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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕が授かったギフトはずんどこべろんちょだったが、弟はうんこち〇ちんだった

作者: 京楽

 その日、世界は震撼した。

 とは言い過ぎたが、この大聖堂は震撼したと言える、確実に。


「アーニセト殿の授かったギフトは、『ずんどこべろんちょ』です」


 何せ僕が授かったギフトが、ずんどこべろんちょと言うわけの分からないギフトだったのだ。


「な、何だずんどこべろんちょって」

「さあ?」

「何やら訳の分からないギフトなのは確かなようですが……」


 その語呂の良さ(悪さ?)と訳の分からなさで、大聖堂は大いに揺れた。


「大神官殿! そのギフトはどのようなものなのですか!?」

「さあ、何せ今まで授かった事が無いギフトですので……。

 それにギフトは、神が気紛れに授けるもの。

 意味不明であっても、それは仕方の無い事なのは、ご承知の筈」

「ぐぬぬ……」


 父マルコ・アダーニの問い掛けにも、予想された答えしか返って来ない。


 ギフトは神が人に授ける能力だが、それは人を憐れんでとか、贔屓してと言ったものではない。


 曰く『何か面白そうだから適当に授けるぞい』と遥か昔に神託があったらしい。


 しかし、適当に授かったと言っても、神からの授かりもの(いや、子供の事ではないが)。

 割と便利なギフトを貰った人は、引く手数多の売り手市場、ギフトを使って一財産築くのだって珍しくはない。


 貴族である僕の家も、僕が授かるギフトに期待していた。

 家の浮沈が関わって来るのだから期待は当然だが、しかし神は気紛れ世は無情なもの。

 大概は家に関係のないギフトを授かり、残念でしたと外れの宝くじ並にがっかりして帰るのが定型パターンとなっているのだが……。


 僕のように極たまに本当に訳の分からないギフトを授かった場合は、ちょっと事情が違ってくる。


 その事が貴族間で噂になり、話題に上り、他家に笑われてしまう流れが起きる。

 場合によっては侮られ、仕事を回して貰えなくなったり、村八分のような状況も起きる。

 悲しいかな貴族の習性と言う奴だ。


 そんな訳で、多分近いうちに除籍されるだろうなぁと考えに耽っていると、弟のオラツィオが愉悦の笑みを浮かべて来た。


「ふん、兄貴にふさわしいギフトじゃないか」

「オラツィオ……」

「おお、オラツィオよ、そうだお前がまだ居たな!」

「父上、お任せ下さい、こんな奴より余程役に立つギフトを引き当てて見せますよ!

