信長は遠き星に蘇り魔王信長となる
【管理者】
これ、起きよ。信長殿、起きよ。
信長は目を開いた。自分の腹と首を触ってみたがなんともなかった。周りを見回すと何もない空間に浮かんでいた。
実はな、協力して貰いたいのじゃ。
見るがいい。足元に燃える星が見えるじゃろう。わしが作った。周りに見えるいくつかの星も作った。信長殿がいた星とは全く違う星じゃ。
信長殿のいた星はこの空を辿って行ってはるか先じゃ。到底人には行き着けぬ。
周りを見てみい。星空じゃ。見える星は足元の燃える星と同じじゃ。あの光る星一つ一つに作った神がいる。こちらからは見えないが光る星の周りにいくつか星を作って束ねている。
この星空全てを束ねる神がいる。そして今見ている星空とは全く別の星空がいくつもある。それぞれに束ねる神がいる。
更にそうした者の上に立つ神がおる。祖の神じゃ。
我々は星に住む者からしたら神じゃが、単なる数個の星の管理者に過ぎぬ。そして人事考課があるんじゃ。作った星の発展具合によって評価されるのじゃ。
この前近所の神同士で評価作業があったのじゃが、我の星は非常にまずい。発展していないのじゃ。発展させるべく作った知恵ある種族が滅んでしまったのじゃ。今は獣と魔物しかおらぬ。よって評価は甲乙丙丁戊のうちの戊じゃ。最低の評価ということになるの。まずいのじゃ。次の評価までに少しでも発展させ少なくとも丁、それも丙に近い丁の上まで持っていかねばならぬ。そうでなければ我は消滅させられてしまうのじゃ。
滅んだ種族を復活させても又滅ぶは必定。そこで信長殿の世界の管理者に泣きついたのじゃ。大分叱られたが助けて貰った。あちらの世界で亡くなった者の魂をこっそり渡してくれることになった。それが信長殿とその下の者だ。
信長はそれからしばらく色々注意事項を聞かされた。
【魔王信長】
「ふふふ、ははははは」
信長が甦った。信長生誕の星からはるか遠くの星に。
黒のマントに包まれて信長が嗤う。
風がマントを翻し緋色の裏地が目を驚かす。
蘭丸の差し出す太刀を右手で抜刀し横にブンと振った。太刀より紫の焔が伸び居並ぶ武将、侍、足軽、商人、百姓、職人等、そしてその家族の頭上を切り裂いた。
魔王信長の誕生である。
「皆の者大儀である。ここに来る時に管理者を名乗るものから聞いておろうが、この地は日の本では無い。唐天竺でも無い。この地よりどちらに向かっても朝廷も足利も三好も毛利もいない。全く未知の土地が広がっている。天下という言葉があるが、ここは異天下である」
魔王信長は人々を見渡した。
「この星の管理者は言った。この地の知恵あるものは滅びた。魔物に滅ぼされたそうである。滅びたままではこの地は発展せぬ。滅びたものを復活させてもまた滅ぼされるは必定。強き者でなければ生き残れぬ。だから日の本の管理者に依頼し、我々をこの地に呼んだ。生きた者をそのままこの地に呼ぶことは出来ぬ理だそうである。既に気付いておろうが我々は日の本で一度死んでおる。その魂を呼び肉体をこの地に合わせ作り出したそうである。であるから我々は強き日の本の魂とこの地に合った強き肉体を持っておる。その上日の本の知識がある」
「この地には我々と似たような形をした者、異形のもの、魔物、獣がいると聞いた。戦を好むもの、好まぬもの、懐く魔物や獣、襲い来る魔物や獣がいて、力が無ければ生きていけない」
「管理者から三年の猶予を貰った。その間、この地は我々に敵対するような諸々は入って来られない。攻められることはない。三年を過ぎれば我々に気付き襲い来るであろう。この猶予の間に生き延びられる態勢を作りあげなければならぬ」
「我々以外は人ではない。人心を一つにして生き延びなければならぬ。我々が争えば即滅亡である。兵も消耗する事は許されぬと知れ。兵も農民も商人も死なぬようにせねばならぬ」
「この異天下に人は我々しかおらぬ。一人死ねば滅亡が一歩近づくと知れ」
「幸いこの異天下に来たものは我が家臣と民のみである。我は全ての者を慈しもう」
魔王信長が皆を見渡し、続けた。
「管理者が用意したこの地を岐阜と名付ける。見よ、この地は今いる小高い丘を中心にした広い平野だ。遠くに山が連なって平野を囲んでいる。この中心の丘の上に岐阜城を建てる。城の周りに城下町を作る。だが今は時間がない。皆がこの異天下で生き延びられるよう、まず水を確保する。この一帯は獣が豊富でまた粟、稗、米、麦、野菜は少しだが生えているそうだ。毒草はないと言われたので食料は大丈夫だろうが、生えている穀物、野菜から採種して田畑で栽培し増やさなければならない」
