願い
「今度王都に新しいケーキ屋さんができるんだ。この学校からそう離れてもいないし一緒に視察に行ってくれないかな?」
ケーキ屋さんに視察…。あ、お妃候補の方とのデートの下見だろうか。ウィルと距離を置きたいが誘いを断ったら感じ悪いだろうな…なんて考えていると、ねぇ、ダメかな?ともう一度念押しに聞かれてついつい答えてしまった。
「……私がお役に立てる事であれば是非」
「ほんと?内心断られるんじゃないかと思ってたから凄く嬉しいよ」
「いえいえ、こちらこそ」
「なんだかデートみたいだね」
「え、デートじゃないんですか?」
てっきりデートの下見だと思っていたのだが、違うのだろつか?私は首を傾げてウィルに聞いてた。
「デートでいいの?」
「…違うんですか?」
「いや、違わないよ」
何だか会話が噛み合っていない気がするが、ウィルの機嫌が良さそうだからこれ以上詮索しないようにした。
視察決行日は学校が休みの日で、家まで迎えに行こうか?と提案してもらったが私の両親が心配するだろうから断った。きっと私は両親に嘘をついて外出するしかないと今から罪悪感を抱えた。
―――
「スペンサー様、お待たせしてしまいましたか?」
「ううん、全然待ってないよ」
ケーキ屋視察の日、ニコルと待ち合わせしていると私は嘘をついて馬車を出してもらい、途中から歩いてケーキ屋さんを目指した。時間よりかなり余裕を持って家を出たはずなのに待ち合わせ場所には既にウィルがいた。
「それじゃあ、行こうか」
「ぇっ……」
ウィルに手を差し出されたがどうしたら良いのだろう。通常であれば手を置いて応えるべきだろうが今日はデートの予行練習のはずだ。黙ってウィルの手を見つめているだけの私にウィルが口を開いた。
「今日はデートじゃなかったけ?」
「ん?デートの為の視察ですよね?」
まぁそれでも良いよと笑いながらウィルは手を引っ込める気配がない。これは私が耐えるべきか?顔色を伺い、空気に耐えられなくなった私はウィルの手に自分の手を重ねた。
私の手を掴むと手の甲にキスをしたかと思ったら、腰に手を添えられて歩き始めた。
ち、近すぎる。緊張でロボットのような歩き方になっている気がする。視察ってここまでするものだったのか、心臓がバクバク言っているのをウィルに気づかれていないだろうか?心配になりウィルの方をチラ見するだけのはすが、目が合い余裕な笑みを向けられてしまった。おかげで更にバクバクうるさくなって心臓に悪すぎると今更ながら後悔した。
ケーキ屋さんはオープン初日と言う事もあり、かなり大盛況だった。ウィルの執事が先にお店に入ったかと思えば、後を追うように私達も行列を追い抜き、私達は待ち時間0でお店に入る事ができた。これってパンケーキ屋さんの時にウィルとリリアナがしていた事と全く一緒だと思ったら胸がチクっとして、少し気分が沈んでしまった。
「ローズどうかした?」
「…なんでもないです」
席に座って色んな令嬢とこうやってデートするのかなとぼんやり考え込んで、勝手に落ち込んでいる私に気づいてウィルが心配そうに私の顔を覗くが、素っ気ない返事しかできたなかった。
ウィルが先にメニュー表を見て良いよと渡してくれたので、くまなくチェックした結果、お店おススメのいちごたっぷりケーキと紅茶のセットにする事にした。
「私はこのケーキセットにします」
「他に気になったケーキある?」
「んー…全部美味しそうですけど、一番食べたいのはこれです」
「そっか。他にも食べたいのがあれば僕がそのケーキを頼んで、あわよくばローズに食べさせてあげたかったんだけどな。残念」
それってパンケーキ屋さんでの私とニコルのやり取りだ。全部聞かれていたのだろうか、恐る恐るウィルの顔を確認したが、どうした?と柔らかい話し方で返されたからたまたまだったのかもしれない。
ケーキはとっても美味しいくて、最近怖いと思っていたウィルは昔のように天使みたいなウィルに戻っていて、思っていたより楽しい時間を過ごせていた。
「私スペンサー様に嫌われているかと思っていたんですが、今日は来れて良かったです」
「本当に嫌われてると思ってるの?」
「はい…」
楽しくてつい思っている事を口にしたらウィルの雰囲気が急にピリッとした気がする。
はぁーーーっと大きいため息を吐いたウィルは黙ってしまい、自分の発言のせいでまた空気を悪くしてしまったのだろうかと反省した。




