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家の前に落ちていた女の子を拾ったら、懐かれた上に居着かれた〜気付けば手料理でポンコツわんこを餌付けてた〜  作者: あすれい


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番外編その1 雌犬わんこの、名実揃ったご主人様

 沙霧と恋人同士になった翌朝。


 学校へ向かうと、教室では俺達の話題で持ちきりだった。校門付近での沙霧のご両親との揉め事もかなり目を引いたそうだが、なにより『俺の沙霧』発言が決定打になったらしい。


 おかげさまで、俺と沙霧が付き合っていることは公然のものとなり、数多の嫉妬の視線を受けることになった。


 だがまぁ、そこが沙霧のすごいところ。あっさりと開き直った。もちろん、沙霧が俺の愛犬であることは誰にも内緒だが。


 おかげで、昼休みもコソコソしなくて済むようになり、血涙を流す勢いで羨ましがるケンタウロスを横目に、沙霧と仲良く食事をする運びとなった。


「樹くんっ、あーん♡」


「あー……んっ」


 ……もぐもぐ。


 俺の手元には箸がない。なぜなら、沙霧が一人分の箸しか入れていなかったから。調理担当は俺、弁当箱に詰めたり包んだりは沙霧と、役割分担をした結果がこれである。


 ねぇ、そんなポンコツやらかす?!

 もしかしてわざとか?!


 クラス公認のカップルになったからって、いきなり教室で間接キスを披露することになるとは。


 購買に割り箸を買いに走るという案は、すでに沙霧によって却下されている。俺は弁当のおかずと一緒に、羞恥心を飲み込んだ。


「美味しいですか?♡」


「いやっ、これ作ったの俺だよね?!」


「食べさせて差し上げたのは私ですもん♡」


 もはや、沙霧は擬態を使用していない。俺達の交際がバレた瞬間に脱ぎ捨てていた。学校では真わんこモード、家では元祖わんこモード、その二つを駆使して俺を誘惑してくるのだ。


 昨夜だって、結局沙霧に押し切られて、一緒に風呂に入ることになったり──


 誓って言うが、まだ手は出していない。


 とはいえ、それもいつまで持つやらわからないのが現状である。沙霧はお母さんから授かった使命を全うしようと、虎視眈々──もとい犬視眈々と、その予行演習の機会を狙っているようなのだ。


 閑話休題。


 沙霧はひたすら俺に口を開けるように促すばかりで、自分はまだほとんど食べていない。このままだと、俺だけが完食することになってしまう。


 俺は沙霧の手から、箸を奪い取った。


「あっ! 樹くんっ、なにするんですの!」


「俺だけ食べてたんじゃ不公平でしょ。だから今度は沙霧の番。ほら、あーんして」


「もう……せっかく私が楽しんでいましたのにぃ。ですが、そういうことでしたら──あーん♡」


「お前ら……そういうのはよそでやってくれない?! なにが悲しくて、目の前でイチャイチャ見せつけられないといけないんだ?!」


 ついに我慢の限界に達したのか、健太が叫びながら立ち上がった。


「あら? 桜肉くん、いたんですの?」


「ずっといたじゃんよっ!!」


「それは失礼しました。私、樹くんしか見えておりませんので♡」


「ひでぇっ!! 樹からも言ってくれよ! これじゃ俺、空気みたいじゃんか!」


「ん? あぁ、いたんだケンタウロス」


「おいっ、お前もかよっ!! というか、桜肉でもケンタウロスでもねぇって!」


 ほんのりと瞳に涙をにじませる健太。このコントのようなやり取りに、クラスから爆笑が巻き起こったのは言うまでもない。


 こうして、俺と沙霧はバカップルという不本意な称号を与えられることになったわけだが──


 沙霧を相手にしてると勝手にこうなっちゃうんだから、どうしようもないよね?


