子供が見たら泣くから消すわよ!」

「えー、せっかく書いたのよー? それに、それ見て泣く子なんていないわよー。こんなに、可愛いのにー」

「……本気で言ってんの?」

「もちろんよー」

「母さんに、感性が似なくて本当に良かったと思うわ……」

「あの、……、おはよう、ござい、ます」

 二人の会話が一旦収束したタイミングで、声をかける。

「あ、おはよう、太郎さん。どうしたの?」

「あらあら、郎ちゃん。来るなら、ちゃんと準備してから来ればよかったのにー」

 それが出来なかったのは誰のせいだと。自覚が無いのだろうか? そして特に彩さんは麗華さんを止めに来てくれたのだから、自分の言動にも注意して欲しい。

「えと、二人の声、この辺り、一帯に、ひ、響いてる。朝だから、も少し、静かに」

「あらー、そうだったの? ごめんなさいねー。彩ちゃんには今度から気を付けるように注意しておくわー」

 自分のことだなんて考えは露ほども浮かんでいないようですね……。

「私!? 違うでしょ、母さんが――」

「あの! とりあえ、ず、お店、入ろう」

 思わず、俺も大きな声を出してしまった。放っておくと、この二人は延々と続ける。間違いない。

「……そうね。母さんも」

「あらあらー、わかったわー」

 そうして、三人で店に入った。

ここから、7月28日の話です。

この日にタイトルを付けると、“太郎、帰省する”ですかね。

まんまですね……

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