表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栄光の彼方に光る月  作者: はぐりはるひさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話

それからしばらく、カレンダーは捲られて、4月を迎えた。

カナタやミツキ、醒ヶ井を始めとする既存の部員たちは学年が一つ上がり、

そして野球部にも、新たな仲間が迎え入れられた。

当然のことながら、彼らこそは今年の間谷地高校の1年生である。


『彼ら』こそ、というのは、いささか語弊がある。

今年の新入部員には、女子もいたからだ。

新入部員11人のうち、実に5人が女子であり、そのうちの3人は生まれついての女性である。

そう、女体化した男子だけではないのだ。


女体化現象が世界中で跋扈する以前から、女子野球は存在していたし、プロリーグが行われていたこともある。

その頃は「女子野球部」が創部されていて、そこに入部することがほとんどだったが、

女体化現象が一般化したことで、甲子園に女子選手が出られるようになってからは、

このように、生まれついての女性である女子選手が、各地の高校の「男子野球部」に入部する例も増えてきた。


彼女らの多くは、それらの練習や習慣についていけず、途中で退部することがほとんどだったが、

この年に間谷地高校野球部に入部した彼女らは、実は上町が見つけてきたものだった。

いってみれば、上町によるスカウトである。

間谷地高校は市立の公立校ではあるが、今や選手の『獲得』に公立も私立もない。

確かに私学のほうが資金も豊富だし、何より学区に囚われることなく選手を広く集めることができる。


では、如何にして上町は、彼女らの進学先を間谷地高校へと向けさせることができたのか。


そこには、カナタとミツキの存在があり、そして何より上町自身の存在があったからだ。

彼女らは何も野球の素人というわけではない。

県内の中学校で野球部に所属していたり、あるいはシニアリーグで活動していた者たちである。

もちろん、彼女らにとって、甲子園出場というのは憧れであり目標だ。


上町はまず、そこを前面に押し出した。

彼女らもまた、同じ県内の高校だから、昨夏の間谷地高校の活躍はしっかりと見ていた。

そして、カナタとミツキが女体化したことも、秋季大会の報道で知っている。

それでもなお、間谷地高校は甲子園出場にもっとも近いところにいることを、上町はアピールした。

確かに、女体化したとはいえ、カナタとミツキは夏の優勝バッテリーである。

しかも、そのとき2人は2年生だったから、もう1年―――実質半年―――だけとはいえ、一緒にプレーできる機会を得られるのだ。

試合で同じグラウンドに立てないとしても、練習を共にするだけで得られるものは少なくないはずである。


その上で、女体化したとはいえ、さらに1年を鍛練したカナタがいるのなら、

昨夏よりグレードアップしているだろうし、もし本当にそうだとしたら。

それも含めて、上町は「我々は甲子園に一番近いところにいる」と、彼女らを口説いたのである。


そして、上町自身の存在があることも忘れずに伝えた。

それはつまり、自身の経験を彼女らに隠すことなく伝えた、ということである。

これはどちらかというと、新入の女子5人のうち、残り2人―――女体化組にしっかりと刺さった。


女体化した者の身に訪れる妊娠は、その不定期性・不確実性もあって、避けられない恐怖となっていた。

特に何らかの競技をしている者にとって、それは例えるならば、いつ振り下ろされるか分からないが、

いつかは必ず振り下ろされることは決まっていて、『運がよければ』やり過ごすこともできなくはない、

常に首元に構えられている死神の鎌だった。


上町は、自身が高校生だったころに経験したことを『彼女ら』に説いた。

この「スカウト行脚」の時点では上町はまだ、現在の状態に至ってはいない。

この頃の上町は、まだその身に胎児を迎えていなかったが、

念願の大舞台で晒した自身の「失態」と、それを越えて指導者になった経緯、

それがあって自身の教え子が妊娠した際にはどうしているか、

女体化した者なら誰しもが抱えることになる脅威への対応策があることを説いたのだ。


そうしてやってきた彼女らが見たものは、まもなく妊娠9ヶ月を迎えようかとしているお腹を抱えた2人の姿であった。

その堂々たる大きさの中には、1人は3つ子、もう1人は7つ子を孕んでいる。

加えて、その彼女らの上に立つ者の胎内にも、妊娠6ヶ月も終盤に入った4つ子が宿っているのである。


しかし、女子5人を含めた新入部員11人には、それは織り込み済みだった。

上町がスカウトし進学の確約を取り付けた後、時を改めて部長の古市が面談を行なったのだ。

それが2月の下旬のこと。

