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第十二話 偽列車編③

 先頭車両へ走る忍海百八は腕時計を見ると時間は四時十五分になっていた。


「げ!いつの間に?入って三十分くらいに思ってたのに?もしかしてこの中、時間空間が歪んでる?クソ!あと十三分しかないぞ!急がないと!」


 黒い手を切りながら走る忍海百八は先頭車両に着いた。


「やっぱり、外が正解!」


 忍海百八は機関室の様子をうかがう。

 機関室には先程の三人と更に男女十人くらいが捕まっていた。

 機関室中から這い出る複数の黒い手は女を掴む。


「嫌!助けて!お願い!助けて!何でもするから!お願い!」


 黒い手に掴まれた女は涙を流して同じく捕まっている男を掴む。


「助けて!」

「やめろ!離れろ!行くなら一人で行け!」


 泣きじゃくる男は女を蹴り上げる。


「いやー!」


 忍海百八は機関室に急いで入り込み黒い手に切りかかるが遅かった。

 黒い手は焚口戸たきぐちどに女を放り込む。


 女は苦しみ燃え上がる。


「嫌あああああ~!」


 速度計と圧力計は壊れた様にクルクルと回る。

 汽笛は大きく鳴り響き赤い煙が勢いよく上がる。

 

 そう、赤い煙は人間の血だった。


「コノヤローー!」


 忍海百八は焚口戸に切りかかるが鉄故に鈍い音が響き跳ね返される。


「固っ!」


 何度も切りかかるが少し傷が付くだけでダメージになっていない。


「頑張れ!少名館!」

「頑張って!お願い!助けて!」


 捕らわれた人間達は応援する。

 

  わかってるよ!俺だって助けたい!

  でも切れないんだ!

 

  何で切れない?

 

  ここが本体じゃないのか?

 

  違うのか?


  いやそんなはずない!

  きっと俺が弱いからだ!鉄が切れない俺が弱いからだ!

 

 機関室は歪んで化け物の顔になった。焚口戸は火を吐きながら大きな歯と牙が生える。速度計と圧力計は目となり忍海百八を睨む。


「おでの食事を邪魔するな!ボケが!」


 黒い手は部屋中のパイプを掴み取り忍海百八に襲い掛かる。

 忍海百八は最初は刀で応戦していたが手数が追い付かず次第に足に腹にパイプが次々とめり込む。

 忍海百八はたまらず膝を付いて身を丸くする。


 「あ~腹へっだ~」


 複数の黒い手がまた、男女一人ずつ捕まえる。

 

「やあー-!止めて!お願い!」

「おい!助けろよ!お前少名館だろ!早くしろ!愚図!」


 男女はジタバタするが逃げられない。


「人間は生が美味しいって知ってるか?」


 徐々の口に近づける。


 忍海百八はパイプに殴られて動けない。


「止めろー-!」


 まるでお菓子を食べる様にポイと赤々と燃える口の中に男女を放り込んだ。


「や―――!」

「うわあああ!」!」


 男と女は丸焼きにされながらかみ砕かれる。


「うま‥うま‥」


 肉は裂かれ骨は砕かれ血と悪臭が口から溢れて来る。


「お前は旨いかな?」


 黒い手が忍海百八を捕まえる。

 

  駄目だ!殺られる。


「百八!」

「忍海君!」


 宇賀神美月と紀之兎出水が間に入る。

 宇賀神美月の反射速度は新入生の中ではずば抜けていた。入試試験での鞍馬天狗の攻撃をかわして一本取った一人である。少名館に入学出来る者は何か人より抜きんでている。

 宇賀神美が全ての攻撃を弾くその間に紀之兎出水が忍海百八を救出する。


「大丈夫?忍海君?」

「‥大丈夫だ!行くぞ!」

 

「やあ――――!」


 紀之兎出水と忍海百八で同時に切り込むが鉄を切る事が出来ず弾かれる。


「いでえ~な!ごら!」

 

 焚口戸である口から火を吐いた。


「どいつもこいつも喰ってやる!」


 また、黒い手が捕まった男女に伸びる。しかし、忍海百八、紀之兎出水、宇賀神美月が防ぐ。


「逃げろ!」


 忍海百八が捕まっていた男女に叫ぶ。


「でもどこに?」

「後ろの車両に早く!」

 

 我先に後ろの車両に逃げていく捕まった男女達。


「ここはおでの腹の中!逃げたって無駄だ!」

「知るか!鉄クズ!」


 忍海百八は魔物の目を切る。


「いでえええ!いでえええよおおお!」

「きいた!皆!目だ!目を狙え!」

「わかった!」


 次々襲ってくるパイプの嵐を紀之兎出水は踊る様に避ける。プロ野球選手を父の持つ紀之兎出水の才能は動体視力が優れていることだった。


「やあ―――!」


 紀之兎出水が目を突く。

 目が見えない魔物は四方八方に攻撃するが忍海百八達は難無くかわす。

 忍海百八は痛む体も忘れて全ての目を切り落とす。


「ぐそ!見えね!何も見えねぞ!」


 そして、三人で焚口戸付近を切りつけるがやはり弾かれる。


「だめ!固い!」

「もう。おこっだど!」


 機関室中の温度が上昇し始める。

 

「熱っ!何してんのよ!コイツ!」


 魔物の口から高温の火が溢れる。


「おい!なんか仕掛けてくるぞ!」

 

 宇賀神美月は時計を見ると四時二十二分を指す‥残り五分。


「時間ないよ!二十八分まであと五分!」

「俺達が止めるしかない‥よな?」

「‥どうやって?」


 次第に機関室は赤く膨れ上がる。所々から蒸気が音を立てて勢いよく漏れる。

 

「駄目だ!無理!後ろの車両に逃げろ!」

 

 紀之兎出水、忍海百八、宇賀神美月は振り返り逃げるが‥宇賀神美月が足を取られて転ぶ。


「何やってる!美月!」

「うるさい!ちょっと転んだだけよ!」

 

 宇賀神美月は起き上がろうとしたが足が動かない。不思議に思い足元を見ると今まで食い殺されて霊が宇賀神美月の足にしがみついていた。その中に先程のYouTubeの男達もいた。


「イタイ‥タスケテ!」

「アツい!イタイ!」

「ソノカラダホシイ!クレ~」


 「ちょっと!離してよ!」


「ヤダ!ヒトリニシナイデ」

「コッチニキテ!」

「アナタモコッチニ‥ミンナデクルシモウ」


「一人で苦しめ!馬鹿!離せ!」

 

 切っても切っても次々に湧いてくる。


「美月ちゃん!」


 紀之兎出水が助けに戻る。


「出水、来ちゃ駄目!逃げて!」

「いや、絶対助ける!豊城隊長みたいになるんだから!」

 

 足元に湧く霊を切りつける忍海百八。紀之兎出水は宇賀神美月を引っ張るが動かない。

  

「クソ!離れろ!」

「二人共!早く逃げろ!死ぬぞ!」

「や!諦めない!」

「お前も一緒だ!」

「馬鹿!」


 機関室のたまりにたまった熱であらゆるネジが蒸気で弾ける。


「気持ち悪い連中だぞ!安心じろ、ひどりも逃がすきはねえ!死ね!」


 魔物の口から濁流の様に火が溢れて三人をあっという間に飲み込む。

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