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憂鬱

あの日、両親のいる部屋から出ると気が抜けたように廊下でしゃがみ込んでしまった。

涙が止まらなくて声を殺して泣いていると、そこを通りかかった兄に見つかり、バシバシと強めに背中をさすられて慰められた。


「辛かったな。けどお父様達は意地悪で言ってる訳じゃないって事はわかるか?」


「……うん」


「そっか、そっか。ローズも大人になった証拠だな」


 そう言いながら兄はガシガシ頭を撫でてきて、こんな時もウィルはもっと優しくヨシヨシってしてれるのになって比べてしまう自分が嫌になった。


「そんなしょぼくれるなよ。ウィルには俺から説明しておくから」


「……ありがと」


「お兄様はいつでもお前の味方だぞ、ウィルと違っていつでも話して良いし、いつでも会えるぞ。そーだな、今度優しいお兄様とどこかへ一緒に行くか?」


豪快に笑いながらも兄は私を慰めてくれた。


「お兄様は訓練ばっかりで私のこと構ってくれないくせに……」


「おお、言うようになったじゃないか。今度ローズもムキムキになる訓練してやろーか?」


「いやだーーー」


兄が慰めてくれてるのに気づいてもなお頬っぺを膨らませて可愛げのない発言をする私に、兄はふざけてこちょこちょとくすぐってくる。


「も、くるし……っはは、やめてー」


「強制的ではあるが、笑えるじゃないか。ローズは笑ってる顔の方が可愛いよ」


「……お兄様、ありがとう」


私、決めたよ。ウィルとは関わらないようにする。



――あれから私はウィルに会わないように細心の注意をはらった。会ったらきっと話したいことがたくさん出てきてしまうから。


父の言うようにウィルが家に来る回数自体がかなり少なくなった。それでもたまに窓の外から声がして、稽古場を覗き込むと一生懸命剣の振ったり、兄と楽しそうに話すウィルがいた。


関わらないけど、遠くから眺めてるのは良いわよね。

そう思って姿を眺めていると急にウィルが顔を上げたせいで、私と思いっきり目が合ってしまった。


咄嗟にしゃがみ窓の外から目えないようにしたけれど、やばい、目が合っただけで胸がドキドキとうるさい。




―――

7歳の誕生日は去年とは違って家族皆んなでお祝いしてくれた。皆で食事して歌を歌われながら誕生日ケーキも食べる事ができた。それなのに去年を思い出して少し寂しく感じる私は贅沢なのだろうか。去年はこうして家族にお祝いされたかったのに、今はそれ以上を求めてしまう。


「ローズ、おめでとう」


食事も終わって雑談をしていると、兄から大きなバラの花が渡された。


「ありがとう、お兄様」


「これは俺の友達からので、こっちが俺からのプレゼント」


ローズは本が好きだろ?と兄から渡された。

それではバラの花をくれた友達って誰だろう?不思議に思って兄を見つめるとツンツンと花束の中のメッセージカードを指先された。


―ローズへ、7歳のお誕生日おめでとう。ウィルより―


こんなシンプルなメッセージすら愛おしくて涙が落ちそうになる。あぁ、両親の前で泣いたらダメだ。それでも気持ちが溢れてしまう。


「お兄様、ありがとう!!」


 ガバっと兄に抱きついて嬉しさを体で表現しつつ、涙をごまかした。


それからもウィルからのバラの花束は毎年誕生日に送られてきた。気の利いた手紙や、お礼の一言も伝えない私の事をどう思っているのだうか。

毎年届く花束は嬉しい半面、いつか終わりが来る事を思うとせつなくて、部屋に飾ったバラの花が枯れて落ちる度に自分とウィルの関係のようだなと思えた。

 

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