高校の入試が終わり、間谷地高校を受験した中学生のリストの中に、

上町がスカウトした名前があることを確認すると、古市は各自に現況を説明した。

新入部員たちはそれによって事態を把握していたから、いざ実際に目の当たりにしても、そこまでの驚きはなかった。


相変わらず秘密特訓はしていたものの、表向きは練習に参加していないことになっていたカナタも、

この日はキャプテンとして挨拶をするため、久方ぶりにグラウンドへと姿を見せた。

その横には、同じく表向きは休養中のミツキも控えている。

お腹の大きさもあり、体調を考慮して、2人は用意された椅子に座っていた。


「みんな、久しぶり」


「「「おつかれさまです!!!」」」


「そして、ようこそ間谷地高校野球部へ、ボクが3年生、一応キャプテンの堀江彼方です」


「「「よろしくお願いします!!!」」」


「横にいるのは同じ3年の春見光月くん、今はこんな身体だけど、キャッチャーをやってます」


「こんな身体ってなんだよ、それはお前もだろカナタ」


お互いに軽口を叩きながらも、カナタはいつもの調子で淡々と挨拶を進めていく。


「見ての通り、ボクたちは今、お腹に赤ちゃんがいます

でも、だからといって、野球をやめるつもりもありません

ボクたちの目標は今年も夏の甲子園に行くこと、そして今年もあの紅い旗を持って帰ること」


「紅い旗、その意味はお前らにも分かるな?」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


「この間谷地高校野球部のポリシーは、「自分にできることを全力で」

みんながそれを約束してくれたら、例えボクたちがいなくても、きっと勝ち進むことができるはずだと、ボクは信じてます

というわけで・・・これまでの人も、これからの人も、みんなよろしくね」


「「「「「はい!!!!!よろしくお願いします!!!!!」」」」」


「じゃあ、申し訳ないけど、俺たちはこの辺で・・・」


ミツキがそう言うと、カナタが一瞬、目の前に並んでいる部員たちの中の誰かにアイコンタクトを送った。

一瞬のことすぎて、それをはっきりと認識できた人間は少なかったが、

それが誰に向けられたものであったのか、しっかりと受け取った部員は確かに一人だけいた。

そして、カナタとミツキはゆっくりと立ち上がり、同じようにゆっくりとグラウンドから去っていった。


「ふぅ・・・」


「どうだカナタ?久々にグラウンド行くと、やっぱ違うよな、気が引き締まるっていうかさ」


「まぁね・・・校舎の中で会うのとは、やっぱり変わってくるよ・・・」


2人がいるのは室内練習場の中にある小部屋。

普段は資材が置いてあったり、簡単な身支度ができるようなスペースとして使われていたが、

カナタとミツキが秘密特訓をするようになってからは、そのための準備室としても使われており、

またお腹がすっかり大きくなってからは、ゆったりと休憩できるように整理されていた。

その入口のドアをノックする音が聞こえてきた。


「堀江先輩、春見先輩、入っても大丈夫でしょうか?」


「ああ、ごめん、入ってきていいよ」


「失礼します」


ドアを開けて入ってきたのは先ほどカナタがアイコンタクトを送った相手、他でもない醒ヶ井である。

彼もまた、新学期を迎えたことで学年が上がり、この4月からは2年生だ。

ミツキがカナタのボールを受けられなくなって以降、キャッチャーとして特訓に付き合うようになって久しいが、

一応の礼儀として、醒ヶ井はこの部屋に入るとき、必ず一言断りを入れてからにしていた。


ミツキはともかくとして、意外なことにカナタもそんなことを気にしないのだが、

曲がりなりにも醒ヶ井は「健全な男子高校生」である。

いくら去年の夏まで男性だったとはいえ、今やすっかり「母親の身体」となった2人と一緒でいるのは、さすがに気が引けるものがある。

うっかり入ってしまうと、もしかしたら「見てはいけないもの」を見てしまうかもしれないという怯えもあった。


「堀江先輩も春見先輩も、体調は大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ、じゃあ始めようか」


「はい、ゆっくりやっていきましょう」


「すまんなサメ、あと少しの間だからな」


「春見先輩も無理はしないでください、堀江先輩よりもしんどいでしょうから」


「私も見させてもらっていいかな」


いつもなら聞こえないはずの声が聞こえた。

その声がしてきた方向を、3人が一斉に振り向くと、そこにいたのは。


「「「監督!?」」」


「なんだよぉ・・・私がここにいたらダメなのかよぉ・・・」


普段から部員たちの自主性に任せているため、滅多に練習に姿を見せない上町がそこにいた。

