友達
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「皆さん、学校生活にはもう慣れましたか?来週はいよいよ1年生歓迎会、全学年での交流会があります」
ナンシー先生の説明によると、1年生は配布された大きめの赤色のリボンに自分の名前を書き、2年又は3年の先輩に自己紹介をして渡すそうだ。
2年は黄色、3年は青色の小さいリボンをブレザーにつけているから交換してもらうまでが交流会との事だ。
「後日きちんと確認するので、万が一黄色又は青色のリボンを持って返ってこなかった人がいたら、サボったとみなします」
その言葉に私がギクッとしたのは言うまでもないだろう。交流会なんてコミュ障の私には無理そうで時間が終わるまで図書室にでも隠れてようと思ったのにダメか…。
そもそもこの学校は交流イベントが多い。それは貴族専門校という事が大きいだろう。家柄が保証された人しか通えない環境なので、貴族同士社会で有益になる繋がりを多く作れる。また、産まれた時から許嫁が決まってる人もいるが、今は昔とは違い自由恋愛も認められるようになったから、この学校で結婚相手を作る目的の人もいるだろう。
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放課後の図書室で私は机にうなだれた。
「ニコルー。歓迎会なんて行きたくないよー」
「俺も乗り気じゃないけど、ローズちゃんは楽勝じゃない?」
「えっ、なんで?」
「だってギルバート様がいるじゃん」
「なるほど!!」
この学校にきて兄の存在がここまで嬉しかった事は今までなかっただろう。幸せだ。さっきまでぐずっていたのが嘘のように気持ちが楽になった。
「喜んでいる所に水をさすようで悪いんだけど、ギルバート様って結構人気あるよ?最年少で騎士団に入っただけでも注目の的なのに、近づきやすい人柄で男女共に慕われてるから事前に伝えておかないとダメなんじゃない?」
その言葉にギクッとなり、はぁーっとため息を吐くとまた机にうなだれた。
言われている事は正しいが、3年の教室に行く勇気もない。
「明日3年生の教室に一緒に行ってあげようか?」
「ありがとう!友よ!」
やれやれと言いつつニコルの口元は笑っていた。私にはニコルしか話し相手がいないし、ニコルも私としか話してる人がいないから勝手に人見知り仲間だと思っていたのに、ニコルは頼りになるな。
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翌日、放課後。私はニコルの横にピッタリつきながら3年生の教室を目指し廊下を歩いていた。
「そんな怯えなくても大丈夫だって」
「でも、他学年の生徒がここのフロアにいるの珍しいから皆ジロジロ見てる気がする…」
「大丈夫だって。周りの人は全員ジャガイモだと思いな」
ビクビクしている私とは対照的にニコルは堂々と歩いている。その前髪で前はきちんと見えているのだろうか?と思っていたのは最初だけで今はニコル様と言いたいくらい心強い。
「すみませーん。ギルバート様はいますか?」
3年の教室に着くと、扉近くの生徒に大きい声でニコルが尋ねてくれた。たちまち教室はザワザワして、あんなもっさいのがギル様に何の用なの?と陰口をいう者や、ギルが呼び出しくらってるとニヤニヤひやかす者もいた。
やっぱりこんなアウェイな環境来たくなかった。私のせいでニコルにも悪い事をしたと顔を下に向けて落ち込んでいると、大丈夫だと知らせてくれるかのように隣にいるニコルがギュッと手を握ってくれた。
「君達、ギルになんの用かな?彼は今ちょうど席を外しているんだ」
その一言で笑っていた者、コソコソ話していた者、この教室にいる全員が一斉に静かになった。この声の主を私は知っている。
咄嗟に顔を上げると目の前にはウィルがいて、こんなに間近で見たのは久しぶりで何だか泣きそうになった。記憶の中のウィルはいつも優しく微笑んでいるのに、目の前には鋭い目つきに、少し冷たい口調で話すウィルがいた。
「ギルバート様がいないならまた今度来まーす」
行こう、ローズちゃんとニコルに繋がれた手を引っ張られて私もトボトボ歩いた。
私の知っているウィルはあんな雰囲気じゃなかったのにな。もし2人きりだったら名前を呼んでくれていたのだろうか。ありえないか。過去は過去だ。後ろは振り向かないで私達は自分達の教室に戻っていった。
その後、何度か兄に会いに行くリベンジをニコルに提案されたが私は断った。もうあんな思いはしたくないから。それに当たり前だが1年生より2、3年の方が人数が多いのだ。当日どうにかなるさの精神で頑張る事にした。




