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傷心

美味しさに浸っていると後ろの席からガタッと言う大きな音とリリアナが焦っている声が聞こえてきた。


何事か気になるけど振り返っていいのだろうか?いや、振り返ったらまた2人を見る事になるからやめておこうと思った瞬間私達の席にバンっと大きな衝撃がきた。


机の空いているスペースにウィルの手のひらが思いっきり叩きつけられたのだ。


「おっと、ごめんね。僕転びそうになっちゃって」


「……ぇっ?」


思わず声に出てしまったが、思考が停止した頭では未だに何があったのかわからず、ウィルの顔を見上げた。すごく笑顔なのだが声色も目も全然笑っていないように思えたのは私だけだろうか。


「別に大丈夫っスよ。かなりぶつけていたようなのでお大事に」


ニコルは素っ気ない口調で早く席のそばから退いてもらおうと、バイバイするように手を振っていた。


「ウィル様お怪我されていませんか?」


「あぁ、心配いらないよ。ちょっとここが痛いだけ」


とウィルは胸にてを当てていた。駆け寄ってきたリリアナはウィルの手を心配するように、ウィルの手のひらを撫でている光景は私にとってかなりのダメージだ。

ウィルが当たったのは手だけだとおも思ったのに、胸までぶつけたのだろうか?ウィルの表情がどこか辛そうだからかなり痛かったのか?そう思うととっさにウィルに声をかけてしまった。


「…あの、大丈夫ですか?」


「全然大丈夫じゃない。大丈夫な訳がないでしょ」


「……ぇっ?」


なんでリリアナが聞いた時は心配ないって言ってたのに。質問したのが私だと心なしか声のトーンが低くなって、大丈夫じゃなくなるのか?しかもやっぱり怒っている。なんとなく大丈夫って言われるのを期待して言った質問だったから何も返せなくなった。


「それなら尚更心配なので早くお帰りください。それに今店内の注目の的になっているのわかってます?」


と冷たく放つニコルにリリアナも続けた。


「ウィル様、馬車まで歩けますか?」


今度はウィルの腕に自分の腕を絡めたリリアナが馬車まで誘導しようと歩き始めた時、ウィルが振り返って私の方を見た。何か口を動かしていたが、何て言ってるのか私には聞こえなかった。


2人が店から出て行く姿を目で追っているとツンツンと服の袖を引っ張られた。


「ローズちゃん、あの第二王子と絶対何かあったでしょ?」


「……何もないよ?」


「嘘だね!友達に嘘ついていいと思ってるの?」


意地悪く笑いかけてくるニコルに私は幼少期からの知り合いだと伝えた。ウィルのコソ練は王宮内でもかなりのトップシークレットだったようなので、私が病弱で家に居てばっかりだった事と兄の友達だったからよく家に来ては話していたと伝えた。


「なるほどー。最初はローズちゃん凄い嫌われてるのかと思ったんだけど、むしろその逆…」


「ん?」


ボソボソと独り言のように呟くニコルに、何話しているか聞きたくて首を傾げた。

 

「さっすがローズちゃんも公爵令嬢だねって話」


「そんな事ないよ。お父様はお兄様ばっかり構ってたし、お母様も病気がちの娘との距離感に悩んでいて、ひとりぼっちが多かったかな」


「公爵家も公爵家で大変なんだね」


「病気ばっかりしてたおかげで許婚とかいないし、私は自由恋愛して良いって言われてるけどね」


へへんっと勝ち誇った顔で笑ってみせた。

病弱ではなかったらウィルのお妃候補とやらになれていたのだろうかって昔は考えてばっかりいたけど、さっきリリアナと2人で並んでる姿を見て平凡な私には無理だったなっと嫌でも思い知らされた。

なんで私の名前はローズなんだろう。そんな華やかな名前に名前負けしてる気がして嫌になった。


「じゃあさー、ローズちゃんは俺と結婚しちゃう?」


「もおー、からかわないでよ。嘘ってわかってても恥ずかしいんだから」


たぶん顔が真っ赤になっているであろう私は両手で自分の顔を隠した。ニコルは笑って可愛い反応してるーって言ってくるので余計に恥ずかしくなった。




 


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