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14話 飛翔の騎士と山賊の王 

夕刻、王都騎士学院の臨時詰所に一通の報せが届いた。


「山賊?」


翔也が眉をひそめる。


報告によれば、合宿地からほど近い村が、数日前から山賊の襲撃を受けており、家畜や穀物が盗まれる被害が続いているという。


「この時期にか……。訓練と並行しての対応は難しいな」


騎士団教官の一人が難色を示す中、リュシエル姫が一歩前に出た。


「それなら、私たちが行きます」


セレスティア・ライダーズの四人が顔を見合わせた。


「ま、ちょうどいい“実戦訓練”ってわけね」


「……本物の戦闘。試されるのは、私たちの覚悟か」


「村人たちが困っているなら、放っておけません」


翔也は頷き、グリュンのたてがみを撫でた。


「行こう。俺たちの力を、試す時だ」



日が落ち始めた頃、四人は軽装で村へ向けて出発した。


セラが馬上で地図を広げ、冷静に状況を読み取る。


「この道の先、森を越えた谷に小さな村があります。山賊は東側の獣道を通っているはずです」


「地形を活かせば待ち伏せもできるな」


ミナが静かに言いながら、地形を目に焼き付けていた。


「山賊なんて雑魚でしょ。派手に行きましょう」


リュシエルは勇ましく胸を張る。


「油断すんなよ。こういうやつら、逃げ足だけは速いからな」



村に到着すると、空気は重く、静けさが支配していた。


畑には踏み荒らされた痕、納屋には剣傷。明らかに襲撃の爪痕が生々しく残っていた。


村長の家で簡単な事情を聞いたあと、四人は一旦休憩をとることにした。


村の広場に並べられた簡素なテーブルには、村人が用意してくれた素朴な食事が並んでいた。


「このシチュー、思ったよりうまいな」


翔也が湯気を吹きながら口に運ぶ。


「山のキノコでしょうか? 滋養に良さそうです」


セラが丁寧にスプーンを動かす。


「少し薄味だけど……まあ、戦前にしては悪くないわ」


リュシエルは腕を組みながらも、しっかりおかわりをよそっている。


ミナはパンをかじりながら、ぽつりとつぶやいた。


「……温かい食事って、安心する」


ふと見れば、子どもたちがこちらを見つめている。勇気を出して一人の子が翔也に話しかけた。


「お兄ちゃんたち、ほんとに戦えるの?」


「もちろん。ちゃんと守るさ」


翔也が笑って答えると、子どもたちは目を輝かせて頷いた。



夜が訪れる。村の外れに煙の匂いが立ち込めた。


「来たな……!」


翔也が声をあげると、皆が一斉に武器を構える。


納屋の奥、数頭の馬に乗った山賊たちが穀物袋を担いで逃げようとしていた。


「止まれーっ!!」


「なんだぁ? お坊ちゃん騎士団か?」


「こちら、騎士学院選抜チーム・セレスティア・ライダーズ! おとなしく降伏しなさい!」


「逃げろ!やつらの馬、ただの馬じゃねぇぞ!」


グリュンが咆哮した。


『駆けるぞ、翔也!』


「行くぞ、全員突撃だ!」


草原での追撃戦が始まった。


翔也はグリュンとともに前衛を突破し、正面から敵陣へ切り込む。


グリュンの脚は地を割るように力強く、翔也は馬上から身を沈めて重心を合わせ、敵の懐へ素早く切り込んだ。


「速い……!?」


山賊の一人が剣を抜く間もなく、翔也の剣が横薙ぎに軌跡を描く。


「翔也流、流撃――!」


剣が描いた弧が、敵の腕から武器を弾き飛ばした。


『いいぞ翔也、次は左だ!』


「了解っ!」


リュシエルは盾と槍を構え、中央突破を図る敵を正面で止めていた。


斧を振り上げる敵の一撃を盾で受け流し、槍を滑らせて騎馬の足元へ一突き。


ミナは斜面から側面に回り込み、両手の短剣で敵の武器を封じながら動きを止める。


「もう少し反応が早ければ……よかったのにね」


猫のようにしなやかな跳躍で、次の敵へ向かう。


セラは後方支援に回り、静かに詠唱を始めた。


「風よ、枝を裂き、敵の脚を縛れ――《封緑の抱擁》!」


