あの日と同じ
少しと言われたので、中庭のベンチにでも座って話すのだろうと思っていた私は驚いて思わず声を出してしまっていた。
「えっ……」
「ダメだろか?そんなに遠くには行かないから‥。それとも、この後先約でもあるだろうか?」
ウィルの後について歩いていたら門の外まで来てしまい、ウィルの馬車に案内された。
またも困った表情をしているウィルに、予定のなかった私はううんと首を横に振って、大丈夫だと答えてしまった。
もうウィルとは関わらないって決めたのに頭で考えるより先に首を振っていた。きっとこの状況をお父様とお母様にバレたら怒られるのかな、それとも呆れられるだろうか。
馬車に乗ってからは罪悪感と近い距離にウィルがいる緊張感でスカートをギュッと握って視線を自分の拳にむけていた。
「ローズがうちの馬車に乗るのは2回目だね。あの時は嬉しそうにしてくれたけど、今はそんな顔をさせてしまうのだね」
少し寂しそうな声に、向き合うように前に座るウィルに目線を動かした。
そんな顔とはどんな顔だろう。私は相当変な顔でもしていたのか?とウィルを見ながらコテンっと首を傾げた。
「ふふふ、なんでもないよ。やっと僕の顔を見てくれたね。とっても嬉しいよ」
「もお!からかわないでください!」
「ふふっ、ローズ顔真っ赤だよ」
「見ないでください!」
「もう笑わないから顔隠さないでよ」
「そう言いながら笑ってるじゃないですか」
イタズラっぽく笑うウィルの笑顔は昔のままで、忘れかけていた、いや閉じ込めていた感情が蘇るのがわかった。胸がドキドキして、顔が熱くなって、少し息苦しい。だけどそれが幸せで、ずっとこの瞬間が続いてほしいと思ってしまう感覚。
――
馬車が止まって着いた先には見覚えがあった。
「ローズ、ここ覚えてる?」
「もちろん!前にウィルに連れてきてもらったわ!」
以前ウィルに連れてきてもらったバラ園に到着し、その綺麗さに思わず昔の口調で返してしまった。
「……あっ、ごめんなさいスペンサー様」
「ウィルでいいのに…」
数秒前まで笑顔だった2人が、一瞬で2人共困った表情になってしまった。子供の時とは異なり教養も身につけた今、目の前の彼の事をウィルと呼ぶのがどれほど失礼かわかっている。本当はこうやって一緒に居るのもおかしいくらいだ。
とりあえず歩かない?とウィルに促されて私達は数年ぶりにバラ園を歩き始めた。
あの時は手を繋いでウィルが色々な話をしてくれたけど、今は手も繋がず2人共黙って歩いている。でも私にとっては嫌な沈黙ではなかった。
昔とは私達の取り巻く環境が変わってきてしまったけど、またウィルと一緒に来れて良かったな。もう2度と話さないとさえ思ってた人とこうして並んで歩けるは嬉しいな。図々しいかもしれないがウィルも私と同じ気持ちでいてくれたら良いななんて考えていた。
「ローズ、そんな幸せそうな顔して何を考えていたの?」
「んー……内緒です」
すごく優しいトーンでかけらた声に、本当の事を伝えようと思ったけど、この感情は私だけの秘密だ。私はイタズラっぽくニカッと今日一番の笑顔で返事した。
ウィルも笑い返してくれると思ったのに、見上げた先にある顔は真剣な表情だった。
「ねぇ、ローズ。僕の事今も好き?」




