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旅立ち

「お兄様なんか、大嫌い!!」


「もぉー、ごめんって」


「だってもう会えなくなるなんて、何でもっと早く教えてくれなかったの!?」


「悪かったから泣くなよ、泣き虫だな」


兄が家を出て王宮で暮らすと言うのだ。かなり前から決まっていたらしく、家族で知らないのは私だけだった。


「俺ももうすぐレーヴ学院に行くだろ?本格的にウィルの護衛を任されるんだ。といっても俺なんてまだまだで護衛するのは学園内だけだけどな」


「そんなの聞いてないもん!」

 

子供の時と違い、身長差も広がり、更にムキムキになった兄は、念願叶って騎士団の試験に合格し、父と同じ騎士団に歴代最年少で入れるそうだ。兄はその騎士団の寮で暮らす事になる。


「お兄様がいないとそんなに寂しいのか?愛しの妹よ」


「……寂しいに決まってる」


ふざけて聞いてきた兄に、私はしょぼんっと素直に答えた。

兄は苦笑いして3ヶ月後学校の入学準備でまた家に帰るから良い子で待ってろよと髪がボサボサになるまで頭をガシガシ撫でてきた。


 


―――

最初の数日は寂しいと毎日のように落ち込んでいたのに、勉強に、裁縫やマナー講習、ダンス等に追われて3ヶ月はあっという間に過ぎていた。


「ただいまー!会いたかったぞー愛しの妹よ!」


「おかえりー…って、やめてよーーー」


急に現れた切れ長の目のムキムキ筋肉マッチョに抱きしめられ頬をスリスリされて逃げ出せない。もう子供じゃないからやめてほしいのに。


プンプンしちゃって、可愛いくないなーと言いながらも兄は母と話し、自室に行ってしまった。


レーヴ学院か。私もあと2年したら16歳になり、学園に行けるのに。

あんな騒がしい兄だから、家にいなといシーンとするのだ。父は毎日顔を合わせているようだが、母は私より寂しがっていただけに兄が帰ってきただけでとっても嬉しそうだ。

なんだかウィルと会わなくなったのとは少し違う感覚で私も寂しい。


はぁーっとため息を吐き、私は気分転換に中庭に散歩に行こうと歩き出した。


「「あっ……」」


玄関を開けてすぐに、金髪、碧眼の人物と遭遇してしまった。数年ぶりに間近で見る彼は記憶の中の彼よりだいぶ大人びていて、身長もかなり伸びていた。昔はこんな身長差なかったのに。

お互い沈黙が続く中、それを先に破ったのは彼の方だった。

「ローズ、久しぶりだね。体調はどう?」


「久しぶり…です。あの頃が嘘みたいに毎日元気に過ごしていますよ」


昔とは違うんだ。流石に昔のようには話せないと思って使った敬語に違和感があったのか、ウィルは困ったような表情で眉毛を下げて聞いていた。

 そっか、良かったと言う彼は相変わらず整った顔で、天使のように優しい眼差しで微笑んでいた。


「…………あの、それではこれで………」

またもや沈黙になり、気まずくてその場を離れようとしたら、急に腕をガシッと掴まれてしまった。


「あっ…… ごめん」


それに驚いたのは私だけではなく、ウィル自身も驚いたような表情をして、その後バッと腕を離され再度謝られた。


「…少しで良いから時間をもらえないだろうか。この家にももう来る事はないだろうから」


「……はい」


もう家には来ない。そんなのわかっていた事じゃないか。兄も寮で暮らしているし、ウィルだって今年からレーヴ学院の生徒だ。それにお父様から聞いた通り王宮での仕事はかなり忙しい事くらい私の耳にも入っていた。

だけどそんな事を直接言われると心がズキッと痛んだ。

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