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トップアイドルは推し活に夢中で、モデルの片思いはいつも空回り  作者: 阪井秋


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2/2

ステージでは無双のセンター様、推しが見れないと情緒が迷子です。

1. 放課後の校門──“スイッチ”の瞬間


夕暮れの校門を抜けると、

静かに停まった白いワゴン車からマネージャーの水城が手を振った。


「透子、こっち。今日のリハ、少し巻きで始めるって。もうメンバーは集合してる」


「了解です。ごめんなさい、水城さん」


「謝るのは遅刻した時だけでいいわ」


淡々としていながら優しい。

この声を聞くと、透子の体が自然に“仕事モード”へ傾き始める気がした。


車に乗り込んでシートベルトを留める。


外のざわめきが遠ざかるのと同時に、

透子はイヤホンを耳に入れた。


カチッ──

世界が少しだけ静かになる。


──ここからは、自分を“整える”時間。


今日のフォーメーション。

カメラ位置。

表情の切り替え。

ステップのカウント。


ひとつずつ頭の中を並び替えていく。


(……よし、切り替えなきゃ)


窓に映る自分の顔が、

“普通の女子高生”からゆっくり離れていく。


深く息を吸って、吐く。


──三和透子。

──シュガソルのセンター。


と、その瞬間。


「透子、その儀式するのはいいけど……収録なんだから、食べすぎないでね」


透子の膝の上には のり弁。

隣の座席には おにぎり二つとサラダ。


「い、いや……腹ごしらえしておかないと……」


「あなたセンターなのに燃費悪いのよ」


「エネルギー必要なんです!」


水城はため息をつきながら微笑んだ。


「急いで食べて。もうすぐ着くわ」


2. 楽屋──色・音・匂いが混ざる場所


控室の扉を開けた瞬間、

照明の熱気とヘアスプレーの甘い匂いがふわりと漂う。


鏡のライトが点々と光り、

スタッフの靴音が忙しなく響く。


その中心に、シュガソルの4人がいた。


「透子ー!今日学校だったの?」

瞳がスマホ片手に振り返る。


「うん、行けるときに行っとかないとね」


雛華がピンクのヘアピンを握って走り寄った。


「透子ちゃんこれ似合うよ!今日の衣装に合う〜!」


「ひ、雛華……まだセット前なんだけど……」


「だからつけるの!」


そんな中、結奈がため息をつきながら鏡越しに言う。


「雛華、ヘアメイクさん来たよ。邪魔」


「あっ、はーい!」


そこへスタッフが顔をのぞかせた。


「今日、同じブロックに mint sugar さん入ってますよ〜」


「──えっ!?!?!?」


透子の体が跳ね上がる。

椅子がガタッと音を立てる。


(mint sugar!?

 姫花ちゃんのステージ……絶対かわいい……見たい……!)


「ちょっと下見してきます!!」


その瞬間──


「透子。座って。」


背後の低い声。

メイクさんが腕組みして立っている。


「まだセットしてないでしょ。センターが動いたらどうするの」


「す、すみません……!」


「はい、動かないで」


前髪にクリップがカチッと留められる。


(……姫花ちゃん……すぐそこなのに……)


目の奥に熱がこみ上げる。


「一瞬だけお願いし──」


「泣かないの。崩れるから」


「……はい……」


瞳がスマホを構える。


「泣きそうな透子ちゃん撮っとこ〜」


「撮らないでぇぇ……!」


雛華が背中をさすり、

結奈はクールに笑い、

絢音はにやりと見守る。


アイロンが髪を通るたびに、

透子は“センター”の顔へ変わっていく。


3. ステージ直前──落ち込みと“覚醒”


舞台袖。

照明の熱とケーブルの匂い。

観客のざわめきが震動となって伝わる。


だが透子は、あからさまに落ち込んでいた。


「透子ちゃん……今日ずっと元気ないね……」

雛華が心配する。


「姫花ちゃん……見たかった……」

透子の声は沈んでいる。


瞳と結奈が顔を見合わせる。


「大丈夫か?」

「センター本番前にメンタル折れるって珍しい」


しかし、絢音だけは笑っていた。


「大丈夫よ。この子は“スイッチ”があるから」


そのとき、カメラマンが声を張る。


「はいセンターさん、気合いの一枚いきまーす!」


パシャッ。


──空気が変わった。


透子の視線が鋭く、深く、まっすぐに定まる。

さっきまで湿っていた瞳が、

光を宿して輝き始める。


結奈が思わず呟いた。


「……あ、来た。センターの顔」


瞳が鳥肌を押さえる。


「毎回思うけど、これ反則……」


スタッフの声が響く。


「──シュガソル、まもなく入りまーす!」


イントロが床を震わせ、

観客のペンライトが一斉に揺れる。


透子は前へ一歩。


その瞬間、

“少女”ではなく──


センター三和透子 がそこにいた。


4. 本番──光の中心に立つ者


スポットライトが弾ける。

5人の影が浮かぶ。


その中心に立つ透子は、

光が形を取って人になったようだった。


カメラは無意識に透子を追う。

客席の視線が吸い寄せられる。


ステップは音を視ているよう。

指先の動きひとつが物語になる。


そしてラスト。

透子がカメラに微笑む。


その一瞬だけで、

SNSは爆発した。


5. ステージ後の余韻


楽屋へ戻ると、メンバーは次々スマホを開いた。


「見て!“今日のシュガソル優勝”がトレンド1位!」

「透子ちゃんのGIF、もう出回ってる!」


スタッフも興奮したまま声をかける。


「透子ちゃん、今日の表情すごかったよ」

「センターってああいう子のこと言うんだなぁ……」


だが──


透子はスマホを胸に抱えてしゅんとしている。


(……姫花ちゃんのステージ……見れなかった……)


雛華が心配する。


「透子ちゃん……元気ない……?」


そのとき──スマホが震えた。


姫花本人の投稿が流れてくる。


『今日もありがとう♡』


笑顔でウサギポーズをする姫花の写真。


透子の目が一瞬で輝いた。


「────ッッ!!

 姫花ちゃん……今日も天使……!!

 推ししか勝たん……!!」


「うわ急に復活した」

「情緒どうなってるの!?」

「もはや尊いエネルギーで動く生命体」


透子はスマホをぎゅっと抱きしめた。


(……次は絶対、生で見る……!)


今日のステージで世界を魅了した少女は、

今はただの“強火オタク”の顔で笑っていた。


そして第二話は、

そのギャップの愛しさを残したまま幕を閉じた。



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