「住まいは掘立小屋を作る。城も掘立小屋だ。雨露が凌げる住まいができたら魔物が入って来られないようにこの地の周りに城壁を作る。城壁の内で全てを賄えるようにしなければ生き残れない。三年しかない。すぐ取り掛からなければ魔物に滅ぼされるであろう」
「信忠、城と城下町を縄張りせい。掘立だぞ」
「光秀、うぬには言うことがあったが是非に及ばず。光秀は急ぎここに集いし者たちの名簿を作れ。民も含め全員の名簿だ。名簿を作ったら皆の者が住む掘立小屋を手配し、百姓衆を差配して田畑を作れ」
「勝家、城壁を差配せよ。城のではない。田畑を含め全てを囲う城壁だ。城壁は我らの生命線だ。城壁はこの地に来た全員で作る。我も石を運ぼう」
「蘭丸、名簿作りを手伝え。弥助はそばにいよ」
【秀吉】
「遂にお市様の娘を手に入れたぞ。もう少しじゃ。その時が楽しみじゃのう」
うつらうつらしながら手は自然に己れの股間のモノをしごいていた。
「猿」
「うう、早くこれを入れたいものよ」
「猿」
秀吉は手を止めて目を見開いた。暗がりに人影が見えた。
「猿、楽しそうじゃな」
「う、上様。まさか。上様は本能寺でお亡くなりになられたはず」
「さっき言っておったがうぬは市の娘を手に入れたそうじゃな。わしの血筋を利用して天下人を目指すか」
「滅相もございません。お市様のお子様はただ保護しただけでございます。天下人など夢、ーー考えたことも御座いません」
「そうか。ねねもかわいそうよの。こちらの事には関わらぬ取り決めじゃが、このくらいは良いであろう。うぬの子種は元々少ないが、根絶やしにしてやろう。ははははは」
「上様ーーー」
股間に強烈な痛みをおぼえ、秀吉はガバッと身を起こした。
「誰か、誰かおるか」
「ハッ、ここに」
「灯りを」
宿直が手燭を持って来た。
秀吉は上様が居た辺りを照らさせた。
「何か」
「いや、もうよい。下がって良い」
茶々懐妊 秀吉は苦悩する
「殿下、大変でござる」
「何が起こった」
「茶々様が」
「茶々がどうした」
「伏せってござる」
「何、医者をよべ」
「呼びましたがすぐお帰りでござった」
「病が重いのか、医者が手をつけられぬのか。藪医者め、首を三条河原に晒せ。天下の名医を呼べ」
「無駄でござる。茶々様は懐妊でござる」
「馬鹿者それを早く言え。確かに大変じゃ。大変じゃ、大変じゃ」
「医者の首はいかがなされます」
「名医じゃ。褒美を与えよ。めでたい、めでたい」
秀吉は寝所へ駆けて行く。
「茶々、茶々、でかした。具合はどうじゃ」
「大丈夫です。少し気持ちが悪いくらいです」
「そうか、そうか。やっと世継ぎができる。ありがとうよ。大事にな。立派なややを産んでくれ」
「皆が良くしてくれます」
寝所にはお付きの侍女と治長が控えていた。
「皆の者頼むぞ」
「はは」
その夜、秀吉はうなされていた。
記憶が蘇ってくる。
「子種は、子種はーーー上様に」
一遍に目が覚めた。
「まさか、ワシの子では無い・・。いやあれは夢だ。上様は本能寺で亡くなっているはずじゃ。ワシの子種を潰せるわけがない。茶々が孕んだ子はワシの子じゃ。間違いない・・・に違いない」
目を閉じて無理に眠ろうとする。
「だが光秀は上様の亡骸を見つけられなかった。ワシも見つけられなかった。もしかするとあの時の上様は本物であったか。それか生き霊であったか。思い出した。次の朝、尿が赤く濁っていた。医者はお疲れだったのでしょうと言っておったが。あれは上様に子種を踏み潰されたからではないのか。ややのてておやは誰なのじゃ。あいつか。それともあいつか」
秀吉は一晩中悶々としていた。
朝になり秀吉は茶々の寝所へ急いで出向いた。
「皆の者、下がっていよ」
侍女たちが下がるのを待って秀吉は茶々の手を取った。
「のう茶々、ややはわしのややか」
「あれだけ猿のように抱いたではないですか。殿下のお子に決まっているじゃありませんか。それともお疑いでしょうか」
「いや・・・」
「殿下の最後のお子でありましょう。だいぶ最後はお疲れのようでしたし」
秀吉のおとなしい股間を弄りながら茶々は艶然と微笑んだ。
秀吉は思う。
『もし不義の子だと断定してしまうとワシの子はいなくなってしまう。今も一向に起きないワシのオトコはもう役立たずだ。茶々の腹の中のややは疑いはあるが絶対ワシの子ではないとは言い切れぬ。それに何より茶々は上様の血筋じゃ。ならばワシの子とした方が良いのか』
秀吉は不義を問いただすことはついに出来なかった。