上町の横にはもう一人、制服を着た女子もいる。彼女のお腹もまた大きく膨らんでいた。


「何かやってるとは思ってたが、さすがカナタとミツキだな、醒ヶ井まで巻き込んで・・・」


「あのー・・・監督・・・?」


「ん?なんだ、カナタ?」


上町に返すように、カナタとミツキが声を揃える。


「横にいるのは誰ですか?」

「その子は誰ですか?」


その上町の横にいる人物が発言した。


「あっ・・・は、はじめまして!わたし、私市・・・私市由乃(きさいち・よしの)って言います!」


「きさいちさん・・・?」


「ヨシノ、って呼んでください!」


「うん、実はだな」


その「ヨシノ」と名乗る彼女について、上町が紹介を始めた。

上町によると、ヨシノはリトルリーグで野球をやっていたが、

野球を続けるつもりで中学に進学した直後に女体化し、そのまま妊娠。

その後、中学卒業までに計2回の妊娠・出産を経験したという。

それでも野球を諦めたくなかった『彼女』は、中学で野球部のマネージャーを務め、

去年の秋季大会でのカナタを見たことで、できることなら高校でも野球部に関わりたいと考えるようになった。

それも、できることなら、カナタがいる間谷地高校で。


都合のいいことに、上町がスカウトした新入部員の中に、ヨシノと同じ中学校の生徒がいた。

その話を聞いたヨシノは、自ら上町にコンタクトを取り、

上町もまた、その心意気に感じ入って、『彼女』もスカウトしたのだという。


「なるほど・・・でも、なんでそれで俺たちのところに?」


「うむ、それなんだがな・・・ヨシノ、自分で話すか?」


上町から水を向けられたヨシノは、一瞬ドキッとしながらも、

自らの口で自身の現況について話し始めた。


「実は・・・その・・・」


「実はその・・・?」


「・・・3人目がお腹にいまして」


「「「3人目!?」」」


そう、間谷地高校への進学を決めた矢先、ヨシノは三度目の妊娠に見舞われたのだった。

過去二度の妊娠に続いて、今回もまた単胎だったのは不幸中の幸いか。

それにしても、若干16歳にして、はや三児の母となることに変わりはない。

そのことは、カナタとミツキ、そして醒ヶ井に驚きを与えるには充分すぎた。

ヨシノの話に、カナタが問い掛ける。


「で、ヨシノ・・・ちゃん、で、いいのかな?」


「はっ、はいっ!大丈夫です!うれしいです!」


どうやら、一瞬ドキッとしながらになるのは、ヨシノの性格と見える。

それはともかくとして、カナタは話を続けていく。


「ヨシノちゃんは今、何ヶ月なのかな?」


「はちっ、8ヶ月です!6月の半ばに産まれる予定ですっ!」


「おいおいおい、てことは俺たちと同じくらいじゃねぇか」


「あっ、そっ、そうなんですね!なんか、奇跡ですね!」


しかし、何故、上町はヨシノを連れてこの部屋に姿を見せたのか。

そういえばその答えが出ていないことを思い出した醒ヶ井が、改めて尋ねた。


「あのー・・・なんで監督はヨシノさんをここに・・・?」


「ああ、そうだ、そうだった、それを言わなきゃな

ヨシノをここに連れてきたのは、カナタとミツキの専属マネージャーにするためだよ」


上町の回答にカナタとミツキは顔を見合わせたが、

醒ヶ井は瞬時にその意図を理解した。


「あー、なるほど、同じ時期に産まれるし、ヨシノさんは言ってみたら「先輩ママ」?ってやつになるからですね」


「醒ヶ井お前、頭の回転がいいな、そうさ、まさにその通りだよ

同じ時期に産まれるってのは、偶然も偶然だけどな」


醒ヶ井の推測が的中したことで、カナタとミツキにも安堵の表情が浮かんだ。

確かに、ヨシノの経験は先輩ママとして頼りにできそうだし、

加えてここまでずっと野球部のマネージャーを務めてきた経歴もある。

なんなら、リトルリーグまでとはいえ、プレーヤーとしての経験もある。

そんな人物が自分たちの専属マネージャーになってくれるとは、これほどまでに心強いこともない。


「監督、ありがとうございます」


「いや、これはマジでありがてぇ・・・」


2人の反応に、上町も安心した。

なんといっても、カナタもミツキも初めての経験となることだ。

ヨシノと出会えたこと自体が偶然ではあったが、

この2人に充てるには適格すぎる人材であったことがはっきりとした今、

上町からも憂いは消えた。

一人、まだどぎまぎとしているヨシノが口を開く。


「え・・・えっと・・・じゃあ、わたしは・・・あの・・・」


その心配を打ち消すように、カナタが答えた。


「大丈夫だよヨシノちゃん、落ち着いて」


「じゃっ、じゃあ、わたしは・・・っ!」


「うん、少しの間かもしれないけど、よろしくね」


「あっ!ありがとうございますっ!一生懸命頑張りますっ!よろしくお願いいたしますっ!」


「こちらこそよろしくだよ、ヨシノ