 はっはっは、まぁ見てて下さい、このオラツィオの面目躍如たるギフトを引き当てる所を!」

「よ、よっしゃー、いったれー!!」


 と拳を振り上げ、ぴょんと飛び上がる父上。

 うちは田舎貴族なので行儀の悪さは多めに見られるけど、それはどうかと思うよ。


 まぁ僕としても、弟が良いギフトを引いてくれると助かる。

 跡継ぎが恵まれていれば、除籍されるにしても何か得しそうだし。


 だが、そんな僕ら家族の純粋な願いも、無情に打ち砕かれた。


「オラツィオ殿の授かったギフトは『うんこち〇ちん』です」


 ざわ…ざわ…と周囲が騒がしくなる。

 何だ、どういう事だ、どんなギフトなんだと騒ぎになる。


 小さい子は笑いを堪え切れず、口を覆っていたり、中には堪え切れず笑い転げ床を這っている奴まで居た。

 大人の中にも僅かに。


 いや、うん、まぁ分かるよ。

 分かるけどもうちょっと、こう、気遣いとか手心みたいなものをもう少し見せてくれても良いと思うんだ。


 ほら、オラツィオもう真っ赤になってるよ。

 いつもは自信満々なのに。


「ち、父上ぇ」


 縋るように父に呼びかけた弟だったが、父の答えは……。


「おお、オラツィオよ、死んでしまうとは情けない」


 おお、父よ、オラツィオ、まだ生きてますよ。




 散々な結果だったギフトの式典から、自邸に帰った後。

 父は書斎に籠った。

 弟は馬車から出て来ない。

 家で待っていた母は、僕のギフト名を聞いて何だそりゃって顔をした後、弟のギフト名を聞いてぶふぉ、と吹いた。


 遊びに来ていた叔母が話を聞くなりすっ飛んで帰って行ったので、明日には親戚中に伝わっているだろうな。

 貴族淑女の口はサラマンダーより、ずっと速い。


 今日はもうどうしようも無いだろうと、話は明日に回す事にした。

 夕食にオラツィオを一応誘い、当然馬車から降りて来なかったので母と食事を取った後、そのまま眠りに着いた。

 明日にはもう一家離散してるんじゃないだろうか。




 翌朝、馬車からまだ降りていなかったオラツィオを、母と使用人とで無理矢理引き摺り出し、着替えと食事をさせた。

 食事の最中に、父から話が有るので後でオラツィオを除いて、全員書斎に来なさいと言われた。

 オラツィオを除いて、としたのはオラツィオの精神状態が話を聞ける状況では無かったので、休ませる事にしたからだ。


 書斎に集まった一家全員の視線が父に集まる。


「さて、我が子達のギフトについてだが」


 言った途端、母がまた吹いた。


「ご、御免なさいね……笑ってはいけないのは重々分かっているのだけれど」


 笑い上戸の母には厳しいだろうと、僕も父も仕方ないと背中を擦ってやる。


 母が落ち着いた所で、父が話を再開する。


「アーニセトのギフトについては、まだ良い。

 と言うか、もう良いやって感じだがな」

「僕も特に気にしていませんし、何なら除籍して下さっても構いませんよ」

「……オラツィオのギフトが普通であれば、その選択肢も有り得たのだがな」

「そうですか」


 元々家を継ぐのに乗り気でなかった僕は、除籍して貰って気ままな人生を送りたいと家族に伝えていた。

 当てなどないけどどうにかなるさ、が家訓の我が家はそれでも良いかと納得して貰っていた。


 また、弟のオラツィオがそれに乗り気だったのも有る。

 但し弟は当時も今も中二病全開だったので、『ふっ、俺の前世からの因縁がギフトに帰結する時が来たか』『兄貴、お前には見えないだろうな、俺の輝けるゴールデンロードが』といちいちそれっぽい台詞もご愛敬と、生暖かく見守っていた。

