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淡い気持ち

sideウィル


ローズの誕生日を知って、欲しい物はないか尋ねたら、友達でいてほしいとモジモジと恥ずかしそうに答えた彼女を思い出してはニヤけてしまう。


僕の妃候補は既に数名おり、定期的に時間を作らされては一緒に過ごしているが、彼女達に同じ質問をしてこんな可愛い回答をくれた子なんていなかったな。あぁ、なんて愛らしいだろう。


喜ばせたい一心でプレゼントを渡す事を決めて、巷で流行りのお店に連れて行ってもらう事にした。今まで妃候補の子へのプレゼントは代理人に買いに行ってもらっていただけに、最初はどんなものが良いだろうか、女の子のプレゼント選びは難しそうだと悩んでいたのが嘘のように、ローズへピッタリのバレッタを見つけた。これを渡したらきっと喜んでくれるだろうと想像しただけで会うのが待ち遠しかった。


誕生日当時、彼女の容態は悪いようで、その後何度行っても会う事はできずにいた。あの笑顔に会いたくてギルに半ば強引にお願いして会わせてもらう事にした。


久しぶりに会うローズは顔色が悪く、明らかに弱っているのに、僕の心配をしていた。健気で、儚くて、泣いている彼女が消えてしまわないよう気づいたら抱きしめていた。


ローズへのプレゼント作戦は大成功で想像以上に喜んでくれた。どうしても僕の選んだバレッタをつけた姿が見たくてつけさせてもらったが、その姿を見た僕の方が胸がいっぱいに満たされた。


その後は体調が回復に向かっている事や、どんな風に過ごしてたかとか色々な話をしたが、いつものローズより少し弱々しく感じた。


「まえに聞いちゃったんだ。お父様はわたしが男の子だったらよかったのにって言ってた。だからきっとわたしの事が好きじゃないんだ」


珍しく弱音を吐くローズに僕まで胸が苦しくなった。

眉毛を下げながら、それでも笑うローズを僕が幸せにしたいと思った。


ローズは公爵令嬢で、騎士団長の娘なら僕の妃になれる可能性がある。

この国は昔側室制度があった名残で一夫一妻制の今も誰か1人と婚約するのではなく、王子が成人の歳になる迄は何人もの令嬢を妃候補にして良い事になっている。勿論妃に選ばれるのは1人のみだが、国側としては家柄の良い令嬢を他の男に捕らせないで確保でき、選ばれなかった令嬢も妃候補になったと言うだけで身分の高さに加え一流の淑女としての教育を受ける機会が得れるので他の男と婚約する際に不利に働く事はない。

 

ちょっと待てよ?ローズは6歳にもなっているのに妃候補のリストに未だに上がっていない。早い人で産まれた瞬間から申請されている。もちろん家柄が良くないと立候補自体できないが、ローズなら条件をクリアできるはずだ。


――

「カーライル、ちょっと聞きたい事がある」


「なんですか?面倒ごとには巻き込まないでくださいよ」


 稽古終わりにカーライルに話しかけると、まだ何も伝えていないのに面倒くさそうにしていた。


「ローズはまだ妃候補の申請が済んでいないようだが理由でもあるのか?カーライル家なら問題ないだろう」


「ウィル王子もご存知の通り、あの子は体が弱くてね。小さい頃に王家の方にもお誘いの話をいただいたけど丁寧にお断りさせていただきました」


「今は体調が優れなくても、いずれ安定するかもしれないだろ?妃になれば富も名声も得れる。……それとも、あの子が嫌いなのか?」


彼女が妃に選ばれればカーライル自身もより箔がつく。それなのに何故だ?


「勘違いしてもらったら困りますよ。たしかに俺はあの子にどう接して良いかわからない時があります。男だったらギルのように剣を教えてやれるのにって何度思った事か。俺は女の接し方に不慣れなのに、すぐ泣くし、すぐ病気になるし。だけどな、あの子を嫌いになった事なんて一度もないですよ」


「っ…ならば、」


「あの子は穏やかで、真っ直ぐで、優しい子なんです。誰があんなドロドロの世界に放り込みたいと?富も名声も俺の力で手に入れている。それ以上はいりません。あの子の幸せが一番だから」


珍しくドスのきいた声で話しているカーライルの顔を見たら嫌でもわかる。

なんだ…。そう言う事か。カーライルは間違いなくローズの事を愛している。ローズに伝えたら喜ぶのだろう。だけど僕としては困ったな。ドロドロの世界だとしてもローズを引き込んで僕だけのものにしたいのに。

 

僕はローズの求める友達の関係も壊したいし、カーライルの望むローズの幸せを崩してでも手に入れたい。こんなドス黒い気持ちが自分にもあったんだなと嘲笑ってしまう。


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