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コックス

世界の終り方を知る伊藤と工藤も気負うこともない。ただひたすらにいつものような日常を送ろうとした。壁に塞がれた二人は、帰宅を早々と諦めて、帰る道を逆順することに決めたのだ。

 工藤と伊藤に永遠はもはやない。外国人選手の名前をすべて上げきった瞬間、おそらく世界の終りとともに、人生の終幕が訪れるのだから。

「どうだろう、スレッジとカスティーヨは。外れづづきの横浜の外国人補強としては久々のヒットと僕は見る」

「甘いわね。スレッジは二年契約よ。外国人に長期契約は厳禁よ。ゴンザレスをみなさい、あれがいい例じゃないの」

「ゴンザレスってどのゴンザレスなんだよ。興奮剤が引っかかって締め出しくらったのか、それとも広島にいた意外とメジャー実績のある初代ゴンザレスなのか。巨人の忘れられた初代二塁も三塁も左翼もどこでも守れることは、どこにも守れないことに等しいゴンザレスなのか、GGとか紛らわしい登録名が祟ったのか、母国に帰国後、非業な死を遂げたゴンザレスなのか、今年やってきたゴンザレスの印象を覆した男前のエドガー・ゴンザレスなのか」

「あえて避けて通るあたり、あなたらしいってゆうか。ヤクルト時代のゴンザレスは3年契約をしたとたんに、お荷物と化したでしょ。いや、ゴンザレスだけじゃないわ。腐るほど例はあるのよ。グラマンだってそうよ。まあ彼の場合、日本一の抑えの引き換えといわれれば首を縦に振るしかないけどね」

「なにも他の球団の名前をあげつらうことはない。当該の横浜にも例はいくらでもあるじゃないか。コックスだよ。コックス」

「時の新監督山下大輔が、見初めた超大物現役メジャーリーガーね。キャンプ早々骨折で立ち込めた暗雲は、晴れることなく二年に渡って、横浜の金庫を暗く沈ませた」

「一年で帰国の途についたコックスであるが、二年契約のために、翌年の年俸支払いの義務が生じて、横浜はいやしない外国人に4億あまりの払ったわけだ」

「バカバカしいと切り捨てることなかれ。多大なるダメージを受けた横浜は、T・ウッズに複数年の提示ができず中日に逃げられるわ、補強の財布を緩め、一度不合格の烙印を押したべバリンの」

 いつものように外国人談義に花を咲かせる工藤と伊藤は、自分たちが破滅のスイッチになっていたことをすっかりと忘れていた。

 べバリンの名前を出した瞬間、二人の目の前いたサラリーマン崩れ落ちるよに倒れたのだから、否応にも二人は世界の命運を握っていることを認識しなおす。

「べバリンは一人一殺の破壊力ってこと?」

「どうやらそのようだ」

「そしてあたしたちが外国人の名前をあげる度、身近に危機が訪れる可能性が高くなるってことかしら」

「ああ。世界の滅亡と崩壊の危機は誰にも公平に訪れる。僕らだって、その範疇の外にない。次、ばったりと倒れるのは僕かもしれなし、君かもしれない」

「覚悟はあるわ。覚悟がなくて、どうして外国人選手に敬意を払えるのよ」



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