なにせ、俺もカナタも経験したことないことだからさ」


こうしてカナタとミツキに頼もしい、いや、頼もしすぎるマネージャーが就くこととなった。

実際、過去にプレー経験もあり、中学の3年間で野球部のマネージャーを務めていたヨシノは、その能力を存分に発揮した。

ある日の特訓中のことである。


「・・・あの、カナタ先輩、ちょっといいですか?」


「ん?ヨシノちゃん、どうかした?」


「いえ・・・その、なんていうか、ちょっと違和感がありまして」


「・・・え?」


「ここをこうしたほうが、身体への負担が少なくなると思います」


このように、ミツキや醒ヶ井が見抜けていなかった修正点に、

ヨシノがどんどんと赤ペンを入れていくのである。

また、それが本当に適切な指摘だった。


「・・・おい、カナタ、これ!」


「堀江先輩!」


「・・・ヨシノちゃん、すごすぎない?」


「間違ってなかったみたいでよかったです、だいぶすっきり動けませんか?」


「すっきりなんてもんじゃないよ!!ヨシノちゃん、すごい!!」


さらに、ヨシノは野球だけでなく、先輩ママとしても、

カナタとミツキに有益な情報を与えていった。


「わたしには多胎の経験がないのでアレなんですけど・・・」


「いや、それでもすっげぇ助かるわ、分かんねぇことばかりだったもん」


「監督さんは何も言わないんですか?」


「監督も20年ぶりの妊娠だし、ここまで続いてるのは初めてのはずだからな・・・」


「そういう意味では、監督もボクたちと同じで、初めてみたいなもんだよ

もしよかったら、監督にもアドバイスしてあげてくれないかな、ヨシノちゃん?」


「はっ、はいっ!分かりましたっ!」


こうして、ほぼ完成に近付いていたカナタの新スタイルは、

ヨシノによる細かな修正を経て、精度を高めることができた。

その間にも時は着実に進んでいき、いよいよ県大会開幕まであと1ヶ月少し、と迫った、6月のある日のことである。

その日もこれまでと変わらず、室内練習場の小部屋に、カナタとミツキ、そしてヨシノはいた。


「・・・う・・・うぅ・・・んぅ・・・」


ミツキが低い呻き声をあげている。

7つ子をその胎内に抱えるミツキは、その重さと大きさから、

これまでもちょっとした動きに、このような呻き声をあげることはあった。

しかし、この日は雰囲気が少し違っていた。


「みっくん、大丈夫?いつものやつ?」


「う・・・うん・・・いや・・・なんっ・・・か・・・うぐっ!」


その雰囲気に、ヨシノが気付いた。


「ミツキ先輩!ちょっと失礼します!」


「なっ・・・ヨシ・・・ノっ・・・何を・・・っ」


少し慌てたものの、落ち着きを取り戻したヨシノが、

ミツキが履いているジャージのズボンと下着を脱がすと、そこにあったのは。


「・・・ミツキ先輩」


「なんだ・・・よ・・・ヨシノ・・・ぐぅっ・・・」


「・・・赤ちゃん出かかってます」


「マジかよ・・・あぐぅっ!!」


「みっくん!!とりあえず落ち着い・・・んんっ!?」


パツンッ!


バシャッ


「カナタ先輩!!」


「あ・・・あっ・・・ヨシノ、ちゃん・・・これって、もしかして・・・」


何か弾けた音と共に、カナタの足元には盛大な水溜まりができつつあった。

ミツキと同じく、カナタもジャージのズボンを履いていたが、

その股間部にはあからさまな濡れ跡が拡がりを見せている。


「もしかしなくても、です・・・」


「・・・破水って、ヤツ?」


「カナ・・・っタ・・・だいっ、じょうぶ・・・?」


「みっくんほどじゃな・・・ううう・・・」


カナタにも鈍痛が襲い始めた。

それは、今まさにミツキの身体を襲っているものと同じ類の痛みだ。


「え・・・これ・・・ヨシノちゃん・・・ボクたち、どうしたら・・・」


「と、とりあえず、保健室の先生を呼んできます・・・っ!?」


そう言って小部屋を出ようとしたヨシノの袖を引いたのは、

いつでも気丈なそぶりを見せていたミツキだった。


「た・・・頼む・・・ぐぅっ・・・ヨシノ、お願いっ・・・だから・・・」


「ミツキ先輩・・・」


「ここに・・・ぃっ・・・いてくれ・・・はっ、ああっ!!」


「ボクも・・・ふ・・・うぅっ・・・お願い・・・ヨシノちゃん・・・んぅっ!」


「カナタ先輩・・・分かりました、なんとかしてみますっ!」


時が刻まれていくのが、あまりにもゆっくりと感じられる。

ミツキの陣痛が始まり、カナタが破水してから、かなりの時間が経ったように思えたが、

小部屋の壁に掛かっている時計を見ると、まだ2時間ほども経っていない。

その間にも、ミツキを襲う陣痛は激しさを増し、カナタにも訪れた痛みはいよいよ本格的になっていった。


「あっ、ああっ・・・あがぁっ!!」


バッツンッッッ!!!

