5話
柴犬君アイデアないない事件から数日後。
魔道具を持って、アラン君はやって来た。
「じゃっじゃじゃ〜ん!! これがルティアちゃんから頂いた、アイデアで作ったオリジナルの魔道具でーすぅ」
テーブルの上に置かれたのは、見かけは単なる鉄製の水筒。
「鉄製の水筒ね」
ナタリーさんが言った言葉に、私も同意し頷いた。
「この鉄製の水筒には種も仕掛けもあるんだなぁー。魔法陣が刻印されていて飲み口を右に回すと中の飲み物が冷たくなり、左に回すと温かくなる。」
自信満々でアラン君が言うのだが、私が出したアイデアじゃんと思ったのは内緒だ。それにしても魔法陣って便利だな、私でも刻印できるのかな?
「旅に行く時は、重宝しそうね」
ナタリーさんの言葉に頷きながら私も感想を述べる。
「確かに旅では暑い時に冷たい飲み物が飲めて、寒い時に温かい飲み物が飲めることは嬉しいかも」
「家の中より旅で使う方が需要あると思って、コップじゃなく水筒にしたんだ。ルティアちゃんにはアイデア料として、師匠には日頃からお世話になっているので二人に1個ずつこの『冷温水筒』をプレゼントしちゃいます」
アラン君は私とナタリーさんの前に、『冷温水筒』をドンと置いた。
「ありがたく使わせて頂くわ」
「ありがとう」
それぞれ、アラン君に御礼を言いながら『冷温水筒』を受け取る。
アラン君は『冷温水筒』を私達に渡すと帰って行った。
アラン君が数日後に魔法学校で『冷温水筒』を発表したところ、この魔道具は生徒の間で注目を集めアラン君に注文が殺到した。そして、アラン君は結構な額を稼ぐことになったのはまた別の話。
***
アラン君が帰ったあと、ナタリーさんは薬の調合をすると言うので私はナタリーさんから渡されていた『これを読め! 魔法の基礎がわかるぞ! 第一巻』の続きを読むことした。
この本には魔力についてなどの、本当に基礎中の基礎がわかりやすく説明されている。魔力とはマナと言われ世界の全てにあることや、属性のことも書かれていた。基本属性は火・水・地・風・氷・雷・光・闇の八種類だった。
***
さて本も読み終わったので、先日作った秘密兵器の様子を見に行く。今日あたり、いい感じに出来ているはずだ。
キッチンの窓辺に、置かれている一つの瓶。その瓶を自分の前に移動させると、おもむろにフタを開けて中を確認する。
瓶の中は、ぶくぶくと泡立っていた。
「後は濾すだけ」
ぶくぶく泡立っている物の正体は『天然酵母』だ。
『美味しいパンが食べたい!!』と思った時に、キッチンで大量の林檎を発見したのだ。
林檎を見て確かめるように一口食べると、それは正しく林檎の味がした。見た目も味も林檎なら天然酵母が出来るのではと思い作ってみたが大成功。
天然酵母のパンはイーストで作るパンのふわふわ感には負けるが、香りがよく味が確りしていて格別に美味しいのだ。
だからこの世界のパンより、断然美味しいと思う!!
作り方は瓶を煮沸して、林檎の皮と芯を入れキッチンの日が当たる窓辺に置いて二〜三日待てば泡立って来る。
そして忘れてはいけないのは一日一回フタを開けて、かき混ぜて空気を入れることだ。
酵母が完成したら液を濾して出来上がり、すごく簡単だと思う。
魔法が使えればもっと簡単につくれるのかな……。
今から天然酵母のパンを作っても、パンを食べられるのは明日の昼になると思う。その前に食べると酸味がきつ過ぎて食べられないのだ。だけど時間を置くと味が落ち着き奥深い味になる。
パンも焼き終えて、新たな林檎の天然酵母も作った。もちろん袋に入れたパンは、藤の籠に入れてフタを閉める。ナタリーさんが間違えて食べないように、『藤の籠は開けずに、明日のお昼まで楽しみにしていて下さい』と言っておくことは忘れない。
***
今日のお昼は庭で採れたサラダと、ナンのようなパンにトマトソースとチーズをのせて焼いた物と、シャルクの実の汁。
シャルクの実はサッカーボールくらいの大きさで、中には甘い汁が沢山入っている。生命力が強くどんな所でも育つので、シャルクの実の汁は水の代わりに飲まれているそうだ。
そして、デザートには林檎のクレープ焼きを作った。これは天然酵母を作った時に、皮と芯を取った林檎が余ったので作ってみた。
林檎を薄くスライスして、甘く煮る。それをプライパンに薄く敷きつめてその上からクレープ生地を薄く流し込んで焼くと出来上がり。
この林檎のクレープ焼きは、ナタリーさんに大変高評だった。
***
和やかなお昼が終わると、小型の脂肪測定器のようなものをナタリーさんが持って来てテーブルの上に置く。
「これは、属性と魔力量を調べる魔道具で『魔力測定器』と言うの。ルティアの属性と魔力量を、調べようと思って持って来たのよ」
私が興味深げに見ていると、ナタリーさんが説明してくれた。
この魔力測定器は中央に水晶が付いていた。
「えっと、どうすればいいですか?」
「この測定器の左右の棒を両手で持ってちょうだい。そうすると水晶に属性と魔力量が映るわ。あといちおう属性も調べるわね?」
測定器を私に渡しながら、ナタリーさんが言う。水晶が液晶のような、役割をしているみたいだと思った。
「はい、わかりました」
私は期待をふくらませながら、測定器を受け取り左右の棒を握る。
そうすると、測定器の反応は……。
うそ!! 何も反応しない……。