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第七話 天照大御神


 翌日、赤鶏武は愛宕太郎坊天狗と富士山太郎坊と鞍馬天狗の前に立っていた。


「‥嘘?」


 目の前に刀が現れたのでとりあえず取ってみたのだが、しかし、想像と違った。てっきり筆記試験だと思ったのに、まさか妖怪が出て来るとは思わなかった。こんなことなら意地張らず試験内容聞いとけばよかったと後悔した。


 鞍馬天狗は大きく手を広げる。すると上空に火の玉が一つ、二つ、三つと段々増えて来る。


「では行くぞ!」

「‥あ‥はい?」


 無数の火の玉が一気に赤鶏武に向かった降ってきた。


「うわわわ‼」


 赤鶏武は転がる様に横に逃げた。


「死ぬ!ホントに死ぬ!」


  えっ?なに?

  昨日の百八が言った死ぬなは本気だったの?

  これやばいって!


「どうした?逃げてばかりか?」


「そんなこと言っても!」


 火の玉は壊れた大砲の様に途切れることなく赤鶏武を狙う。


「ちょっと、待って!ちょっと~」


 赤鶏武は部屋中を転げまわる様に逃げる。


「どうした!どうした!これしきの事で?」

「クソ!」


 赤鶏武は刀を抜いて鞍馬天狗に切りかかるが足が何かに絡まる。見ると足に蛇が絡まって赤鶏武の動きを止めていた。


「何だこれ!クソ!こんなの勝てるわけない!」

「貴様は魔物相手に泣き言を言うのか?昨日の小僧は無数の刃も恐れず向かってきたぞ?貴様はどうだ?どうする!さあ、逃げるか?戦うか!」


 鞍馬天狗は自身の刀を抜いて構える。


「昨日?百八が?」

「逃げたいなら逃げろ!止めぬ!それもまた良し!」



     「逃げる?」



 赤鶏武の足が後退りする。 


  駄目だ‥勝てる気がしない。

  やっぱり俺じゃ無理だった。

  勢いだけでどうにかなるものじゃなかった。


「こ、こうさ‥」


 降参する。

 そう口に出そうとしたが声が出なかった。

 手足は震えて涙が滲んできた。


「‥俺は」

「戦場で泣くとは笑止!いっそのことここでとどめを刺すか!」


 鞍馬天狗の刀は燃え上がり赤鶏武に切りかかる。  



   「逃げない!」



 鞍馬天狗の刀を受けて鍔迫り合いになる。


「む?こやつ?」


 赤鶏武は口を震わせ歯はガチガチと音を立てる。


「怖くない!怖くない!怖くないぞー!やってやる!わああああ!」


 赤鶏武は刀を無茶苦茶に振るが鞍馬天狗には当たらない。


「気迫だけでは勝てぬぞ!愚か者!」


 鞍馬天狗は手を叩く。

 瞬間、世界は暗くなる。

 赤鶏武の周囲は真っ暗になった。

 視界は奪われ鞍馬天狗の殺気があらゆる所から刺さってくる。呼吸が乱れて冷たい汗が全身から溢れる。


「クソ!クソ!」


 破れかぶれで四方八方に刀を振り回すが虚しく空を切った。


「ハアハア‥取り乱すな!俺!」


 鼻から吸って口から息を吐いて必死に呼吸を整える。


「すーはー‥」


 呼吸を落ち着かせたものの、どうする事も出来なかった。

 剣術の経験もない。

 度胸も無い。

 ただ切られるの待つだけだった。


 だかそれでも赤鶏武は勝負を諦めなかった。

 忍海百八に追いつきたい。

 そして、家族を守りたかった。

 しかし、気持ちだけではこの局面を打開することはできない。

 

  どうすればいいんだ!

  神様!神様!


 DNAに刷り込まれているのだろう。人間は追い込まれると神の奇跡にすがりいてきた。切なる祈りは身分関係無く神は決して見捨てない。そう、古今東西人知を超える奇跡を数多の人類が体験してきた。


  もっと強くなって

  家族を守りたいんだ!

  だから負けられない!


「神様ー!家族を守りたいんだ!助けて!」


 心の声が口から溢れて言霊になった。

 古来、言葉には神が宿ると言われている。

 故に言葉にしたことは善し悪し関係なく現実に顕現する。


「終わりじゃ!」


 暗闇から鞍馬天狗の声が後ろから聞こえた。見えないがきっと刀を振りかぶっているに違いない。

 死ぬ!そう直感した。

 がしかし、暗闇の空間が突然に強い光が部屋全体を包んだ。


「ぬ?なんだこれは?眩しい!目が見えぬ!」


 赤鶏武も驚いた。部屋全体を包むほどの光を発する刀が手中にあったからだ。


「これは?」


 答えは直ぐに来た。それは腹の底から言葉となって浮かんできた。


      ‥‥天照大御神!