バッシャアァァァァァ!!!!!


「ミツキ先輩!破水しました!」


「あぐぁあああああっっっ!!!」


7つ子を孕んでいるだけあって、ミツキの破水は、

カナタのそれとは比べ物にならないほどの激しさだった。

まるで、身体中の水分が全部出ているのではないかと思えるほどである。

しかし、この破水の勢いで、ミツキの中にいた胎児も一気に出てきた。


「ほぎゃっ、ほぎゃあっ!ほぎゃあっ!」

「おぎゃあっ!おぎゃあぁ!」


「すごい・・・一気に2人も出てきた・・・」


「みっくん・・・んぅ・・・みっくん・・・赤ちゃん、産まれてきてるよ・・・んぐぅ・・・」


「ああっ・・・ふんっ・・・うっ・・・多胎って・・・ぇっ・・・こんなんなのっ・・・か・・・?」


「わたしは多胎やったことないので・・・あっ!また出てきます!」


一度にまず2人出てきたことで胎内に余裕が作られ、それがスペースとなったことで、

ミツキの身体からは立て続けに胎児が産まれてくる。

とはいえミツキには、最後の一押しをかける必要があった。


「ふぐうぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!!!」


「ミツキ先輩!もう少し息んでください!」


「つってもさぁ、ヨシ・・・ノぉぉぉぉぉ!!!うううぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんっっっ!!!!!」


「おぎゃっ!おぎゃっ!おぎゃあぁぁぁ!」


「よ、ヨシノ・・・ちゃん・・・ボク・・・っも・・・っ!!」


カナタの呼び掛けに、ヨシノはそのほうにも気を配る。

ヨシノはカナタのほうを向くと、自身の経験で事を進めていく。


「カナタ先輩、少し失礼しますね」


「ヨシノちゃん・・・?」


ヨシノはカナタの股間に手を当てると、そのまま指を入れていった。


「よっ!ヨシノちゃん・・・っ!」


「これ、内診って言ってですね・・・子宮口がどれくらい開いてるか確かめてるんですよ・・・」


「あっ・・・だからってそんな・・・ああっ・・・んうっっっ!!」


「ん・・・まだそんなに開いてないですね・・・少し時間がかかるかも・・・」


その傍らで、ミツキの出産は止まることなく続いていった。


「ああっ・・・あっ、あぐぅっ!!で、出るぅぅぅぅぅ!!出てるぅぅぅぅぅッ!!」


「ミツキ先輩!短い呼吸してください!はっ、はっ、はっ、って!」


「はっ・・・はっ、はっ、は・・・あああああああっ!!!」


「ほぎゃあっ!ほぎゃっ!おぎゃあっ!」


「あっ・・・ああ・・・ああっ・・・あと、3人・・・ううっ・・・」


「うっ・・・うぐぅ・・・ふぅぅぅぅぅ~っ・・・」


「ミツキ先輩・・・カナタ先輩・・・」


立て続けに胎児をひり出しているミツキもだし、

破水が先行してしまい、なかなか子宮口が開いていかないまま、陣痛が進んでいくカナタも、

お互いに体力を消耗しながら、それでも先に進んでいかなくてはならない持久戦に突入していった。

専属マネージャーであり、なし崩し的に2人の分娩介助をすることになってしまったヨシノも、

自身の臨月腹を抱えながら、自身には経験のない多胎出産に悪戦苦闘していた。


誰かに連絡を取りたくても、室内練習場のロッカールームにスマホは置いてきてしまった。

それはカナタにしても、ミツキにしても同様だ。

もし連絡がつけられるとしたら、それは2人の出産が終わるか、運良く誰かに来てもらうしかない。


この日に限って運が悪かったのは、普段ならキャッチャーとして特訓に付き合ってくれている醒ヶ井が、

家庭の事情によって早退してしまい、部活動を欠席してしまったことだ。

そうでなければ、ヨシノが2人に付き添い、醒ヶ井が保健医なり養護教諭なりを呼びに行くことができていたはずだ。


だが、現実とは無情だ。

道の途中で女体化してしまったことも、それによって妊娠してしまったことも無情であるが、

こうして、助けを呼ぶことがほぼ絶望的な状況で出産が進んでしまっていることも、また無情である。

救いがあるとすれば、年齢の割に経験豊富なヨシノだけでも、せめてこの場にいてくれることだろうか。

今やカナタとミツキにとっては、『彼女』こそが頼みの綱であった。


「あっ・・・あっ・・・あがっ・・・うがあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ミツキ先輩!あと一息!」


「ふうううぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんんっっっ!!!!!」


「みっくん・・・うぅぅ・・・で・・・出てきてるよ・・・ぉおっ!!」


「おぎゃあぁ!おぎゃあぁ!おぎゃあぁ!」


「はっ・・・あっ・・・あぁっ・・・出た・・・終わった・・・ぁっ・・・」


「ミツキ先輩!おめでとうございます!おつかれさまです!」


小部屋の灯りはついていたものの、ミツキが産気付いてから、いつしか9時間が経過していた。

外は当たり前のように真っ暗となっていたが、ミツキの胎内に宿っていた7人の胎児は、

今ここに新生児として、すべて世に産み出された。


女体化妊婦の出産は、往々にして安産の傾向があり、割合に早く終わることは知られていたが、

7つ子の出産が10時間弱で終わったというのは、恐らく稀なことだろう。

稀といえば、この部屋の中にはもう一つ、こちらはこちらで稀なことがある。


「みっくん・・・おめでと・・・うううううううぅぅぅぅぅっっっ!!!」


「カナタ先輩!落ち着いて!ゆっくり呼吸してください!ふー、ふー、ふー」


「ふー・・・ふー・・・ふっ、ふぅぅぅぅぅぅぅ!!」


そう、カナタである。

ミツキが産気付いた直後に破水したのだが、依然として子宮口が硬く、

思っている以上に出産が進んでいなかった。

安産の傾向があるはずの女体化妊婦の出産としては、

破水から9時間を経過して、なおこの状況なのは、かなり稀だ。


「ねぇ・・・なんで・・・なんっ・・・で・・・ぐうぅぅぅぅぅっ!!」


「カナタ先輩・・・わたし、どうしたら・・・」


「カナタ・・・がんばれ・・・俺もいるから・・・」


しかし、そのときは急にやってきた。

それはまるで、あたかもミツキの出産が終わるのを待っていたかのように。


「あっ・・・あっ・・・あああっ!!出てくる!!出てるぅぅぅ!!」


「うわ・・・すげぇ・・・一気に出てきてる・・・」


「カナタ先輩、そのままリラックスしてください!赤ちゃん降りてきてます!」


「はーっ、はーっ、はっ、はっ、はっ、はーっ!」


一気に緩んだカナタの子宮口を滑り落ちるかのように、

まずは一人目の胎児がそのまま外へと出てきた。


「ほにゃっ・・・ほにゃぁ・・・ほにゃぁ・・・」


「カナタ!産まれたぞ!カナタ!」


「あっ・・・ああっ・・・ボクの・・・赤ちゃん・・・」


「このまま残りも出てきそうです、少し息んでください!」


「ふっ・・・ふうっ・・・ふんんんんんんっ!!」


ヨシノの読み通りだった。

一人目が出てきたことですっかり軟らかくなった子宮口からは、

軽く息みをかけただけで、二人目、三人目と一気に産み落とされていった。


「ほぎゃぁ・・・ほぎゃっ・・・ほにゃぁ・・・」


「にゃぁ・・・うにゃぁ・・・おにゃぁ・・・」


「カナタ先輩、おめでとうございます・・・やった・・・やっと終わった・・・はぁっ・・・」


「カナタ、分かるか?ちゃんと産めたんだぞ、俺たち・・・」


「う・・・うん・・・みっくん・・・それに、ヨシノちゃん・・・おつかれさま・・・」


今、この小部屋の中には、出産を終え母親となったカナタとミツキ、これから母親となるヨシノの3人に、

そしてカナタとミツキが産んだ総計10人の赤ん坊がいる。

ヨシノが抱えている胎児も含めたら、全員で14人もの人間が一部屋にいる計算となる。


「でも・・・外はすっかり夜中ですね・・・どうしようかな・・・」


「とりあえず、このまま朝まで過ごすしかねぇかな・・・」


「あ・・・ヨシノ・・・ちゃん・・・」


「あっ!はっ、はいっ!なんですかカナタ先輩?」


「今なら・・・もう、スマホ取ってこれるんじゃ・・・ない・・・?」


「あぁ!そうだ!ヨシノ頼む、ついでに俺らのも持ってきてくれ」


「はいっ!分かりましたっ!」


こうして、ロッカールームに戻ったヨシノは、

全員分のスマホを持って、また小部屋に帰ってきた。

自分のを手に取ったカナタとミツキは、ロック画面を見て案の定苦笑を浮かべる。


「うわ・・・いや、まぁ、分かってたけどさぁ・・・」


「通知エグいね、とりあえず親には返信しておこ・・・」


『ごめん、学校で産まれちゃった』


そして、朝を迎え、保健医と養護教諭に連絡がついたことで、

そのままカナタとミツキ、赤ん坊たちは保護された。

もちろん、3人が過ごした一晩が無茶であったことは明らかだったので、相応に絞られはしたが、

ともかく、母子ともに無事でいたことには、誰もが一安心であった。


すっかり身軽になったカナタとミツキは、産後4日目で全体練習に復帰した。