 しかしながら、学校での沙霧はこれでもかなり抑えている方である。家に帰ればやりたい放題で、わんこの本能をむき出しにして甘えに甘え、俺の理性をガリガリと削ってくる。


 その中でも一番危険なのは、就寝前。


 これは沙霧を拾ってから一週間が経った夜──


 豆電球の光だけが淡く照らす薄闇の中、俺は沙霧に両肩を押さえつけられ、ベッドに磔にされていた。


 相変わらず、沙霧の寝間着はベビードール。危うい胸元からは、吸い込まれそうなほど深い谷間が覗いている。


「あ、あの……沙霧? 寝ないの……?」


「くぅん……♡ ご主人様ぁ、そろそろつまみ食いくらいはしてくれても良いと思うのですわん♡ 私はすでに、全てを捧げる覚悟を決めておりますのに♡」


「そろそろ、って……早すぎない?! というか、つまみ食いって──」


 俺がぷっつんしてしまったら、つまみ食い程度で済むとは思えない。絶対に、最後まで美味しくいただいてしまうに決まってる。


「私、ずっとアピールしておりますのに……もしかして、魅力ないですわん?」


「そんなことはないけど……まったく、ご主人様をたぶらかすなんて、いけないわんこだなぁ……」


「それは……ご主人様のせいですわん♡ 私がわんちゃんになったのは、可愛らしく振る舞って追い出されないようにするのが目的でしたが──」


「えっ、そうなの? てっきりそういう趣味なのかと……」


 思わず聞き返してしまった。沙霧のわんこ化に、そんな理由があったとは初耳だ。


 そもそも、そこまでしなくても追い出したりしなかったのに。沙霧の思考のぶっ飛び具合に驚いていると、じとっとした目が向けられた。


「……理由もなく突然わんちゃんになるなんて、頭のおかしな人じゃないですか。失礼なご主人様ですわんね。ですが……美味しいご飯で餌付けされて、とっても大事にしてもらって、私もすっかりハマってしまいましたの♡ なのでその責任は取っていただきませんと♡」


「責任って……」


 付き合うことを決めたのだから、責は果たしていると思うのだが。けれど、沙霧は俺の想像の斜め上をいく。ぽっと頬を染め、恥ずかしそうに身体をくねらせた。


「つきましては、仔犬を──」


「また仔犬ネタっ?! あれ……? もしかしてネタじゃなかったり……?」


 恐る恐る問いかけると、沙霧はくすりと蠱惑的な笑みをこぼした。


「ふふっ♡ いつかは、のお話ですわん♡ 実際に仔犬を産むのはもう少し先──これからしばらくは、ご主人様にたっぷり愛していただかないといけませんもの♡ ささ、ご主人様♡ この雌犬の身体、お好きなようにご堪能くださいませ♡」


「また自分で雌犬って言ったっ?! もうそれやめない?!」


「やめませんよ? ご主人様がその気になるまで──わんっ♡」


 沙霧の甘い鳴き声が、俺の理性を容易く打ち砕いた。わんこ沙霧の破壊力が高すぎて、その気になんてとっくになっている。今までは、必死でそれを抑え込んでいたにすぎない。


「本当に、いいんだね……?」


「もちろんですわんっ♡」


「んじゃ俺も……もう我慢しないからなっ!」


 ここまで求められては、尻込みする方が失礼というものだ。俺は腹をくくり、強引に上下を入れ替えて沙霧に覆いかぶさった。


「きゅーん♡ ご主人様ぁっ♡」


「……いつまでわんこでいるつもり?」


「これが今の私なのですわん♡ すっかりご主人様に躾られてしまった私を、どうぞ召し上がってくださいませ♡」


「っとに、沙霧は……まぁ、そこも可愛いんだけどね」


 まず手始めに、俺はたっぷりと愛情を込めてキスを落とした。


 額に、頬に、唇に──


 そこから首筋へと下がっていく。


「んんっ……ご主人様ぁ♡ ひゃんっ♡」


 この夜、遅くまで俺の部屋に蕩けるようなわんこの鳴き声が響き渡ることになる。そこにいたのは、本能に身を任せる雄と雌だった。あながち沙霧の表現は間違いじゃなかったのかもしれない。


 ちなみにだが、沙霧は最後まで可愛い愛犬だったということを付け加えておこうと思う。


「えへっ……♡ やっぱり、ご主人様は美味しい人でしたわん♡」


 これは翌朝、沙霧が寝ぼけ眼のまま呟いたセリフである。


 こうして俺は、身も心も、名実ともに沙霧のご主人様になったのだが──美味しく召し上がられたのは俺なのか沙霧なのか、という謎だけが後に残ることになった。


 ──って俺……。


 あっさり手、出しちゃったじゃん……!


 バレたらお父さんに殺されない?!

 大丈夫か、これ?!

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