テディベア
「ねぇ、ローズ、可能であればこの後1軒だけ買い物に付き合ってくれないかな?」
「はい、あまり遅くならないようであれば大丈夫です」
「ありがとう。じゃあお店出ようか」
と言いながら、私の手を取り、腰に手を当てて歩くスタイルは帰りも同じなのですね…。店内の人の視線が痛くて私は床を見ながら歩くしかできなくなった。
ウィルの馬車に乗り込むと、横にウィルが腰かけた。えっ!?いつも対面の席に座るのに横なんて近すぎる。私の考えている事をわかっているのかわからないが、ウィルを見るとふふふとおかしそうに笑っていた。
馬車は出発したが未だに慣れない距離感に思わず声に出してしまった。
「あの……近くないですか?」
「そうかな?でも今日はデートなんでしょ?」
「先程もお伝えしたようにデートの為の視察ですよね?しかもお店はもう言ったからデート終了です」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねるように怒ってみたものの、隣からはくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「家に帰るまでがデートだよ?」
「うぅ…」
遠足の定番のようなセリフを笑顔で言われても納得できない。なのに何も言い返せない自分が嫌になる。
「そんなムスッとた顔のローズも可愛いけど、できれば笑ってほしいんだけどな」
「……可愛くなんてないです」
「すっごく可愛いよ」
「…………もういいです」
そうやって小さい子に言い聞かせるように言うんだから、やっぱりウィルは私を妹のようにしか見ていないだろう。なんだか落ち込んできたせいで言い返す気力もなくなった。
「拗ねちゃった?」
「…拗ねてないです」
「嘘だね。拗ねてるでしょ。拗ねてないなら手出して?」
ん?何の事だ?と思いつつ、拗ねている私は拗ねていないフリをする為、言われるがまま自分の手を前に出した。
その瞬間大きな手に捕まってしまったが、馬車なので逃げる事ができない。
「な、な、な、なにしてるんですか」
「んー?手を繋いでるんだよ」
「恥ずかしいから離してください」
「嫌だ」
焦っている私と同じ空間にいる人とは思えないくらいウィルは余裕の笑みで笑いかけてくる。
「もぉ!意地悪しないでください」
「意地悪じゃないよ。拗ねてるローズの機嫌が直るかなって思って」
「もう今は拗ねてないですから!」
「あ、やっぱりさっき拗ねてたんだ。じゃあこのまま手を繋いでいたら僕の幸せパワーが移ってローズも笑顔になるかな?」
うぅ……。そんな悪戯っ子のような笑顔で言われても負けないぞと思っていたら馬車が停止して、扉が開いた。なーんだ、もう少し楽しみたかったのにと言うウィルの呟きは聞かなかった事にする。人をおもちゃの様に扱ってるのかと言いたかったが全て聞かなかった事にしてあげよう。それが身の為な気がした。
たどり着いたのは文房具店だった。ペンやノート等ウィルが店内の商品を真剣に見ているので、ウィルの横から抜け出して店内の端にでも行こうとした時、私は小さいテディベアに目を奪われた。
ペンが並んでる棚の後ろにちょこんと飾られている掌より小さいテディベアを手にして、手足を動かすと思わず顔が緩んでしまう。
「ローズはそれが気に入った?」
「あ、いえ。ちょっと可愛いなって……。スペンサー様の買い物に付き合っているのにすみません」
「ううん。ローズの入学祝いを買いに来たんだから大丈夫だよ」
「えっ?私の?」
「そう!学校で使える物の方が良いかなって思ってここに来たんだけど、その子で決まりだね」
悪いですよって言ってもウィルは聞き入れてくれず、大事にしてねって私の前にテディベアが差し出された。
「あの、スペンサー様。ありがとうございます」
「こちらこそ、今日はありがとう。もう遅くなっちゃったから家まで送らせてもらうよ」
「いや、大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ」
「それならどこか家の途中で降ろしてください」
もう夕方になるとは言えまだ空が明るいだ。1人でも帰れるし、母にも夜になる前には帰ることは連絡済みだ。なによりウィルと一緒にいる事がバレるのが一番ヤバい。
「ダメ。女の子を1人で返せないよ」
「……内緒で来たからダメなんです……」
あぁ、ウィルに伝えたらショックを与えると思って言わなかったのに。怖くてウィルの顔が見えない。




