誤解
「いや、ごめん。僕が悪いからそんなに悲しそうな顔しないで。僕のせいでローズに嫌な思いをさせてしまってごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「僕がローズの事を嫌いになる事なんて一生ないから」
「一生…?」
「うん、一生ない。断言できるよ」
まさかの返答に私はどう返事して良いかわからず苦笑いした。きっとウィルの好きは小さい頃一緒にいた幼い私への情がずっとあるのだろう。
「本当はさ、ローズの事を嫌いになれたら楽なんだろうなって考えた時もあったんだけど、僕にはできないから」
「えっと…スペンサー様は私を嫌いになりたいと言う事でしょうか?」
よくわからないけどウィルが私を嫌いになろうとしてたと言う事実は確実に理解できた。今日一番、いや、今年に入って一番と言えるくらい悲しい話を聞いた気がする。
「嫌いになれないし、今後も嫌いになんてならないって話。頼むからそんな捨て犬みたいな顔で見ないで。僕の理性が保てなくなる」
「…はい」
まだよく理解できないけど、嫌わないでいてくれるみたいだ。理性が保てなくなるくらいイライラさせてしまったのだろうか、なんだか面倒な女って思われていたら嫌だなと思っていたら頭にウィルの手がのってヨシヨシとしてくれた。
「これで元気になるかな?」
「は、はい!」
「ふふふ、よろしい」
頭を撫でてくれる手つきは相変わらず優しくて、天使の笑みで笑いかけてくれるウィルを見ると昔と何も変わらないんじゃないかって錯覚に陥る。なんでこの手はこんなにも安心するのだろう。
「ローズ、今日のデートは楽しかった?疲れてない?」
「いえ、とっても楽しかったです」
「僕も凄く楽しかった。またお願いしたら一緒に出かけてくれる?」
「……機会があれば」
「ふふふ、嬉しい。ありがとう」
デートの視察なんてしなくてもウィルなら会話力もあるし、エスコートも上手だし私なんて不要なはずだけど、目の前の笑顔を見てその言葉は飲み込んだ。
「あ、でも、今度誰かとデートされるのであれば、人気のあるお店でも一緒に行列に並んでみるというのはいかがでしょうか?」
「どうして?」
「前にニコルとパンケーキ屋さんに行った時、とっても並んだんです。だけど並んでる間の待ち時間も色んな話ができて楽しかったから、デート相手の方が嫌でなければそこを楽しむのも有かと思います」
「ふーん、僕とのデート中に他の人とのデートの話をするんだ?」
えっ、またウィルの機嫌が悪くなった?ウィルともニコルともデートなんてしてないのに、何でたまに話が噛み合わなくなるのだろう。
「ローズって見かけによらず小悪魔な所あるよね?」
「こ、小悪魔?」
「そう、僕の事を試す話ばっかりする」
「えっと……何の事でしょうか……?」
さっぱりわからなくて、拗ねてるような口調で話すウィルにどう対応したら良いかワタワタしてしまう。
「僕には行列を一緒に並んでくれる子なんていないよ」
「そ、そんな事はないと思います…」
ウィルとデートしたい子なんて沢山いるはずだ。お妃候補の令嬢達だって1分でも多くウィルと一緒にいたいと願ってるはずなのに。
「じゃあ今度ローズが付き合って、僕にその経験をさせてよ」
「あ、えっと……はい」
私はウィルの迫力に負けて直ぐに返事をしてしまった。しまったと思った時には目の前の人物は幸せそうな笑顔を向けていて今の発言を撤回したいなんて言える雰囲気ではなかった。




