恐怖
あの日からウィルに会う事がないまま時間は流れていった。ウィルの胸は治っただろうか?手は腫れていないだろうか?と教室で考えていると珍しい人に声をかけられた。
「ちょっと時間ちょうだい?」
「あ、うん」
声の主はリリアナだ。リリアナの後について教室を出ていくと、普段は使われていない教室に通された。
「単刀直入に聞くけど、あなたウィル様を怒らせるような事した?」
教室で声をかけられた時は優しかったのに、リリアナなの強い言い方と圧に怯えて、何も言葉が出ない私にリリアナは続けた。
「あんなウィル様初めてみたわ。あなたがウィル様に嫌がらせでもしたんじゃないかと思って」
「た、たぶんしてない…」
「そもそも知り合いだったの?ここ数日あの日の事をずっと考えていたの。何か失礼な発言をしたのかと思ったけど、どちらかと言えばあなたかニコルって子に怒っていた気がして」
探るように腕を組みながら近づいてくるリリアナは顔が整っているからか、かなりの迫力があった。
「昔お兄様と一緒に居る時にスペンサー様と会った事はあるけど…」
「じゃあ怒りの原因はニコルって子の方ね?男爵風情が王子と接点なんてないと思ってたけどどんな手を使ってる近づいたのかしら…」
その言葉に何だか友達が侮辱された気分になってイラッとしてしまった。
「ニコルは何も悪くない。だから私の友達を悪く言わないで」
何その目つきと睨んできたかと思えば、あぁ、なるほど、あんた好きなのね?って急に笑い始めたリリアナ。
「最近あの子がチヤホヤされてるみたいだけど所詮男爵家だよ?せいぜいあんたみたいな病弱で平凡な子とお似合いだわ」
「…さっきから何言ってるの?」
「あなたとギリギリ貴族男の恋を応援してあげてるのよ」
「私達はそういう関係じゃない」
「そんな意地張らなくていいわ」
それじゃあと教室を出たリリアナは来た時とは別人レベルにご機嫌になっていて怖かった。
今までリリアナがウィルのお妃候補かもと思っても、美人で私にも優しくてリリアナがお妃なのはピッタリだと思っていたのに。今のリリアナを見て、どうかリリアナだけはお妃に選ばれないでほしいと思ってしまった。
「リリアナに呼び出されたんだって?ローズちゃん大丈夫?」
教室に戻るとニコルが心配そうに来てくれた。
「大丈夫だよ」
「ごめんね。俺知ってたらついて行ったのに。何もされなかった?」
心配そうに眉毛を垂れさせて顔を覗き込んでくるニコルがあまりに真剣で、なんか大事にしてくれてるなって心が温かくなった。
「ふふふ、もう大丈夫」
「えーーー、俺心配してるのに何笑ってるのー」
そう言いながらニコルも笑ってくれるから、家柄なんて関係なく、私はいい友達をもったなって幸せな気持ちになった。
「ニコル、私の友達になってくれてありがとう」
「そんな可愛い事言ってくれたら俺好きになっちゃう」