「天照大御神?」


 刀は更に強く輝く。


 赤鶏武は後ろを振り向くと鞍馬天狗の幻術が解けて天狗達が目をつぶってうろたえていた。


「馬鹿な!まだ降神の儀を取り次いでない!神が自ら来たと?」


 赤鶏武は鞍馬天狗に刀を向ける。


「わかった。降参する。貴様の勝ちだ。合格だ!だから光を弱めてくれ?目が開けられぬ」

「あ?えっとどうやって?」

「平常心じゃ!」

「平常心?‥こうかな?」


 赤鶏武は目をつぶって心を落ち着かせると光は次第に弱まり普通の刀になった。


「ふう、たまらんわい。しかし、これは驚いた!」


 赤鶏武は刀を鞘に納めると刀は鷹の爪のような形をした真っ赤な指輪になった。その指輪には鷹の羽があしらわれ太陽の紋章が刻まれていた。そして太陽の中心には一キャラット程のダイヤが付いていた。 


「刀が指輪になった?なにこれ?」

「それは神刀。本来、降神の儀にて神から許された者のみ授かる刀なのだが‥ふむ。随分神に好かれたよだな。あっぱれ!」

「これどうすれば?」

「持っていればよい。普段は宝飾として身に着けておれ。街中で刀を持ち歩くわけにもいかぬでな」

「はあ、解りました‥」

「まさか、このようなことになるとはいやはや」

「合格でいいんですよね?」

「勿論。今日は帰宅してよろしい!」

「よし!」


 赤鶏武はガッツポーズをとる。


「では、また会おうぞ!」


 富士山太郎坊と愛宕太郎坊天狗は手を叩くと姿を消した。上空から合格通知書が降ってきた。


「やった。本当に合格したんだ!やったぞ!」


 赤鶏武は文字通りスキップして帰った。天気も晴天で心は晴れやかだった。その足でそのまま忍海百八の自宅に伺った。今日も道場の方から活気のある声が響く。道場に入る門はスルーして本宅のチャイムを鳴らす。


「はーい、どなた?」


 いつも元気で可愛い声の忍海千依の声がイヤホン越しから響く。


「こんにちは。赤鶏武です」

「あら、ちょっと待ってて」

「はい」


 と言った途端、玄関が開いて忍海百八が出てきた。


「どうだった?」


 赤鶏武は間を開けて落ち込んだフリをする。


「‥駄目か?」


 赤鶏武は忍海百八の顔色を窺ってニコリと笑う。そしてピースを忍海百八に向ける。


「‥馬鹿、脅かすなよ!そうか!やったな!」

「うん!」

「上がれよ!」


 二人は忍海百八の部屋で簡単な祝賀会を開いた。テーブルの上にはコーラやポテトチップスなどが散乱した。


「それで?どうだった?」

「まさか、天狗が出るなんて思わなかったよ」

「だよな!あれ反則だぜ!しかも、妖術なんて使うからビビった」

「うん。ホント死んだと本気で思った!」

「でも、よく合格できたな?武、剣術の経験無いだろ?」

「これのお蔭だよ」


 赤鶏武は天照大御神の指輪を見せる。実はこれを見せたかった。話したかった。端的に言えば自慢したかった。


「これは?」

「天照大御神から授かった指輪だよ」

「‥?」

「もう、死ぬって時に神様助けてって叫んだら部屋中明るくなってさ。気が付いたら手の中に光輝く刀があったんだ。それで天狗さんが眩しくなって幻術が解けて降参したんだ」

「‥へ~」


 忍海百八は正直、よく解らなかった。


「それ、刀になるのか?」

「うん、そうみたい?」

「へ~、みせてくれよ?」

「へへ、いいよ。ちょっと待ってて。いくよ!」


 忍海百八は息を呑んだ。赤鶏武は指輪に意識を向けるが何も起きない。


「あれ?」

「神様?もしもし?神様ー?もしもーし!天照大御神様~?助けて~?アレ?お~い?」


 形だげ祈りのポーズをするが反応は無い。


「‥おい?まさか‥?」

「いや、マジだって!ほら、合格通知だってあるぞ!」

「ホントだ!」

「あっれ~?」


 指輪を振ってみるがうんともすんとも言わない。


「しまった~、天狗さんに使い方聞いとけば良かった!」

「あっ!だったらオヤジに聞いてみるか?今昼時だからリビングで休憩してるかも?」

「ほんと!助かる!」

「よし!行こうぜ」

「うん!」


 二人は急いでリビングに降りる。その頃、忍海千依と忍海豊城が昼ご飯を食べていた。


「あなた。どう?美味しい?」


 忍海千依は慈愛の目で見つめる。忍海豊城は無言で食べていたがピタリと箸を止めて忍海千依の頬の手を近づける。


   えっ?


