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家の前に落ちていた女の子を拾ったら、懐かれた上に居着かれた〜気付けば手料理でポンコツわんこを餌付けてた〜  作者: あすれい


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番外編その3後編 有言実行わんこが運んだ、幸せのカタチ

 ひとしきり仔犬の愛らしさを堪能した俺達は、月島家で昼食をご馳走になった後、再び沙霧のお父さんの運転する車で家へと帰ってきた。


 仔犬達は、雲母ともう一匹が母犬である霞のいる月島家で、残りの一匹が父犬のお宅に引き取られることになっているらしい。兄弟が引き裂かれるのは忍びないが、生後二ヶ月が経過するまでは霞が世話をするらしいし、今生の別れというわけではないそうだ。


 霞の旦那さんはご近所という話なので、俺達も一安心といったところだろうか。


「ご主人様ぁ♡ 霞の赤ちゃん、とっても可愛かったですねっ?」


 俺の部屋に入り、ベッドに横並びで腰を下ろすと、沙霧はぴったりと肩を寄せてくる。その横顔は、愛らしい仔犬と触れ合った余韻で蕩けているようだった。


「そうだね。俺も産まれたての仔犬を見たのは初めてだけど、なんかもうすごいって感想しか出てこなかったよ」


「ですわんね。いつの間にか、霞もお母さんの顔になっておりましたし──ちょっとだけ、羨ましいかもしれません」


 沙霧は頬を緩めたままでどこか遠くを見つめ、ほんのりと切なさの滲むため息をついた。


「羨ましい?」


「……だって、私よりも歳下ですのに、あんなに可愛らしい仔犬を産めるんですもの。その点、人間は縛られるものが多すぎると思うのですわん!」


「あはは、確かにね。でも、さすがに高校生で子供は早すぎるよ」


 そもそも、人間と犬では流れる時間の早さが大きく異なる。それは、寿命の長さに起因するものだ。


 犬の生涯は、人間よりもはるかに短い。その中で種を残そうとするならば、若いうちに産むのはなにも間違ったことではないはずだ。


 人間社会のしがらみが多いのは同意だが、そこは羨むべきところじゃないと、俺は思う。


 けれど、沙霧の気持ちもわからなくはない。俺はそっと沙霧の肩を抱き寄せた。


「そんなに焦ることはないよ。俺達には、この先時間はたくさんあるんだからね。仔犬は、自立ができてからだよ。まぁ……それがいつになるかは、まだわからないけどね」


 まずは高校卒業。それから進学に就職。ある程度収入が安定するにも時間はかかるわけで。


 うわぁ……。

 道のりは長いなぁ。


 これまで漠然としか考えていなかった未来が、急に現実味を帯びてきた気がした。たかだか十七年しか生きていない俺にとっては、果てしなく感じる。


 無性に遠い目になりかけたところで、沙霧がパチンと手を叩いた。


「あっ、そこはご安心くださって大丈夫ですわんよ! ご主人様は、お父様の会社を継ぐことがほぼ決定しておりますので♡ あとは時間の問題ですわん♡」


「……今、なんて?」


 なんか、唐突に爆弾発言が飛び出した気がするんだが?


 俺が、沙霧のお父さんの会社引き継ぐ?

 そんな話、全く聞いてないんだけど?!


 というか、お父さん社長なんかいっ!


