最初の会議、最初の反発
「……それでは今日から、この村の再建に取りかかります」
村の中央にある広場。石を組んだ簡素なかまどと、朽ちかけた木製のベンチ。そこに、村人たち十数名が顔をそろえていた。
「畑は明日から三班に分けて再開。まずは草刈りと土起こし。それと、誰がどんな作業に向いているか、簡単な聞き取りもしたいと思います」
真人は持っていた木板に手書きの表を作って見せる。項目には「名前」「得意分野」「健康状態」「希望作業」など、まるで会社の業務管理表のようだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
口を挟んできたのは、背の高い白髪の男。名前はオルン。村の年長者の一人らしい。
「村長様、あんたは急ぎすぎじゃないか? 昨日来たばかりで、村のこともろくに知らんのに……畑を動かす? 人を分ける? そりゃちと、無茶ってもんだ」
その言葉に、周囲の何人かが頷いている。無理もない。突如現れた“神託の村長”を、全員が素直に受け入れているわけではないのだ。
真人は表情を崩さず、静かに言葉を返す。
「ご意見、ありがとうございます。たしかに、私は昨日来たばかりです。でも、この村を動かさなきゃ、春の種まきに間に合わない」
「だがな、村長。焦っても、村人の心は動かんよ」
「ええ、だから“無理に”は頼みません。できることを、できる人から。……ただ、誰も動かなければ、この村は一年以内に終わる。それは事実です」
静かな声だったが、広場に沈黙が落ちた。
真人は続ける。
「昔、僕のいた会社にも“やる気がない”って言われてた部署がありました。でも、そこには“やりたくても方法がわからない”だけの人たちがいた。環境を整えて、得意なことを任せたら、ちゃんと変わったんです。だから、ここでもできると信じてます」
バリオがうなずいた。
「皆、聞いてくれ。村長様は、この村を見捨てなかった。ただの旅人だったら、とうに逃げている。それでも残ったんだ。……なら、俺たちも応えようじゃないか」
しばらくの沈黙の後、最初に手を挙げたのは、少女だった。
リリア。薬草に詳しい若い女性だ。
「私は、畑の土に混ぜる薬草の知識があります。体力はありませんけど、できる範囲で協力します」
続けて、ヨエルが立ち上がった。
「……家の修理くらいなら手伝える。道具があれば、納屋も直せると思う」
真人はゆっくり、深く頭を下げた。
「ありがとう。無理はさせません。できることから、少しずつでいいんです」
オルンは肩をすくめるようにして言った。
「……やれやれ。若ぇ奴らに先越されちまった。まあ、俺も草刈りくらいならやってやらんでもない」
村人たちから、わずかに笑いが漏れた。
その瞬間、真人は確信する。
小さな火が灯った。この村は、まだ捨てたもんじゃない。
ここから始まるんだ。この異世界での、新しい人生が。