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第五話 忍海百八の天狗試験

 忍海百八は馬鹿みたいに口を開けながら目を丸くする。


「え?あの?えっ!」


 中央の天狗がやつでの葉を扇ぎながら口を開く。


「ようこそ。少名館へ。私が試験官を務める鞍馬天狗だ」

「右に同じく。試験官の愛宕太郎坊天狗である」

「左に同じく。富士山太郎坊と申す」

「し、忍海百八です」


 とりあえず反射的に一礼した。


「うむ!」


 真っ赤な顔に長い鼻。それと体全体を覆うほどの白い髭をはやしてどっさりと座っていた。さっきまでいた試験担当官が鞍馬天狗だったようだ。


「では試験を開始する」

「はい。よろしくお願いします」


 現状についていけない忍海百八は軽いパニックになりながらも目の前の事になんとか対応しようと努めた。


「試験はいたって簡単。我と斬り合え!」

「はい!‥えっ?」


 またまた目を丸くする忍海百八の目の前に一振りの刀が突然現れた。


「さあ、その刀を手に取るが良い。それが開戦の合図だ!」


 忍海百八は考える前に刀を取った。


「一切の迷い無し!良いかな」


 鞍馬天狗は自身の刀を抜いて構えようとする前に忍海百八は鞍馬天狗に切りつけたがヒラリとかわされた。


「ほう!ほう!訓練されとるな。さすが豊城の息子。成程、成程!どれどれ」


  奇襲が失敗した!

  クソ!

  オヤジとの練習を思い出せ!

  オヤジならどうする?


「次は我から行くぞ!ほれ!」


 鞍馬天狗は自身の刀を空に投げると刀は意思を持つ様に忍海百八に飛んで来る。


「なんだよそれ!無茶苦茶だ!こんなの習ってないよ!」


 忍海百八は何とかかわすがまるで軌道が読めず鞍馬天狗に近づけないでいた。


「そう、魔物と戦うとはこういう事ぞ!ほれ、もう一本」


 刀は二本に分裂して左右から襲ってきた。


「ずりい!」


  これが魔物との戦い?

  オヤジはその隊長だったのか?

  ホントバケモンだよ。オヤジは!

  なら俺はそれ以上のバケモンになる!なってやる!


 忍海百八は鞍馬天狗に向かって真っ直ぐに突っ込んだ。


「勝負を諦めたか?仕方なし」


 鞍馬天狗は更に刀をニ十本に増やした。そして、そのすべてが忍海百八に向って飛んできた。その全ての刀は忍海百八の全身に刺さった。


 鞍馬天狗は手を合わせて合掌した。


「哀れ!」


 がしかし、忍海百八は止まらなかった。全身に刀が刺さった状態で鞍馬天狗に突っ込んで来る。


「なんと!凄まじい胆力よ!」


 忍海百八の切っ先が鞍馬天狗の喉元を貫いた。


「見事!」


 ハタと我に返る。忍海百八はパニックになった。


「や、やべ~どうしよう!殺しちゃった!殺しちゃった!わわわwwww」


 富士山太郎坊と愛宕太郎坊天狗は笑ってパンと手を叩く。すると目の前いた鞍馬天狗が消えた。忍海百八が持っていた刀と自身に刺さっていた刀も消えていた。


「アレ?消えた?えっ何これ?」

「どうじゃ、痛みは無かろう」


 自身に刺さっていた刀を確認してみたが外傷はないし痛みも無い。周りを確認すると鞍馬天狗はその場から動いておらず椅子に座ってニコニコと笑っていた。


「何?どうなってるの?」

「どうじゃ?妖術にかかった味は?わはははっ」

「今のが全部幻覚?嘘?いつから?」

「ぬしが部屋に入ったときからぞ!これが魔物との戦いだ。ここで心が折れるなら仕方なし。さて、どうする?引き返すか?」 

「進むに決まってる!」

「迷い無しか。合格!」

「よし!」


 忍海百八はガッツポーズをとった。しかし、幻術にかかっていたとはいえ、一人でドタバタと立ちまわっていたと思うと恥ずかしい気がする。

 それを察した鞍馬天狗は妖術で先程の立ち回りを映像として見せた。そこには忍海百八が一人でパニックになっている姿が克明に映し出された。


「わわああ、もういいから止めて!」

「わははははっ」


 鞍馬天狗と愛宕太郎坊天狗と富士山太郎坊は爆笑した。


「いや、愉快、愉快。これは仕返しぞ。ワシの喉元を刺したのだからな」

「幻術ならいいでしょう?じゃなくて、いいじゃないですか!」

「今年の生徒の中で本当に刺しに来る彼奴はお主だけだったのでな。まあ、許せ!」


  なんだろう。合格したのに嬉しくない!

  むしろ敗北感半端ない。


「では、明日改めて来い。手続きはその時に。よいな?」

「それも幻覚でなければ?」

「カッカッカッ!言いよるわ!勿論真実現実嘘偽り無しじゃ」

「あと‥」

「ん?」

「天狗って本当にいたんですね!」

「今更か!ワハハッではまた会おう!」


 鞍馬天狗が手を叩くと目の前いた天狗達は消えた。その代わりにヒラヒラと紙が落ちてきた。忍海百八はその紙を手に取る。それは合格通知書だった。どうやら本当に合格したらしい。腰が砕けてその場に座り込む。


「何とか合格したぞ!ちくしょう!」


 大の字になって一息ついてから家に帰ることにした。



 家族で夕食を食べているとその話題になるのは必然だった。


「もう、幻術なんてずるいよな」

「でも、合格しんでしょ?凄いわ。ねぇパパ?」


 忍海豊城は返事はせず構わず食べ続ける。


「なあ、オヤジはどうやって合格しんだ?」

「簡単だ。本人を叩いてやった。それだけだ」

「えっ嘘?つまり幻覚を見破って更に本体に一本入れたってこと?」

「そうだ」

「そうだって簡単にいうけどさ。あれわかんないよ?マジで!」

「本体は一つ。ただそれだけだ」


  この人、人間か?ホントにバケモンだ!


「それに、オヤジなんでも天之位ってやつなんだろ。最高位だって」


「昔の話だ。それより、大丈夫なのかお前の体質は?克服したのか?」


「いや、まだ。なんだろうなホント。自身から出る火もおかしいけど、それを見ると気を失うってさ」

「なんであろうと気をつけろ。迂闊に使うな!使うときは追い込まれたときだけにしろ」

「ああ、解ってる!」

「でも、便利よね。火が出せるなんてガス代かからないじゃない?私も欲しいわ!」

「その度に気絶は勘弁して!」

「それもそうね?フフッ」


 忍海千依は上品に口に手を当てて笑う。


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