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第4話 悲哀

私は目を覚ました。


「鈴さん、起きましたか。ご飯です。あと、鈴さん専用の車いすも用意してあります。あとで乗ってみましょう」


そう言ったのは、いつもの看護師だった。


何か夢を見た。


そうか。

大石祈祷。


私は、あの方が原因となって、このような道をたどっているのか。


ただ、私はよくわかっていないことがある。


なぜ昴と結婚するのが良くないのか。

まあ、わかる気はするが。


それが、これほどまでにけがをさせても償えるものなのか。


あと、私は聞きたい。


あの人はもしかしたら、おと……


「鈴ちゃん! 大丈夫!」


慌てた声と一緒に、おばちゃんが病室に飛び込んできた。


「大丈夫だよ。ちょっとやっちゃったけど、まあ何とかなるよ」


私は笑ってみせた。


けれど、おばちゃんの顔から血の気が引いていく。


「え……鈴ちゃん、まさか……歩けないなんてことないよね」


震えた声だった。


「左手も動いていないし……嘘よね……」


おばちゃんは慌てて私の手に触れた。


「動かせるわよね! ねえ、お願い、動かして!」


おばちゃんの額から汗が滴っていた。


私は静かに真実を話した。


「あのね、もう動かせないの……一生……左手も右足も……」


少し間を置いて、私は続けた。


「それと……本当にごめんなさい。私、彼に振られたの。事故のことを正直に伝えた次の日から、もう連絡が来なくなった。だから、ごめんね。結婚式には招待できなくなっちゃった」


私は大丈夫だと思っていたはずなのに、涙が止まらなかった。


「本当にごめんなさい。私が気をつけていれば……」


気づけば、私はおばちゃんに謝っていた。


「あんたが謝ることなんてないんだよ……」


おばちゃんは涙を拭きながら言った。


「私こそ悪かったね……あんたに、こんな負担を背負わせてしまって」


おばちゃんと私は、一緒に泣いた。


夕方まで、ずっと泣いてしまっていた。


その時だった。


廊下から足音が聞こえた。


「鈴さんですか」


それは、中年の男だった。


「どうされましたか」


私はゆっくりと尋ねた。


男は深く頭を下げた。


「私……あの時の運転手です。本当に申し訳ありません。あそこは本来、道幅が狭く、ゆっくり進まないといけない場所でした。ですが、この時間なら誰もいないだろうと思ってしまって……」


男の声は震えていた。


「あなたの症状も聞いています。片手と片足の麻痺だと……これは完全に私の過失です。だから、すべて私に償わせてください。本当に申し訳ありませんでした」


その運転手は泣いていた。


そして、おばちゃんも泣いていた。


私はゆっくりと男に向かって話した。


「大丈夫ですよ……実は、私、結婚式が明日だったんです。でも、このけがが原因で全部白紙になりました」


その瞬間、運転手の顔が真っ青になった。


次の瞬間、運転手は土下座をした。


「それは……! 本当に申し訳……」


「それ以上、謝らないでください」


私は静かに言った。


「むしろ、あなたには感謝しています」


男は顔を上げた。


「けがくらいで私を手放す男と、危うく結婚するところだったんです」


私は少し笑った。


「そんな男と一生生きるくらいなら……足や手なんて、あっても同じです」


そして私は言った。


「だから、感謝しています。ありがとうございます」


そう言うと、運転手は膝をつき、大声で言った。


「本当に申し訳ございません。この罪は一生かけても償います」


大丈夫なのに……。


もともと私が飛び出さなければ、こんなことにはならなかったのに……。


あなたはただ、運命を変えるために「使われて」いただけ。

だから、本当は何も悪い人じゃない。


「もう顔を上げてください。元はと言えば、私が飛び出したのが悪いんですから」


そうして私は、空気を和ませるために、わざとふざけた口調で言った。


「いや、それよりもですよ。私、弁護士特約に入っているんですよ。だから、あなたの保険会社から、がっつりお金をむしり取れるんです。このケガなら三千万は固い。――それ使って、うまい店でも行きましょう。ちょうど夫の愚痴を聞いてくれる人が欲しかったんですよ」


私は思いきり笑った。


この重たい雰囲気が嫌だったのもある。

でも本当は――


私が悪かったのに、そこまで謝られると、なんだか居心地が悪かった。


「もう、謝らないでください。さ、お互いさまでいいじゃないですか。あなただって、罰を受けたのでしょうそれで充分ですから」


そういうと、運転手は、


「わかりました。では今日はこれで失礼します。けれども、何か問題があったりしたら教えてください。手伝いが必要な時はいつでも呼び出してください」


その人はそう言って去っていた。


そうして私は一息つこうとした。

その時だった。


「ところで、あんた。なんでそんなに元気なの」


おばちゃんが話そうとしていた。


「今日はいいかな。ちょっと疲れちゃって」


私も今日はいろいろあった。

だから、もう今日は休みたい。


私は、フクロウの音に囲まれ

ただ、今でも痛い足をさすりながら

それを感じながら、私は眠りについたのだった。


私は、それでもよく目を覚ました。

足が痛かったのだ。

そしてトイレにも行きたくなった。

この状態でトイレに行くのは大変で、私はよく眠れなかった。


そして翌朝。

私は、スズメの合図とともにならよかったが、

足の痛みとともに目覚めたのだ。


もうまじで足が痛い……


最悪だ。

これほど痛いなんて想定外だ。


そう言ってニュースを開いた瞬間、大石祈祷の名前が目に入った。


今日、死刑が執行されるという。


……そうだ。

神みたいな人は言っていた。

「大石祈祷が、あなたのボトルネックだ」と。


私は彼の名前を検索した。


すると、2020年の写真が出てきた。

桜の前で、ピースをしている写真だった。


けれど――


見れば見るほど、私は恐怖を覚えた。


彼は2018年ごろまで、二人組で活動していた。

そのころの写真の彼は、子供のように無垢な笑顔だった。


だが、ペアを解消した後。

彼の表情は一変していた。


笑ってはいる。

けれどそれは、取り繕った笑顔だった。


口元しか動いていない。

無理やり笑おうとしているのが、一目でわかる。


こんなに分かりやすい嘘の笑顔を、私は見たことがなかった。


そして――


ピースしていない方の手。

その拳は、強く握りしめられていた。


私はそれを見て、涙が出た。


彼の気持ちが、少しだけ分かってしまったからだ。


ああ。


あなたも――

桜が邪魔で仕方なかったのでしょう。










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