11話セラ=ミューリエル、祈りの理由
森の中にひっそりと佇む小さな神殿。その裏手、月光に照らされた泉のほとりで、翔也はセラと二人きりで過ごしていた。
夜風が心地よく吹き抜け、森の葉が静かに揺れる。
「こんなところに神殿があるなんて、知らなかった」
翔也が感心したように言うと、セラは静かに微笑んだ。
「ここは、古い森の守り神を祀った場所。今ではほとんど忘れられていますけど……私は好きなんです」
月光の下、セラ=ミューリエルの白い巫女服がふわりと揺れる。清楚な雰囲気に反して、その衣装は肩や太ももを大胆に露出していて、思わず目を逸らしそうになる。
(やべえ……今日のセラ、なんかいつもより破壊力高い……!)
必死に心を落ち着けようとする翔也。
そんな彼の様子に気づいてか、セラはくすりと笑った。
「翔也さんは、どうして馬に乗るのが、あんなにも上手いのですか?」
「え? いや……自分でもよくわかんないけど……、なんか分かるかな。」
「……やはり」
セラは泉に映る月を見つめながら、そっと言葉を紡ぐ。
「私も、馬たちと心を通わせる力を持っています。私のルミレイアとは、言葉を交わさなくても、想いが通じます」
少しだけ自慢げな、それでいて寂しそうな笑みだった。
「だから、翔也さんを見たとき、わかったんです。あなたは……天命を持つ人だと」
翔也は言葉を失った。
「天命、か……。そんな大層なもの、俺にあるのかな」
「あります。私は信じています」
セラははっきりと言った。
その真剣な瞳に、翔也は目をそらせなかった。
「……俺も、みんなを信じたい。セラや、リュシエルや、ミナも……そして、自分自身も」
「ええ。信じることは、力になります」
セラはそっと翔也に歩み寄る。
「……翔也さん」
月明かりの中、セラの顔がすぐ近くにあった。
「私が剣を取ったのは……護りたかったからです」
「護りたい、もの?」
「ええ。祈りだけでは、救えない命がある。だから私は、神に祈り、そして自ら剣を振るうことを選びました」
セラは胸元の銀色のペンダントを握りしめる。その仕草が、ひどく儚く見えた。
「戦うことは怖い。でも、それでも……大切なものを守るためなら、私は――」
セラの声が、わずかに震えた。
翔也は、そっと手を伸ばした。
「一人で抱えなくていい」
セラの肩に触れる。セラはびくりと震えたが、拒まなかった。
「俺たちはチームだろ。これからは、一緒に守っていこう」
「……はい」
小さな、小さな声だった。
気づけば、ルミレイアもそっと二人に近づき、優しく鼻先を翔也に寄せた。
「ふふ、ルミレイアも、翔也さんに懐いていますね」
「……なんか、照れるな」
翔也が苦笑すると、セラはふわりと笑った。
そして、ほんの少しだけ、翔也に寄りかかる。
「……少しだけ、このまま……いいですか?」
「あ、ああ……」
心臓が跳ねる音が、やけに大きく聞こえた。
夜風に吹かれながら、しばしの沈黙。
静かに、でも確かに、二人の心は近づいていた。