甘酸っぱい
「「「「………………」」」」
ニコルと私は2人で料理を取りに行くフリをして空いてる席を探したが空いてる席は皆無で、諦めて2人で料理を取りに行った所までは楽しかったのに、なんで全員黙っているだ。かと言って私が何か振るような話題もなく周りはガヤガヤと賑やかなのに私達の席はシーンっとしていた。おかげで皆の注目を集めている事がどうでも良くなるくらいだ。
「おいおい、なんでこんな暗い空気でご飯食べなきゃいけないんだよ!」
この静寂を破ったのは兄だったが、兄以外の人はそれにどう反応していいかわからず、また沈黙に。
その後も色々と話をふって盛り上げようとする兄には申し訳ないが、あまり話が弾む事はなかった。私は一刻も早く食べて早く離席しようと黙々とご飯を食べ進めて行った。
なんだか重い空間でメイン料理を食べ終え、デザートを食べようとした時だった。
「ローズちゃん、これ激ウマだよ!」
「えー、2つもデザート持ってきたのにそれ取らなかった」
隣に座るニコルがいちごの乗ったゼリーを食べながら感動したように教えてくれたが、私はそれをチョイスしなかっただけにしゅんとしてしまった。
「一口あげようか?」
「えっ!いいの!ありが……ぇっ?」
ニコルにお礼を言おうとした時に、急に前から手が伸びできて私の目の前にニコルが食べているものと同じいちごのゼリーが置かれた。
「ウィルが甘いもの持ってきたなんて珍しい事もあるんだな」
「別に…。たまたまだ」
ニヤニヤしている兄と対照的に私は焦っていた。嬉しくない訳ではないが、恐れ多い。それに取りに行けばまだゼリーは残っているはずだ。ウィルが持ってると言う事は自分で食べたかったはずなのだから返すという選択肢しか浮かばなかった。
「あの、ありがとうございます。でも、私は大丈夫なのでご自身でお召し上がりください」
「いらない」
「えっ?」
「僕がいらなくなったから食べてほしいんだ」
「えっと、じゃあ…そう言う事ならお言葉に甘えて、いただきます」
今日も終始無表情でなんだか怖いウィルからゼリーを受け取ると1口食べてみた
「美味しいぃー。ゼリーに甘酸っぱい苺がマッチして頬っぺたが落ちないか心配になるくらい美味しい」
「ローズちゃん、甘いもの食べてる時が本当に幸せそうだよね」
ぷはって隣で笑うニコルに言い返そうとした時だった。
「ふふふ、そんな顔初めて見たかも」
と、目の前のウィルまでも笑い出すから、兄までゲラゲラ笑って、怒ろうと思っていた私までもが恥ずかしくて照れ笑いしてしまった。
さっきまでの沈んだ空気が嘘のように明るくなったかと思った時、突然ニコルに女の人が寄ってきて、ニコルの腕を掴みながら声をかけてきた。
「ニコル!ちょっとこっちきて」
「ごめん、ローズちゃん。悪いけど急用ができたから先に教室戻ってて」
ニコルに近づいたのは先日の歓迎会で私に怒ってきた2年生の女性だった。いつも一緒に過ごしているのに、2人が知り合いだった事なんて知らなかった。ニコルは嫌そうな顔をしながらも席を立つと上級生と食堂の外に消えて行ってしまった。
「俺もご飯食べ終わったし、担任に呼び出しされてるから席外すわ」
「「えっ!」」
急に立ち上がった兄に私もウィルも同じ反応をしてしまった。基本的に兄はウィルと一緒に居ないといけないはずなのに、置いていかないでよと心の中で文句を言っても伝わる事はなく。じゃあ後で迎えに来るから仲良く2人で話してなよと笑いながら消えて行った。
「「……………………」」
気まづい。気まづすぎる。ウィルから貰ったゼリーを食べ終えても、まだ自分の取ってきたデザートが2個も残った状態で離席するなんて感じが悪いだろうな。ウィルはもう食事が済んでいるんだから兄と一緒に行っても良かったのに私のせいで残ってくれているのか?それなら気にしないでくださいと伝えるべきかと悩んでいたらウィルに話しかけられた。
「ローズがそんなに甘党だなんて知らなかった。美味しい?」
「は、はい。美味しいです」
「この間もパンケーキ屋で会ったもんね」
「はい……」
その話題が何だか更に気まづくなってしまうのは私だけだろうか…。
「あ、あの、手とか胸?は大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。あの時は余裕がなくて怖い思いさせてしまってごめんね」
「い、いえ」
「「……………………」」
やはり話が続かないか。それだけなら良いのだが前方からウィルがずっと見てくるから食べるのすら気まずい。やはり早く食べ終えて離席する以外に選択肢はないと、デザートに集中してモグモグと早食いしていた時、再び声をかけられた。
「あのさ、1つお願いがあるんだけど聞いてもらえないかな?」
ウィルのお願いってどんな事だろうとデザートからウィルに視線を向けた。