「待って待って! それ、いつ決まった話なの?!」


「わふん♡ ご主人様は、私の旦那様になる方ですので当然のことですわんよ♡ お父様もお母様も、樹くんには期待しておりますので♡」


「まじかよ……」


 沙霧と別れるつもりなんてさらさらないが、俺の知らないところで外堀はどんどん埋まっているらしい。


「ですのでご主人様、将来の不安なんてなにもありませんの♡ 私達の未来は安泰ですわんっ♡」


「……はぁ。まったく、沙霧には敵わないなぁ」


 俺の頭はキャパオーバーを起こし、考えることを放棄した。考えるだけ無駄なのだ。俺の愛する沙霧は、暴走猛犬お嬢様わんこなのだから。おまけに、勉強もできて可愛いときた。運動音痴なところもチャームポイントだ。


 ……属性盛りすぎでしょ。


「んふふっ♡ ご主人様との幸せな人生のためでしたら、手段は選びませんよ♡ というわけで、未来は確定しておりますので、今のうちに大切なことを決めておく、というのはどうでしょう?」


「大切なことって?」


「それはですねぇ……私達の仔犬、愛の結晶の名前ですわんっ♡」


「気が早すぎないっ?!」


「うかうかしていては、すぐにその時が来てしまいますわんよ? 事前準備は重要ですわん!」


「いやまぁ……いいけどさぁ」


 あれ、いいのかな?

 なんかよくわかんなくなってきちゃったな……。


「私からの要望としては、樹くんのお名前から一文字拝借したいのですわん♡」


「俺の名前、一文字しかないけど?!」


「つまり、樹を入れるということですわんね♡」


「なら、俺も沙霧から一文字もらって考えようかなぁ。……女の子なら、沙羅、なんてどう?」


「となれば、男の子なら双樹ですわん?」


「それ、もうセットじゃん。双子じゃないと使いにくくない?」


「でしたら、頑張って双子を産みますわんっ♡」


「頑張ってどうにかなる問題?!」


 いや、沙霧ならやりかねんぞ。理屈とか、常識とか、そういうものは沙霧の前ではまるで意味をなさないのだ。


 なら、受け入れるのが手っ取り早い。沙羅と双樹で沙羅双樹。ありきたりなネーミングだが、悪くない。俺と沙霧の繋がりを更に強固にする子供たちには相応しいだろう。


「ま、あんまり期待しすぎない程度に期待してるよ」


「わんっ♡ つきましてはご主人様ぁ♡」


「ん? まだなにかあるの?」


「いえいえ、そういうわけでは。ですが、せっかくこうしてまだ見ぬ仔犬の名前を決めたことですし、子作りの予行演習、いたしましょっ?♡」


 そう言うと、沙霧はガバっと俺に飛びついてきた。


 やれやれ、相変わらず愛情一直線なわんこさんだ。だが、そこは俺も沙霧に引けを取るつもりはない。


 俺は胸に飛び込んできた沙霧の身体をしっかりと受け止め、愛おしさを込めて抱きしめ返した。


 ***


 そして月日は流れ、十年後。


 とある病院の一室で、双子の新生児が産声を上げた。産んだのは沙霧で、父親は当然俺である。


 俺と沙霧は順調に関係を深めながら大学へと進学し、その後、沙霧のお父さんの経営する会社に就職すると同時に結婚した。


 それからというもの、公の場では完璧な奥様を演じきっていた沙霧だが──


「ご主人様ぁ♡ 私、やりましたわんっ♡ 可愛い仔犬達が産まれましたっ♡」


 病室に二人きり、いや、我が子を含めて四人きりになると、沙霧は久しぶりにわんこモードを解禁した。


「うん、ありがとう沙霧。頑張ったね……」


「えへっ♡ これも、ご主人様がたくさん愛してくれたおかげですわん♡ ほら──沙羅、双樹、パパですよーっ」


 名付けは、かつての話し合いの通り。お腹の子が、男女の双子だと判明した時点で決定となっていた。


 俺の腕の中には、愛する妻と、二人の小さな命。

 かつて実家の前で拾ったわんこは、俺に最高の幸せと家族を運んできてくれた。


 これから俺は、この大切な家族を幸せにするために、もっともっと頑張らないといけなくなるだろう。


 でも今だけは──


「……よしよし、みんないい子だ」


 俺は三人の愛おしい頭を撫でながら、瞳に涙を溜めながら、心からの感謝を込めて沙霧の頬にキスを落とした。


【完】

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