入学
―やっとこの日がきた。
2年間ずっと会いたかったあの人に少しだけ近づける場所。
はーっと大きく深呼吸をして私は大きな門をくぐった。
ここレーヴ学院は貴族しか通う事のできない限られた生徒の為に作られた学校だ。
新入生はこちらと書かれた案内に従い歩いていると急に後ろの方がザワザワと騒がしくなっていた。
「きゃー、今日もかっこいいわ!」
「久しぶりにお姿を拝見できてラッキー」
「スペンサー様ステキすぎる」
その声を聞いて私はパッと振り返りキョロキョロと辺りを見回した。その名前が聞こえたから、私の今一番会いたい人、ウィル・スペンサーと。
私達が初めて出会ったのは私が5歳で彼が7歳の時だった。騎士団長を務める父が内緒で練習させたいと家に連れてきては兄と一緒に父の稽古に参加していた。病弱だった私はいつも窓からその稽古風景を見ていた。
体の調子が良く敷地内を散歩していたある日、兄に手をひかれて稽古場に連れて行かれたのだ。
「ウィル、俺の妹のローズだ」
「は、は、はじめまして。わたしのなまえはローズ ・カーライルですっ!」
兄に紹介されて慌てて大きな声で名前を伝えスカートを広げてお辞儀をした。
「ふふふ、可愛い妹さんだね。僕はウィル・スペンサー。よろしくね、小さなレディ」
前に習ったお辞儀をあまり披露した事なかったから下手過ぎて笑われたのだろうか。少し恥ずかしくなりながらお辞儀していた顔をあげて声の主を見たら、天使のようなキレイな人が立っていた。金髪な事は窓から見て知っていたが、整った顔にキレイな碧い目。思わず見惚れてしまった。
「よろしくね、ウィル」
家族と屋敷の人以外とほとんど話した事がない上に、こんなかっこいい人と話せて嬉しいなと思わず笑みが溢れていたのに、兄に頭をペシペシ叩かれた。
「こら!お前はスペンサー様って呼ぶの!100歩譲ってもウィル様と呼べ!」
「おにーさまもウィルって言ってた!」
「俺は同い年だし稽古仲間だから特別に呼び捨てして良いって言われてんの!この国の第二王子に向かって呼び捨てはダメだ!」
私に怒った後、ごめん、ローズは病気がちで家にずっといるせいで世間を知らないんだ。悪気がないから許してあげてほしいとウィルに謝っていた。
「……ごめんなさい。スペンサー様」
兄が謝るなんて私が悪い事をしたんだと思ったら、さっきまでの威勢が信じられないくらい、小さい声で謝って頭を下げていた。
「ローズ、僕はローズにウィルって呼んでもらえて嬉しかったよ。これからもウィルって呼んでもらえないかな?」
おい、ウィルと兄が止めに入っていたが、ウィルが私の近くに寄って私の目線の高さに合わせてかがむと、ダメかな?と更に続けた。
「ダ、ダメじゃない!わたしもウィルとトモダチになりたい!」
「ふふふ、ありがとう、ローズ」
ウィルの笑顔はキラキラしていて、こんな天使みたいな人がいるんだとか、ついに私にも友達ができたとか、とにかく胸がいっぱいだった。