草が巻き上がり、茂みの魔力風が敵の足を絡め取る。


「視界良好、捕捉完了……翔也さん、今です!」


「ナイス援護!」


翔也がその敵を一閃で倒す。


副官らしき山賊が角笛を吹き、三手に分かれて逃走を図る。


「追撃!翔也、中央! ミナは左、私が右側に行くわ!」


「セラは援護頼む!」


翔也とグリュンは、逃走する山賊の中でもひときわ目立つ黒馬にまたがった男に追いつく。


 大柄な体躯、黒いマント、そして手には重厚な騎士槍。


「名乗るほどの者じゃねえがな……“三牙のギルド”、ザグル様って覚えときな!」


 男の声は、雷のように響いた。


 その下にいる黒馬は、常の馬とは明らかに違っていた。巨大な体躯、分厚い首筋、そして鎧のように硬質な皮膚――まるでサイのような異形の馬だった。


「お前……ただの山賊じゃねえな」


「元・東方戦団の突撃騎士様よ。この“グラウンドホーン”とともにな」


 ザグルが槍を構え、黒馬のグラウンドホーンが地面を蹴る。爆発的な加速。


「くるぞグリュン、避けろっ!」


 翔也はグリュンに命じて側面へ滑る。ザグルの槍が翔也のすぐ脇をかすめ、土煙を上げる。


「ほぉ、躱したか。じゃあもう一回いくぜ!」


「こっちもだ、翔也流――反転切り返し!」


 翔也はグリュンに急旋回を命じ、背後に回り込む。そのまま剣を振るうが、ザグルは背後を察知して馬上で槍を捻る。


 カァンッ!


 金属音が宙に響き、火花が散る。


「ちっ……馬上でそこまで操作できるとは……」


「伊達に騎士団くずれやってねぇのよ!」


 二人の馬が草原の上で螺旋を描くように旋回する。まるで舞踏のような攻防。


 翔也はグリュンの機動力で翻弄し、ザグルは一撃必殺の重槍とグラウンドホーンの突進力で距離を制する。


 その均衡が数合続くが、翔也の攻撃は硬質な皮膚に阻まれ、刃が通らない。


「この馬、まるで鎧かよ……!」


「そうさ、こいつは突撃専用に調教された魔獣級の戦馬だ!」


「なら、真正面からじゃ無理ってことだな……」


「グリュン、空を使うぞ」


『ああ。やつの動き、上からなら読みやすい』


 グリュンが助走をとり、地を蹴って跳躍。


 空中に舞い上がるその姿に、ザグルが驚愕する。


「飛んだ、だとっ!?」


「翔也流・空撃――急襲突撃!!」


 グリュンの背中で翔也が剣を構え、重力と速度を味方につけてザグルの頭上から突撃。


 斬撃がグラウンドホーンの背を避け、ザグルの槍を跳ね上げ──


 翔也の剣が、ザグルの胸元へ突き刺さった。


「がっ……! 馬鹿な……」


 ザグルが後方へ吹き飛ぶ。


 そのまま部下が黒煙をまき散らし、ザグルを抱えて森へと逃走する。


「クッ……ハハッ、面白ぇ……翔也……てめえ、最高だ」


 翔也は剣を納め、グリュンの背で深く息をついた。


『翔也、よく飛んだな』


「ああ、お前とならどこまででも行ける気がするよ……グリュン」


-

翌朝。納屋の前で、村人たちが深々と頭を下げていた。


「本当に、ありがとうございました……」


「被害は少なかったか?」


「ええ、皆さんのおかげで。これは……ほんの礼です」


果実と編み物の袋。小さな子どもが翔也のマントを引く。


「おにいちゃん……かっこよかった」


翔也はしゃがんでその頭を撫でた。


「将来、お前が困ってる誰かを守る時が来たら――頼んだぞ」



「実戦って、やっぱり訓練とは全然違うな……」


「でも、悪くなかったわ。ちゃんと騎士って感じだったし」


「ええ。とても意義のある夜でした」


「……俺たちは、もっと強くなれる。そんな気がしたよ」


朝陽が昇る中、セレスティア・ライダーズは村をあとにした。


一方その頃。


森の奥、逃げ延びた山賊の頭領が呟いた。


「“セレスティア・ライダーズ”……か。次は、帝国の“影”が黙っちゃいねぇぜ」

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