とはいえメニュー的には別動隊で、妊娠中に行なっていた特訓の間、

大きなお腹を抱えながら投げていたことが、今の体型でも可能なのかをカナタはチェックし、

ミツキは改めてキャッチャーギアを身に付けて、今のカナタのボールを捕球できるのか、

その調整を進めることとなった。


「うわ・・・うわうわうわっ!!」


「みっくん・・・やっぱり難しそう・・・?」


「ミツキ先輩、ミットがかなりぶれてますね・・・」


「うーん・・・ここまでになるなんてなぁ・・・」


「堀江先輩・・・」


ヨシノによる修正を入れて以降、出産が終わり体型が戻った今、カナタの投げるナックルボールはさらに威力を増していた。

カナタの手からふんわりと投じられたボールは、完全に無回転となり、空気抵抗をモロに受ける。

それによって、恐ろしいまでの揺れを得たボールは、

キャッチャーから見ると、どこで捕ればいいのかがまったく予測できない。


醒ヶ井は特訓の間、常に受け続けたこともあって、今の状態でも10球に8球は捕球できるが、

ミツキはそうはいかなった。


「くっそ・・・やっぱしばらくキャッチャーやってなかったからだな・・・」


「いや・・・そのせいじゃないですよ、ミツキ先輩・・・」


「・・・ねぇ、みっくん」


「なんだよ、カナタ」


「あとで室内練習場来てくれる?それと、ヨシノちゃんも」


「ん・・・?あぁ・・・おう・・・」


それから数日後、チームミーティングが開かれることとなった。

いよいよ、この週末から、甲子園出場を賭けた県大会が開幕する。

この日のミーティングでは、ベンチ入りメンバーが発表されるのだ。


「ピッチャーはカナタ、まずお前が背番号1だ」


「「「「「おおー!!!!!」」」」」


「頑張ります」


上町がポジションごとにメンバーを次々と読み上げていく。

その上町にしても、今や妊娠9か月を迎えた。

カナタとミツキの前にヨシノを連れてきたときと比べると、そのお腹の成長度は目に見えて明らかだ。


「キャッチャーは醒ヶ井と真菅、醒ヶ井が背番号2、真菅が背番号12な」


「・・・」


キャッチャーとして、ミツキの名前が呼ばれることはなかった。


そうか・・・俺はここまでか・・・

まぁ、仕方ないよな・・・今のカナタのボールが捕れないんだから・・・

だったらサメにキャッチャー任せるのが当然だよ・・・当然なんだよ・・・


ミツキが半ば呆然としながらも、上町による読み上げは続いている。

しかし、その声はミツキに聞こえてはいるものの、頭には入っていかなかった。


「外野手は・・・、・・・、・・・、そしてミツキ、お前もだ」


「みっくん・・・みっくん!」


「・・・は・・・あ?え?なんだ、なんだよカナタ」


「なんだミツキ、お前ボーっとしてたのか?お前の背番号だ、ほら」


「俺の・・・背番号・・・?」


「ミツキ先輩!外野手ですよ!」


ホワイトボードを背にして、部員たちのほうを向いている上町は、

ミツキの背番号として、9番のゼッケンを差し出している。


「俺が・・・外野・・・?」


「お前を外す理由がないだろ、確かに今のままではキャッチャーは難しいかもしれん、私も悩んだよ

でも、キャッチャーの目でグラウンド全体を見る能力は誰よりも優れているし、

その肩は外野でも充分活かせるだろう、バッティングだって打線から外すわけにはいかない」


「か・・・監督・・・俺・・・」


「カナタもそうだろ、センバツ外れて悔しかった分、夏は思いっきり暴れろ」


「俺・・・はい!分かりました!やってやりますよ!俺も!」


「よぉーし!じゃあ、以上のメンバーがこの夏のベンチ入りメンバーだ!

このメンバーで、今年も甲子園に行く!そして


「今年も深紅の大優勝旗を持って帰るよ」


上町が言おうとした言葉を、カナタが横取りするような形になった。

そう言ったカナタを、上町は少し悲しそうな顔をして見つめる。


「カナタ、お前ぇ・・・たまには私が言ってもいいだろぉ・・・」


「センバツのときに言えなかったんですからね、ボクが言わせてもらいますよ、監督」


どこか悪戯っぽい表情を浮かべて、カナタが上町に答える。

カナタにそんな顔をされては、上町も「やれやれ・・・」という顔をするしかなかった。

そして、カナタは上町の横に移動し、部員たちを前にして檄を飛ばす。


「もう聞き飽きてるかもしれないけど、でも言わせてもらうよ

「自分にできることを全力で」

それを続けていれば、絶対にボクたちは今年も甲子園に行ける、そして絶対に勝てる」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


