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家の前に落ちていた女の子を拾ったら、懐かれた上に居着かれた〜気付けば手料理でポンコツわんこを餌付けてた〜  作者: あすれい


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番外編その2中編 挨拶わんこと、仕切り直しの要求

 通話が繋がるやいなや、スマホ越しに母さんの声が耳に響いた。


『あっ、やーっと出た。母さんからの電話にはワンコールで出なさいとあれほど……!』


「わ、わんこっ?! じゃなくって……久しぶり、母さん。ちなみにワンコールで出ろなんて始めて言われたんだけど……」


『あら、そうだったっけ? まぁ細かいことはいいのよ。その様子だと元気にしてたみたいだけど、お休みだからってぐうたらしてたんじゃないでしょうね?』


「そんなこと、ないよ……?」


 俺は冷や汗をかきながら、大嘘をついた。


 ごめん母さん、ついさっき起きたところだわ。

 しかも、まだベッドの上です……。


『ふぅん?』


 訝しむような母さんの声。ここで探りを入れられるのは危険だ。そういう時は、話を変えてしまうのが一番。


「と、ところで、なんの用だったの?」


『あぁ、そうそう。こっちでの仕事が片付いたから、今日帰るって言おうと思ったのよ。今回は長かったから、樹のご飯が恋しいわ……というわけで、今夜は美味しいお料理、期待してるわね?』


 母さんがこうなのは毎度のことだが、普通逆じゃないのかと思う。息子を一人家に残していったのだから、母さんが作ってくれても良いはずなのだが。


 とはいえ、料理は俺の趣味のようなもの。父さんとともに、我が家の家計を支えてくれている母さんに振る舞うのはやぶさかではなかったりする。


「わかった……母さんが好きそうなもの用意しておくよ。んで、帰ってくるのは何時くらいになりそうなの?」


『そうねぇ……夕方には帰れると思うけど』


 その言葉を聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろした。普段からすればだいぶ寝坊をしてしまったが、それでもまだ朝である。つまり、母さんの帰還までにはそれなりの猶予があるわけだ。


 その間に、沙霧と相談して今後の方向性を──


「んひょあっ……?!」


 不意に、俺の口から素っ頓狂な声が飛び出した。首筋に湿った感触が走り、背筋がゾクリとして。


 見下ろすと、沙霧が俺の首に顔を寄せている。沙霧はそっと顔を上げると、声を出さずに唇だけを動かした。


 ──構ってほしいですわん♡


 沙霧の言葉が難なくわかる。俺の読唇術も、だいぶ鍛えられたらしい。


 じゃないわっ!

 なんで今舐めたのっ?!


 沙霧の本性がわんこであるのは、もはや疑いようがない事実。そして、わんこという生き物はやたらと舐めてくる動物である。


 キスをすれば甘えるように俺の口元を舐め、おやつを手ずから与えれば指先を舐め、わんわんの最中には、それはもうあちこちをペロペロと──


『どうしたのよ、樹。おかしな声出して』


「えっ、いやっ……ちょっとわんこに舐められて……!」


 ……しまったぁっ!!

 動揺しすぎて、うっかり口走っとるやないかいっ!


 全力で脳内ノリツッコミを決めるも、もはや手遅れである。


『わんこって……犬?! なに、私がいないうちにどっかで拾ってきたわけっ?』


「それはその……家の前で倒れてたところを保護したというか、そんな感じです……」


『……まったく、そういうことはもっと早く言いなさいよ。どんな子? 可愛い?』


 あれ……?

 怒られるかと思ったけど、意外と前向きなのかも?


「そりゃもう、すごく可愛くてさ。めちゃくちゃ懐いてくれてるし」


『なによもうっ、私がいない間に樹だけ一人で楽しんでたのねっ? ずるいじゃない!』


「あ、あはは……ごめん」


『ねぇねぇ、鳴き声とか聞けないかしら? 今側にいるんでしょ?』


「あー……一応いるけど」


 チラッと沙霧の顔を伺うと、全力で首を縦に振ってくれる。俺は通話をスピーカーに切り替えた。


「じゃあ……沙霧、ご挨拶して」


「わんっ♡」


『やぁ〜んっ、可愛いー!! それにとっても賢い子なんじゃないの? 樹の言ったこと、完全に理解してるわよね?』


「それはまぁ……」


 実際は人ですし?

 しかも賢さで言えば、たぶん俺よりもはるかに上。ポンコツなのが玉に瑕だが。


「わんっ♡ ありがとうございます、お義母様! 樹くんの自慢の愛犬ですわんっ♡」


『…………えっ?』


 母さんの困惑した声が、虚しく空気に溶けていった。なんとなくこうなる予感はしていたけれど──


 俺は静かに天を仰いだ。母さんが帰るまで、問題を先送りにする計画が頓挫した瞬間だった。


『……樹、説明してくれるかしら?』


「これはそのっ……沙霧は俺の彼女で、わんこごっこをしてた最中というかっ!」


 もはや、誤魔化しでもなんでもなく、俺はただ事実を並べていた。


『ほぉ〜……へぇ〜……知らなかったわぁ。まさか樹にそんな趣味があったとはねぇ。とにかく、帰ったらじっくりお話ししましょうか』


「……はい」


 終わった……。


 身震いしそうなほど、母さんの声は冷たかった。そうして、静かに通話は途切れた。


「わふんっ♡ 樹くんのお義母様とお会いするの、楽しみですわんっ♡」


「全然楽しみじゃなくない?! お説教確定じゃんかっ! しかも俺、絶対変態だと思われてるよ……」


「それはいけませんね。ですが、ご主人様の愛犬であるこの私が、先手を取って華麗に解決してみせますわんっ♡」


「どこからそんな自信がっ?!」


「学校での実績があるじゃないですわん!」


「そうだけど、相手は母さんだよ?」


 とんでもないことをやらかして、沙霧との交際を反対されたら困ってしまう。


「相変わらず心配性なご主人様ですわんね♡ 安心してくださいませ、お義母様に無体は働きませんので♡」


 どこまでも自信満々なわんこである。そこが可愛くもあり、不安の種でもある。かといって、俺にできるのは、洗いざらいぶちまけるという正攻法のみ。


 家族から白い目を向けられる可能性よりは、沙霧の起こすかもしれない奇跡に賭ける方がマシかもしれない。


 俺は祈るように、小さくため息をついた。


「んじゃ、沙霧に任せるよ」


「わんっ♡ 必ずや、今の生活を守り通してみせます! なのでご主人様ぁ♡ 先にご褒美がほしいですわん♡」


「ご褒美って……?」


「言わなくてもわかってるくせに……ですわん♡ 途中でお預けなんて、意地悪しないでくださいませ。お義母様のお帰りまでは時間があることですし……♡」


 ギシッとベッドのスプリングを軋ませながら、沙霧がにじり寄ってくる。あの状況から仕切り直しを要求してくるとは、見上げたわんこだが──


「しょうがないなぁ、沙霧は。ほら、おいで」


 俺もちょうど、身体の奥で渦巻く熱を持て余していたところだ。少しくらいなら構わないだろう。


「きゅーん♡ ご主人様ぁ、わんわんっ♡」


 広げた腕に沙霧が飛び込んできて──


 俺はあっという間に食べられてしまった。まったくもって、食欲旺盛なわんこである。

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