第十一話 偽列車編②
汽車は赤い煙を上げて汽笛を鳴らしながらホームに止まる。
「ウソ!」
「山手線に汽車が走ってる‥すげぇ!」
「ホントに止まった!」
「乗るの?夏希ちゃん?」
「う゛‥ん~ん、正直気持ち悪い‥」
「ほら、乗ろうぜ!」
忍海百八は既に乗り込んでいた。
「百八、あんた‥馬鹿なの?躊躇無いわね?あんたのそういうとこホント凄いわ!」
宇賀神美月は呆れて力が抜ける。
「まあ、まあ、時間も無いし乗ろよ!」
「よ~し、やるから!豊城隊長私やるから空から見守ってて!」
遥か上空の星空に流れ星が落ちるのが見えた気がした。忍海豊城が笑っている映像が紀之兎出水には見えた‥気がした。
「オヤジ死んでないよ?」
「気持ちの問題!」
「漫才かよ!」
「このチーム面白いね!あはは!」
白髪部夏希達は様子を見ながら慎重に乗り込む。
「気にしすぎじゃねぇ?」
「鈍感男子はモテないよ?」
宇賀神美月の指摘に忍海百八は白髪部夏希を見る。
「何?」
「いや、何でも」
お互いに鈍感だった。
扉が閉まり汽笛を鳴らして動き出す。次第に暴走列車はスピードを上げる。
「流石に誰も乗ってないね?」
紀之兎出水はオドオドしながら列車を見渡す。
「そんな馬鹿はこいつだけ!」
宇賀神美月は顎で忍海百八を指す。
「お前等も乗ったろ!や~い!ばーか、ばーか!」
「ぐっ!なんかコイツに言われるとスッゴイ腹立つ!馬鹿はアンタでしょ!ばーか!ばーか!」
「とにかく、先頭に行ってみましょう!各自抜刀!警戒しつつ前進!」
白髪部夏希の顔付きが隊長の顔に変わる。皆、空気を感じ取り指示に従い抜刀して互いに距離を取りながら次の車両に進む。
「あ‥更に馬鹿発見!」
宇賀神美月が乗客を発見した。車両の片隅で震えている三人の若い男が肩を寄せ合いなら座っていた。白髪部夏希が近寄る。
「ひい‥!」
「大丈夫!私達、少名館の者よ。怪我は無い?」
「少名館!た、助けて!仲間が‥仲間が‥」
「何があったの?」
「お、俺達YouTubeに動画上げようと思ってこの列車を撮ってたら俺達の前で止まったから‥」
「おれは止めようって言ったじゃんよ!なんでこんな目に!」
「うっせえな!お前がバズるからって提案したんだろが!」
「もう、喧嘩は止めて!それで?」
「‥そ、それで、乗ってみたらいきなり‥」
突然、前の車両の扉が開く。
「うわあああ!」
大量の黒い手が三人の男達を掴み前の車両に引きずり込む。忍海百八は黒い手を切りつけたが一本ニ本切ったところでは意味が無かった。
「クソ!多すぎる!」
「助けて!」
男達は手を突き出すが真っ暗な先頭車両へと引きずり込まれた。
「人間だ!肉だ!燃料だ!燃やせ!燃やせ‼もっと多く!もっと早く!」
どこからともなく地獄の底から響く暗い声が複数人の声と合わさって語り掛けて来る。汽笛が大きく鳴り響いた!
黒い手が窓の外から地面から天井から襲ってきた。
「武ちゃん!」
雷を模したブレスレットのプレートに刻まれた雷武の文字が光輝き刀に変化する。バリバリと電流をまとった神刀は白髪部夏希の一振りで刀身が雷に変わり放射線状に放電する。黒い手は霧散して消えるが次々と現れ襲ってくる。
「すげえ!あれが神刀‥」
忍海百八は白髪部夏希の抜刀姿に見惚れる。
「キリが無い!皆聞いて!私は後方を支援する!三人は急いで先頭車両に救出に向かって!」
「了解!」
三人は黒い手を切り進んで次の車両に進む。
「さてと、これで思う存分やれるね!武ちゃん!久しぶりにフルネームで呼んじゃう?」
黒い手が四方八方から襲ってくる。
「武御雷・散!」
車両中に電流が放電して天井が吹っ飛ぶ。
「さずが武ちゃん!ドンドン行くよ!」
三人は前へ前へと進むが一向に先頭車両に着かない。
「なあ、おかしくないか?さっきから先頭車両に着かないぞ?」
「そうね。確かにおかしい!四両車両だったはず。もう、着いてもおかしくないのに?」
「もしかして、ループしてる?」
「まさか?‥でも有り得るの?」
「一旦、常識は捨てようぜ!」
「そうね!で?どうするの?」
そう相談してる間も黒い手は襲ってくる。
「これじゃ、先頭車両に着く前に体力無くなるじゃない!」
忍海百八は窓を開ける。
「まさか、忍海君‥?」
「じゃあ、行ってくる!外からなら着くだろ?」
「ちょっと。何勝手に!」
忍海百八はサッサと外に出て上に上がる。
「百八!あんた!もう勝手に!」
「私も行く!」
「出水、アンタまで?」
「だって、それしか方法が無いもの」
「そうだけど‥」
「私だって、少名館の剣術士!忍海君に負けてられない!」
「そりゃそうだけど‥」
宇賀神美月の脳裏に母の姿が浮かぶ。
紀之兎出水は外に半身を出す。幸いなことに白髪部夏希の攻撃でスピードが落ちていた。
「よ~し!」
紀之兎出水の肩に手をかける宇賀神美月。
「待って!私も行く!一緒に行こう!」
「うん!行こう!」
深夜の山手線で汽笛が響く。