約束
「…えっ」
何て言ったら良いのだろう。ウィルの事は好きに決まってる。しかもいつからか異性として好きだ。だけど立場と言うものがあって、一生叶わない恋で、誰にも話せない事だ。
でも、そもそもウィルは私のことをせいぜい妹としか見ていないかもしれない。これまでの紳士的な態度も優しいウィルならありえる。ウィルの言う好きは、恋人や異性に対して使う好きなのか?家族や人としての好きも含まれているなら好きと伝えても良いのではないか?
「……あの、どういう意味での…好きでしょうか?」
「好きか、嫌いか。ただそれだけだよ」
「んー……」
「僕は今も昔もローズの事が好きだよ。ローズは?」
「……私も好きです。………ひ、人として」
人としてを付けたのは最後の悪あがきだったのかもしれない。もっと良い答え方があったのかもしれないけど、そっかと苦笑いする彼に私はどんな言葉を返せば良いかわからなくて2人の間にはまた沈黙が流れた。
空がだんだんと暗くなりはじめて、私達は馬車に乗り込んだ。
あぁもう本当に会えなくなるんだろうなって考え初めたら涙腺が緩むのがわかった。泣いてる場合じゃないとわかっているのに、体は言うことを聞いてくれなくて、せめてウィルにバレないようにと下を向くしかなかった。
ガタガタと揺れる馬車の中、2人共何も話さなかったが、最後に後悔しない為に伝えたい事があった。
「私ずっと言えなかった事があって……。あの、毎年誕生日にお花を送ってくださってありがとうございます。とっても嬉しかったのに…一度もお礼を言わずにいて申し訳ありませんでした」
「僕がしたくてしてる事だ。大丈夫だから泣かないで」
そう言って対面に座っていたウィルは私の隣に座り直すと、昔と変わらず優しい手つきで頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「僕ね、自分で思ってたよりもずっと諦めの悪い人間みたい。僕はこのままで終わらせる気はないから」
何の話?どう言う意味だろう?と思って涙を拭いてウィルの顔をチラリと見たら、微笑んでいる天使のような顔がすぐ間近にあって、あと数ミリ動いたらキスできてしまう距離だった。
ドキドキと言うよりバクバクする心臓、真っ赤になっている顔のせいでいつの間にか涙は止んでいた。
家に帰ったら兄が出迎えてくれていて、何やらウィルに貸しを作ったからなとニヤニヤしていた。
その日を最後にウィルとは会わなくなったし、兄とも年に数回顔を合わせる程度になった。