「そんなわけで、これからも・・・ファイトだー!!」


「「「「「ファイトだー!!!!!」」」」」


こうして、カナタとミツキにとって最後の夏が始まった。

県大会が開幕し、間谷地高校は順調に勝ち進んでいった。

このときピッチャーでベンチ入りしたのは、カナタの他には、

センバツでカナタの代わりに背番号1を背負った2年生の恩智と、別の2年生が1人、そして1年生も1人いた。

ナックルボーラーはその特性上、投球イニング数を増やすことができ、連投性能も高くなるのだが、

恩智を育てる意味もあって、上町はあえて、カナタを県大会では温存した。


前年優勝校ということもあり、この年の間谷地高校は第1シードを獲得し、

県大会は2回戦からのスタートとなったため、全部で5試合を戦ったが、

カナタは5試合のうち3試合に登板、恩智は4試合に登板し、2人が登板しなかった初戦は残りの2人だけで賄った。

センバツを経て一皮剥けた恩智は着実にステップアップしている様子を見せ付け、

秘密特訓で精度を極限まで高めたカナタのナックルボールに敵はなかった。そして。


『試合終了!市立間谷地高校、今年も甲子園への切符を手に入れました!

 センバツでは妊娠のために涙を飲んだ堀江君が、今年の夏は甲子園に帰ってきます!』


「カナタ!やったな!俺たち、また甲子園に行けるんだ!」


「みっくん、これで終わりじゃないよ、もう一つやらないといけないことがあるんだから」


「堀江先輩、あと一仕事、よろしくお願いします」


「うん、醒ヶ井くんもね」


歓喜の輪の中で、顔をぐしゃぐしゃにしている人物がいた。

去年はそれが1人だけだったが、今年は2人になっている。


「ううううう・・・カナタぁ・・・ミツキぃ・・・」


「カナタ先輩ぃぃ・・・ミツキ先輩ぃぃ・・・醒ヶ井先輩ぃぃ・・・ううう・・・ぐすっ、ぐすっ・・・」


上町とヨシノだった。

いよいよ妊娠10ヶ月になろうとしているお腹を抱えた上町と、

その横に、カナタとミツキが出産を終えた数日後に出産し、すっかり体型の戻ったヨシノがいる。

女体化してなお、それなりに身長があって、しかも4つ子を抱えている上町に、

成長期を迎えるころに女体化したため小柄なままのヨシノが並んでいると、まるで親子のようにしか見えない。

年齢的にもだいたいそんな感じだ。


「監督はともかくして・・・ヨシノ、お前も大げさだって」


「だって・・・だってぇ・・・甲子園行けるんですよぉ・・・?」


「いや、ボクたち、去年も行ってるし、優勝してるからね?それに、甲子園行くので終わりじゃないから」


「あっ・・・ああ・・・そ、そうだな・・・カナタ、ミツキ、今年も」


「そうですよ監督、行くんだったら勝ち逃げして帰ってきましょうよ」


「カナタの口から「勝ち逃げ」なんて言葉が出てくるなんてな、へへっ」


「みっくん」


カナタがミツキを一瞥するが、その視線は必ずしも責めているわけではない。

ミツキも、カナタのそのニュアンスを感じ取っていたから、微笑みを浮かべて返した。


「まぁ、ともかく今年も甲子園に行けるんだ、お前ら、やってやろうじゃねぇの!!」


「「「「「おおーーーーー!!!!!」」」」」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


間谷地高校から遠く離れた県にある、とある高校。

その校門には「多々井学園高等学校」と掲げられている。

如何にも新興の私学然とした、その立派かつ広大な校地の一角にある、鉄筋コンクリート造りの別棟。

その別棟の中にある一室で、一人の人物がスポーツニュースを見ていた。


『さて、今度は高校野球です!

 各地で県大会が行なわれていますが、今日は昨夏の覇者、市立間谷地高校が2年連続の甲子園出場を決めました!』


テレビ画面の向こうでキャスターがそう伝えるのを、

その人物は楽しそうな、しかしどこか邪悪な微笑を浮かべて受け入れていく。

そして、ニヤリとしながら、独り言のように呟いた。


「ふ・・・ふふ・・・ふふふふふ・・・そうか、今年も来るか・・・ふふふふふ・・・」


椅子に座りながら、その人物は自身のお腹をさすり、一瞬視線を送る。

そのお腹もまた、まるで少し前までのカナタやミツキ、そして今の上町のように大きく膨らんでいた。

お腹に向けられていた視線は、今度は部屋の天井へと向かった。

改めて、その人物が何か呟く。


「ようやく・・・ようやく決着をつけられる・・・市立間谷地高校・・・いや」


上町那由多よ

アレから20年・・・私はひとときたりとも、お前のことを忘れることはなかった

縁もあったが、私はようやく、お前と再び会えるところまでやってきたんだ


私からの『挑戦状』、絶対に受け取ってもらうぞ・・・ふふふふふ・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