第10話 ミナの過去と短剣の誓い
翔也は、ミナに連れられて人気のない場所までやってきていた。
「どうしたんだ、ミナ。こんなところに呼び出して」
草原を吹き抜ける風に、ミナの銀色の髪が揺れる。
「……話しておきたいことがある」
ミナは背中を向けたまま、ぽつりと言った。
「私が、獣人族の生まれだということは知っているな」
「ああ。聞いてるよ。戦士の血を継ぐ、誇り高い種族だって」
翔也は素直に答えた。
ミナはゆっくりと振り返る。その表情は、いつになく張り詰めていた。
「私たち獣人族は、古くから差別と闘ってきた。王都でも、表では受け入れられているふりをして、裏では……蔑まれることもある」
翔也は何も言わず、ミナの言葉を待った。
「私は、戦うことでしか、自分を証明できなかった。強さだけが、私を認めさせる手段だった」
拳を握りしめ、ミナは続ける。
「だから……私は誰にも負けたくない。たとえ仲間であっても」
痛いほど、まっすぐな瞳。
翔也はゆっくりと歩み寄った。
「ミナ」
彼はミナの前に立ち、静かに言葉を紡ぐ。
「お前がどんな理由で強さを求めたとしても、俺にとっては――チームメイトだ」
ミナの目がわずかに揺れる。
「俺たちは勝つために一緒に戦う。でも、それだけじゃない。嬉しいときも、悔しいときも、全部共有していく。それが……チームだろ?」
風が二人の間を吹き抜けた。
ミナはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……私が弱さを見せても、嫌わないか?」
「バカ言え。誰だって弱いときはある。俺だってそうだ」
翔也は笑った。その無邪気な笑顔に、ミナの緊張がほんの少し解ける。
「なら……これを」
ミナは腰に下げた短剣を外し、翔也に差し出した。
「これは、私の部族で“誓い”の証として渡すもの。……受け取れ」
「誓い?」
「……お前を、仲間と認めた。だから、裏切るな」
差し出された短剣は、細工の施された銀色の刃。柄には狼の紋章が刻まれている。
翔也はそれを両手で受け取った。
「ありがとう、ミナ」
短剣を胸に抱き、翔也は真剣な表情で応えた。
「俺も、お前を絶対に裏切らない」
ミナの唇がわずかに震えた。
「……へ、変なやつ」
顔をそむけながら、ミナは小さく呟く。
翔也は、そんな彼女を見て、にやりと笑った。
「でも、今日の訓練では手加減しないからな」
「当然だ。全力で来い」
二人は拳を軽く合わせた。
これが、ミナと翔也の"本当の"始まりだった。