7月27日 ―13―
店を出ると、まだ少し日射しがきつかった。店の前では弱い風にゆらゆらとなびくノボリが、相も変わらず道行く人に相部屋キャンペーンを宣伝している。店に入る前は何がありがたいのかと思ったが、今なら言える。
素敵な出会いをありがとう。相部屋キャンペーン!
まあ、佐橋さんに仕組まれていた訳だけれども。
そのおかげで、俺がやるべきことを見つけられた。このことは実家に報告に行こうと思う。試験も終わったし、前に帰ってから時間も経った。そろそろ実家の様子を見に行った方がいい頃合いだ。
「太郎さん」
ぼけっとノボリを見ながら考えごとをしていたら、彩さんに声をかけられた。
「は、はい」
「えっと、私達は向こうなんですけど」
そういって彩さんは、今日俺が歩いて来た道を指さした。
「お、俺も、……そっち、です」
「そうなのか? じゃあ、兄ちゃんも一緒に帰ろ!」
「うん、そう、させて、もらおう、かな。えっと、いいですか?」
「はい、もちろんです。じゃあ、行きましょうか」
そうして、来るときは一人で歩いてきた道を三人で辿っていくことになった。
「兄ちゃんの家は、どの辺なんだ?」
「えと、ここから、十五分くらい、の所、だよ。商店街が、あって、その中に、ある、アパート」
「それって、日坂商店街のことですか?」
「そう、です」
「そっかー、兄ちゃんちって、ウチに凄く近いんだな」
「そう、なの?」
「うん。ね、彩ねえ」
「そうね。えっと、太郎さんの住んでいるアパートって、商店街にある喫茶店の向いじゃないですか?」
「えと、そう、です。確か、喫茶店の向い、です。たぶん、その、彩さんの、言っている、所だと」
「たぶんじゃないよ、兄ちゃん。日坂商店街に喫茶店はウチだけだよ」
ウチ? まさか、そこが二人の家なのだろうか。
「えっと、太郎さんの考えている通りだと思います。そのアパートの向いの喫茶店は、私達の家です」
帰り道が同じ方向どころか、ほぼ同じ場所が帰宅先だった。
しかし、そんなに近くに住んでいたのなら、二人のことを見たことがあっていいと思う。アリアちゃんは、赤い髪が良く目立つし、彩さんは美人だから目を引くだろう。でも、記憶にない。
確か、佐橋さんの時も毎日のように顔は合わせていたはずだったのに、あの日が初対面だと思っていたな。俺がどれだけ周りに興味を示さずに、生活してきたかがわかろうというものだった。その時に佐橋さんにも言われたが、これからはもう少し自分の周りに興味を持つようにしようと思う。
それにしても、家が喫茶店か。どんな感じなんだろ?
「ところで、兄ちゃん?」
「ん? なに、かな?」
「兄ちゃんって、普通に話せるんだなー。りょーりょーと話してるときはホント、ビックリしたよ」
「そうですね、私も、その、驚きました。亮さんとは、いつ頃知り合ったんですか?」
「そんなに、驚き、ですか……。えっと、佐橋さん、とは、あの、二ヶ月位、前に、少しあって」
「兄ちゃんは、りょーりょーと初めから、あんな風に話せてたのか? 兄ちゃんにはあたしともりょーりょーみたいに話して欲しいな」
「少しあったということは、それが切っ掛けでお話されるようになったんですか?」
「そう、ですね」
「なら、その話してよ。そこに兄ちゃんと普通に話すヒントがあると見たよ」
「えっと、うん。その、アリアちゃんの、参考に、ならない、と、思う、よ?」
「いーよ、話してよ」
アリアちゃんに促されて、俺はあの日の事を思い出しながら話し始める。
次話から時間が二ヶ月程、戻ります。
あらすじってどう書いたらいいのかわからず、ちょろちょろ書き直したりしてます。大きな変化はないです。あまり、そういうのは良くないとも思ってるのですが。