ロードン
「うそ~」
「ほんとかよ」
「ひとつの国が崩壊したって」
「原因はミサイルの誤発射か」
「伊藤がブラッドリーの名前を上げた瞬間に時間は同じくする」
「それじゃまるで僕が原因みたいじゃないか。それに最初にブラッドリーの名前を上げたのは工藤、君じゃないか」
「そうだったかしら。どっちでもいいわ。謎がわかりかけてきたのだから」
「試しにもう一人の名前をあげようか」
「本当にいいの? 国一つなくなったのよ。名前も聞き覚えの無いどこかの小国だけどさ」
「小国だからといって区別するのは辞めてくれないか。育成選手だからといって、評価されず消えていった中日のベロアみたいじゃないか」
工藤と伊藤はその会話に収拾をつけることなく、壁を見上げた。するとランプにまた一つ明かりが灯ったのだ。
「これでわかったわ」
「間違いないね」
「あたしたちが、いやあたしたちだけじゃないかもしれないけど」
「外国人選手の名前をあげるたびに、ランプに明かりがついていく」
「そしてランプに明かりがつくことは、どこかの場所で、人命が失われるのに等しい」
「ずいぶん物分りがいいな、僕たち。まるでロードンのよう」
「伊藤、ただいたずらに名前をあげてもランプは反応しないわ。特定できるほどの情報がないとダメみたい。ロードンなら、どういうロードンであるか。例えば銀行員のようなメガネをつけて、ドラえもんが大好きなロードン。ここまで情報に肉付けがないと」
工藤の説明に満足したのか、壁のランプは三つ目の明かりを発した。
「ほらみて。あたしの思ったとおりよ」
「僕らの性をついた、実にいやらしいルールだ。外国人選手の名前をあげるたびに、どこかの人々の日常が崩壊するんなんて、僕らは耐え切れるか」
「耐え切れるわけないじゃないのよ。デービスに大麻を与えないようなものよ」
「その比喩はおかしい。大麻に強い中毒性はないはずだ。いうなれば、ミケンズから、防御率でのインセンティブ契約を取り上げるようなものとか、そういうのにしてくれないか」
「ボン、ボン、ランプはまた灯った」
そして、伊藤のラジオは、矢継ぎ早に世界の崩壊を伝える。
「いいのかしら、滅亡のスイッチなるあたしたちがべらべらと安易に口にして」
「しょうがないじゃないか」
「ランプの数をざっと数え上げあところ、思ったとおりよ。この壁のランプの数は、日本に来た外国人選手の数に等しい」
「そうすると、おそらく僕らが、いや地球の誰かの協力を仰ぐかもしれないが、やがてすべての外国人選手の名前を口にしたとき世界は終る」
「かもね」