 家を継ぐ頃には大人しくなっていると良いね、と母や父と笑い合いながら。


「問題はオラツィオのギフトの方だ」

「そうですね、仮にアレと称しますが」

「そうだな、アレと称しよう」

「ええ、そうね、アレね」


 そうしないと母がまた笑ってしまうので、なるべく直接的な表現を避ける事にしたのだ。


「アレをどうするかだ」

「アレは無いですよね、特にうんこうんこ言って喜ぶ幼少期を卒業したオラツィオにとっては」

「そうね、卒業したのに制服を着て外出するような痛々しさがあるわね」

「「それはちょっと違う」」


 母は不服そうだったが、何かそれとはベクトルが違うのだ。

 男には男の世界が有る、と言う感じか。


 それに大抵の夫婦は女性が制服を着てもう似合わないわね、と言ったら男性がそんな事ないよ、と返すプレイを嗜んでいると言うし、ダメージを受ける人が多そうなのだ。

 貴族なら無駄に余計な敵を作ってはならない。


「噂の回るのは早いもので、跡継ぎのオラツィオとの縁談を持ちかけた家からお断りと言うか、絶縁通知みたいなものが来ていた」

「それはまぁ」

「娘を持つ親としては、仕方ない事よね」


 想像して欲しい、夫となる男のギフトが『うんこち〇ちん』である女性と、その家族の気持ちを。

 社交界で娘がどのように言われるか、想像に難くない。

 本人のせいでは無いとは言え、ふざけているのかと言いたくなるのは仕方ないだろう。


「可能性が有るとすれば、女性も同じようなギフトを授かった場合くらいか」

「可能と言えば可能でしょうけど」

「そうね、〇んこ〇ん〇んとかね」

「母さん、伏字だらけになるから……」


 母も大概だった。

 まぁ、田舎貴族なんて大体こんなものだ。


「話が逸れたが、オラツィオをどうするかだ」

「まずは、ギフトの効力を検証してみるべきでは?」


 もしかしたら、有用なギフトなのかも知れないし、それを証明出来れば打開策も浮かぶだろう。

 だが父は首を横に振る。


「いや、今のオラツィオがそれに協力するとは思えない。

 それに、ギフトが本当に駄目なものだったり、逆に有害なものだった時のオラツィオへのダメージがな」

「良くて、引き籠って一生部屋から出て来ない、悪ければ精神崩壊するでしょうね」

「コラテラルダメージって奴ね」

「「いや、許容出来てないからね」」


 それから色々と話を重ねたが、打開策など出ず、どうしようも無い現実が突き付けられるだけだった。


 父は項垂れて、悔し気に拳を握る。


「くそ、こんなギフトを授けるとは、神も仏も無いのか!!」

「いえ、神か仏が居るから、ギフトなんて授かったんだと思いますが」

「こんな時に正論を言うな!」


 確かに、この場での正論は言った所で相手を逆撫でるだけだろう。

 正論を言ってはいけない場合と言うのは、確かに存在するのだ。


「とにかく、オラツィオのケアを第一にして、立ち直ってから他の事は考えよう」

「そうですね、本人が立ち直らなければ始まりませんし」

「そうね。

 でも、オラツィオもあなたくらいスチャラカに生きて行ければ良かったのだけどね」

「スチャラカは古いです、母さん」

「「え!?」」


 父と母から驚かれた。




 家族会議は終わり、オラツィオの部屋の前に来た。


「オラツィオ、僕だ、入るよ」


 声を掛けて部屋に入ると、ベッドに腰かけて真っ白に燃え尽きたオラツィオが居た。


「どうしたんだオラツィオ、いつものお前らしくないな」

「へっ、どうしたもこうしたも有るか。

 兄貴だって分かってるんだろ、俺はもうお終いなんだよ」

「お終いって、まだ人生ライフゲージ半分以上残ってるんだから、何とでもなるだろ」

「俺は兄貴みたいにスチャラカホイな人生送れはしないんだよ!」

「スチャラカホイも古いから」

「え!?」


 弟にも驚かれた。


「それで、ギフトの事なんだけどさ」


 ビクリとするオラツィオ。


「そんなに気にするなとは言えないけど、気に病むなよ」

「いや、どう考えても病むだろう、だって名前にうんこ付いてるし」

「そうだな、うんこって病原菌いっぱいらしいからな」

「そう言う意味じゃねえよ」

「じゃあどう言う意味だよ」

「……兄貴には俺の気持ちなんて分からねえよ」

「そうかも、知れないな」


 繊細なオラツィオは、図太い神経の僕と反りが合わず反発されていた。

 もう少し理解してやりたいのだが、図太いらしい僕にはどうしても理解出来なかった。


「だけど僕のギフトもずんどこべろんちょなんて訳の分からないものだよ」

「訳の分からないのならまだ良いんだよ、正体が分かってる上で嘲笑の対象になる俺は、俺は、どうすれば良いんだよ……」

「人生笑ったもん勝ちだぞ」

「それが図太いって言うんだよ! 何だようんこち〇ちんって! 笑えねえよ!」


 そうオラツィオが言った瞬間だった。

 僕は勝手にしゃがんで腰を屈め、立てなくなってしまった。


 いくら立とうとしても、神の意志が働いたように腰が動かない。

 そのうち、尿意と便意とが湧き上がり、どうしようもなくトイレに行きたい気分になった。


 そんな僕を見て訝しい顔をするオラツィオ。


「何やってんだよ」

「オラツィオ、多分お前のギフトが発動した……」

「は!?」

「ごめん、動けないからトイレまで連れてって、凄い尿意と便意が」

「待て待て待て! 絶対にここで漏らすなよ!」


 中腰の僕を担いだオラツィオがトイレまで運んでくれたので、何とか粗相を回避出来たのだった。




 この後、ギフトを使いこなすようになったオラツィオは戦場で全員を中腰にさせ、戦争を回避させたりする活躍をした。

 大部分に感謝され、一部に深い傷跡を残す事になったオラツィオを人は畏敬を込めてこう呼んだ。


 うんこ〇んちんのオラツィオと。


兄弟や仲間で主人公以外だけよさげなギフトやスキルを授かる話が有ったので、

逆に両方ともアレなのが来る話が流行るのではと思って作りました。


ところで、ずんどこべろんちょって何でしょうかね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『ずんどこべろんちょ』の語感が気に入りました。声に出して読みたくなる日本語ですね。この能力で無双してほしいですね。弟とともに。
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