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家の前に落ちていた女の子を拾ったら、懐かれた上に居着かれた〜気付けば手料理でポンコツわんこを餌付けてた〜  作者: あすれい


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第6話 風呂上がりの惨劇と、冴えるツッコミ

 結局、一人で落ち着けたのはわずかな時間で、入る前よりも胸をざわめかせながら風呂から上がった。バスタオルで乱雑に身体の水気を拭き取っている最中、はたと気付く。


 しまった……着替え、持って来るの忘れた。


「あああっ!!」


 月島さんのことをポンコツだなんだと笑っていたくせに、俺だって初歩的なミスをやらかしているじゃないか。己のポンコツっぷりに腹が立って、思わず雄叫びをあげていた。


 その叫びに反応するように、リビングの方からドタバタと足音が近付いてくる。のみならず──


「相葉くんっ、どうかしましたかっ?!」


 そんな言葉とともに、廊下に続くドアが勢いよく開かれた。血相を変えて飛び込んできたのは、もちろん月島さんだった。


「わーーーーーーっ!! なんで開けたのっ?!」


「緊急事態かと思いまして!」


「たった今っ、緊急事態になったよっ!!」


 風呂から上がったばかりの俺は、もちろん全裸である。しかも驚きのあまり、唯一の防具であるバスタオルを宙に放り投げてしまっていた。両手をあげるような形で。


 ゆっくりと月島さんの視線が下がっていき……あるところでピタリと止まる。ボンッと音がしそうなほど急激に、月島さんの顔が真っ赤に染まっていった。


「きゃああああぁぁぁぁぁーーーー!!」


 ご近所中に響き渡りそうな絶叫が耳をつんざく。そこでようやく俺は手で前を隠したが、もうすでに全てが手遅れである。


「なんで裸なんですかああぁぁぁっ?!」


「風呂上がりだからだよぉっ!! いいからもう出ていってくれぇーーーっ!!」


「そんなぁっ……今更追い出さないでくださいっ! 泊めてくれるって言ったじゃないですかぁっ!」


 なにを勘違いしたのか、月島さんは絶望的な表情を浮かべてすがりついてきた。まだ濡れたままの黒髪が揺れ、風呂上がりのいい匂いがふわりと鼻をくすぐる。


 状況が状況であればしっかりと堪能したいところではあるが、今はそれどころじゃない。


 月島さんは俺の両腕を掴み、ガクガクと揺さぶってくる。そのたびに、ふるふると震えるのだ。


 一応──なにが、とは言わないでおく。


 おまけに、せっかく前を隠していた手も封じられ、そこに月島さんの視線が釘付け。もはや逃げ場もない。


 窮地に立たされた俺は防御をかなぐり捨て、月島さんを強引に引っ剥がした。そのまま身体の向きを反転させ、ドンッと背中を押す。


「出ていくのは脱衣所からだぁーーーーっ!! リビングで大人しくしてなさいっ!」


 月島さんを追い出した俺は固くドアを閉ざし、トボトボと遠ざかっていく足音を聞きながら、再びその前で膝を抱え込むことになった。


 ……月島さんに全部見られた。

 もうお婿に行けない。


 普通こういうの、男女の立場が逆じゃないのか。


 ちょっとだけ泣いた。


 とはいえ、いつまでも全裸でいるわけにもいかない。俺は裸族ではないのだ。


 月島さんがリビングから出てこないことを確認して、腰にバスタオルを巻き付け、こっそりと自室へ駆け上がる。


 寝間着をチェストから引っ張り出して身に着けると、やっと人間としての尊厳を取り戻したような気分だった。改めて、衣食住の大切さがわかった出来事だった。人らしくあるためには、どれか一つでも欠けてはだめなのだと。


「はぁ……」


 なにがベリーイージーだよ……。

 災難続きじゃないか。

 

 しかしまぁ、これ以上のことはもう起こるまい。過ぎたことは忘れるに限る。


 そうしないと……また泣きそうなんだもん。


 俺は涙を拭い、リビングへと戻った。そこで待っていたのは、挙動不審の月島さん。忙しなく目を泳がせ、俺を視界に捉えるとビクリと身体を跳ね上げる。


 その勢いを利用して、月島さんは床に這いつくばった。


「あのあのあのっ、えっとその……すいませんでしたぁっ!」


 古式ゆかしい日本の謝罪スタイルである土下座──かと思いきや、五体投地だった。その二つの意味合いの詳しい違いは知らないが、全くの別物であるという知識だけはある。


 どちらにせよ、女の子が床に額を擦り付けている姿を見下ろすのはどうにも気まずい。あいにくと女の子を平伏させて喜ぶ趣味は持ち合わせていない。


「いや……わざとじゃないのはわかってるから。そんなことしなくていいって」


「……なんて寛大なお言葉。しかしそれだけでは私の気が済みません。ここは私も脱いでお詫びを……」


 むくりと立ち上がった月島さんは、Tシャツの裾に手をかけた。そのまま恥ずかしげに頬を染めて、じりじりとめくり上げていく。控えめなヘソがちらりと顔を出して──


「ちょあっ、脱ぐな脱ぐなぁっ!!」


 布地を押し上げる双峰がこぼれ落ちる前に、どうにか阻止に成功した。


 正直に言うと、一瞬だけ躊躇った。俺だって男だ、人並に興味はある。でも、堪え抜いた。理性を繋ぎ止めた自分を、心から褒めてやりたい。


「止めないでくださいっ! 目には目を、歯には歯を、裸には裸をもって償うのが──」


「ハンムラビ法典かっ!」


 ちくしょうっ……今日の俺、ツッコミが冴えてやがるぜ。


「とにかく脱がなくていいからっ!」


「もしや相葉くん、女の子の身体に興味のない人ですか……?」


「発想が飛躍しすぎでしょっ! 興味あるよっ、ありすぎるくらいだよっ! だから止めてんのっ、わかって!」


 あれ……俺はなにを白状させられているんだ?

 やばいな、だんだん息切れしてきた。


 なのに、月島さんはどこか安心したようにほっと息を吐いた。 


「そうですか、わかりました。では脱ぐのをやめる代わりに一つだけ──」


「ん、まだなにかあるの?」


 ぽっと朱に染まりながら、月島さんはもじもじと言う。


「えっと……相葉くんの、とってもご立派でしたよ……?」


 両手で頬を押さえて照れるその姿は、確かに大層可愛らしい。けれど、発言の内容が致命的にアウトである。女の子として。


 膝から力が抜け、俺はその場に崩れ落ち、祈るように床に額を擦り付ける。


「……もう忘れてください」


 今度は俺の番だった。

 でも、ちょっぴり嬉しかったのは──絶対に内緒だ。

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