  なになに?豊城さん、

  なに?キス?

  ここでキスなの?いけないわ。


   キャ!


  二階には子供達がいるのよ!

  駄目よ!豊城さん!

  ああ!

  でも少しだけなら‥。

 

  とそう思いながら目を閉じる。


 忍海豊城の手は頬を通過して髪に付いているゴミを取る。


「ゴミ、付いてたぞ?」


 我に返る忍海千依。


「えっ?ゴミ?ああ、ゴミ!そう、ありがとう、あなた‥」


 恥かしさを誤魔化す為に髪を手櫛する。ちょっと、期待したした分ガッカリした。


「髪柔らかいな。‥柔らくて‥綺麗だ」


 若干、顔を赤らめて照れ隠しに昼ごはんを食べ続ける忍海豊城。


「へぇ?」


 間抜けな声を出して忍海千依の時間が止まった。思考が停止した。そして、秒針が動きだす。


  きゃー--------------------------!

  旦那様が萌えたー!

  なになに!どうしたの?何があったの?

  今日の旦那萌えは最高よ!

  ああ、駄目よ失神しちゃ駄目!頑張れ私!

  これは拡散しなくちゃ!

  世界に私の旦那様を広めるのよ!

  ああもう好き!豊城さん!


 素早く携帯を取り出してTwitterに上げようとしたら、忍海豊城が携帯を奪って止めた。


「え~豊城さ~ん?駄目?」

「俺はお前だけで十分だ」


 この一言で忍海千依に火が付いた。


「ねえ、あなた‥」


 忍海豊城の手を握る。そこに二人が降りてきた。


「オヤジ!いるか?」

「こんにちは!おじさん」

「ぎゃあああー-!」


 慌てて手を後ろに回す、忍海千依。


「なに、なに?どうしたの?百八ちゃん?」

「オヤジ!この刀の扱い方教えてくれ!」


 忍海豊城は赤い指輪を見て目を見張る。


「それは神刀‥か?どうしてそれを?」

「それは‥」


 忍海百八はこれまでの事を説明した。


「そうか。そんなこともあるのか?」

「オヤジの時代はどうだった?」

「いや、無い。神から降りて来るか‥興味深いな」

「それで、どうしたらこれ扱えますか?全然反応しなくて?」

「簡単だ。神は愛そのものだ。故に愛の思いに感応する」

「愛‥ですか?」

「試してみろ。誰かを助けたい。守りたいと心中祈り神の名を口ずさめ!」 

「はい!」


 赤鶏武は目を閉じて家族を守りたいと願い神の名を呼ぶ。


「天照大御神!」

「天照大御神だと?」


 赤い指輪は光輝き刀となる。


「出来た!やった!」

「まだ、遅い。瞬時に刀に変化出来る様に神との距離を縮めろ。でないと敵にやられるぞ。それにしても天照大御神とは‥」

「オヤジ、すごいの?」

「歴代の剣術士で天照大御神、月読之命、素戔嗚尊。この三貴神と感応した者はいない」

「すげえ~」

「あの、おじさん!俺に稽古をつけてくれませんか?ただ、その‥知っての通りお金がないので、でも必ずお金は用意します。だから、お願いします。俺、今回の入学試験で自分がどれだけ足りないかが解りました。だから、お願いします。聞けばおじさんは元隊長で段位十段・天之位なんでしょ?力を貸して下さい」


 深々と頭を下げる、赤鶏武。


「オヤジ、俺からも頼む!」

「‥あなた?」

「‥わかった。俺の全てを叩きこむ。夜時間を空ける。学校が終わったら来い!」

「ありがとうございます」

「百八、お前もだ!」

「えっ?俺もいいの?」

「ついでだ」

「やった!行く行く!」

「金も要らん」

「いいんですか?」

「構わん。これは俺とお前達との真剣勝負だ。金は心を曇らす」

「何から何まですみません」

「その代わり命を捨ててこい。明日から始めるぞ!いいな?」

「はい!」


 忍海百八と赤鶏武は返事が重なった。明日は少名館降神剣術校の入学式。期待に胸膨らませ忍海百八と赤鶏武は別れた。

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