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7月27日 ―10―

 彩さんを怒らせたアリアちゃんの発言については解決した。

 だが、もう一つ俺にも関係する話がある。これは、アリアちゃんも気にしているようだし、早いうちに解決出来たら良いと思う。

「あの、太郎さん」

 ちょうど声をかけようと思ったところで、彩さんから先に声をかけてきた。

「えっと、ですね。さっきは、ごめんなさい。ちょっと、アリアが言うから、太郎さんは『彩』に入ってくれる訳ですし、太郎さんとの接し方のこと考えちゃって。でも、気が立っていて、良く考えられなくて。変な感じになって、失礼なことを言ってしまって。その、……だからですね、さっきはごめんなさい」

「あの、俺も、……、その、……接し方は、何とか、出来たら、いいなって、思い、ました。……ですから、あ、謝ること、じゃ、ない、です。その、そのこと、考えて、もらえ、てたなら嬉、しい、です。……でも、えと、お、俺も、こんな、です。だ、だから、その、接し方は、人それぞれに、あ、合ったもの、が、あると。それで、その、だから……」

 煮え切らない返事をする俺に、彩さんが言葉を引き取ってくれる。

「はい、そうですね。接し方なんて当人に合ったものがありますよね。こうして、話しているだけでも時間が経てば自然になると思いますし。それに、結局は私の気の持ち様で解決出来ることですから。自分の出来る範囲でやっていきましょう」

「えと、はい」

 それにしても、彩さん。ということは、さっきのはとばっちりですか?

 それと、彩さんは一つ間違っていると思う。彩さんだけの問題じゃない。結局、今になっても二人とは、佐橋さんと話すように普通には話せていない。俺も、頑張らなければいけないな。

「それにしても酷いです、太郎さん。さっき、私を見る目が本当に怯えてました。私、そんなに怖いですか?」

 はい、怖かったです。

「い、いえ。そんな、ことは――」

「あるに決まってるよ」

「そうですか……」

 彩さんが、一気に気落ちした。

「ま、待って、下さい。い、今の、俺じゃ、ないです」

 いつの間にか、俺と彩さんの間に入ってきていたアリアちゃんが、俺を陥れようとしていた。

「え? ……アリア! あなたやっぱり、黙らせた方がいいかしら?」

「いや、それは遠慮するよ、彩ねえ。ただね、あたしは兄ちゃんの様子をしっかり見ていたから、事実を伝えようと思ったんだよ」

「どういうこと?」

「兄ちゃん、最後にあたしに話すとき、顔に死にたくない、失敗は許されないって書いてあったよ。その証拠に、命がかかってたからその時だけ、しっかりと話せてたよ」

「その、……ご、ごめんなさい、彩さん」

 誤魔化そうとすると、二人と同じ轍を踏む気がしたので素直に認めた。

「謝ることじゃないですよ、太郎さん。でも、そうですか、怖いですか……」

「そうそう、兄ちゃん。気にすることないよ。彩ねえだって、兄ちゃんの人生は脇役だって言ってたし。あたしは、そっちのが酷いと思うよ」

 嫌な事を思い出させないで欲しい。この話を続けるのは上手くないな。なので、適当に閉めてしまおう。

「えっと、じゃ、じゃあ、お相子、ということ、で、よ、良くない、ですか?」

「そ、そうですね」

 彩さんが、すぐに同意してくれた。同じ思いだったのかもしれない。

「それより、兄ちゃん。一つ勘違いしてるみたいだから言っておくけど、彩ねえは二十歳だよ。十代じゃないよ」

「え?」

「何でばらすのよ、アリア。太郎さんが十代だって言うんだから、そのままでよかったじゃない」

 本当の事らしい。会った時から、勝手に同い年か、それ以下だと思ってた。

俺より二つ上だったなんて。美人は年齢がわかり辛い。

「え? だって、兄ちゃんが彩ねえのこと大人びてるって。大人びてるんじゃなくて、大人なのに」

「結局、口が減らないのね」

 やれやれと、首を振って彩さんが溜息を吐いた。

「うわぁー、おとなのみりょくがまんさいだよ、彩ね――」

 ゴンッ。

「痛いよ、彩ねえ。あたしの頭が悪くなったらどうしてくれるの?」

「万々歳ね。その減らず口もちゃんと減ってくれるんじゃないかしら」

「減らず口なのに、減る訳ないじゃん。馬鹿だなー、彩――痛!」

 ゴンッ

「あら? まだ減らず口が聞こえる。叩き足りないのかしら? 続けていれば、そのうち何も聞こえなくなると思うのだけど」

 駄目です、彩さん。喋“ら”なくなるのと、喋“れ”なくなるのは違います。

「さて、馬鹿な事をやって時間をとってしまいました。ごめんなさい、太郎さん。歌いましょうか?」

「はい、……そう、しましょう」

「い、痛いよ、彩ねえ。手心が足りないよ……」

 そう言って頭を押さえているアリアちゃんをスルーして、彩さんは曲を送信しようとしている。俺には、黙って二人の姿を見ていることしか出来なかった。

 彩さんが曲を送信し終えて、マイクを一つ俺に渡してくれた。

 ――ガチャ。

 突然、前触れもなく扉が開いた。

「いやー、ごめん。もう時間だから出てもらっていいかなー」

 遂にあなたはノックすらしなくなったか!

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